お狐様、駒込に行く3
なんだかこう、物凄く判断に困る。此処はどういうダンジョンなのか? あの敵はどういう系統なのか。狐火が当たったときに飛び出た数字は何なのか。パッと見の危険性は無さそうだが、エリを連れてきた方がいいのか? しかし、訳が分からないだけに危険性が判断がつかない。
「うーむ……」
イナリは悩んで首を傾げ……やがて「うむ」と頷く。
「ひとまず進んでみるかの。分からんだけなら害はないじゃろ」
ひとまず致死性の罠はないようにも見えるが、こんな場所ではそれも絶対とは言えない。だからこそ先へとイナリは歩き出し……そのイナリの眼前に今度は緑色に光るノイズのローブ姿の人型が現れる。やはり昔のゲームの画面から飛び出て来た魔法使いのような、そんな姿をしているそれは、緑色の炎をバオン、という音とともに放つ。
「ぬっ!? って、なんじゃあ!?」
イナリは結界を展開し弾くとイナリの頭上に0というポップな数字が飛び出て消えていく。意味が分からない。分からないが……狐火をモンスターにぶつければ、975という数字を発生させノイズになって消え去っていく。そうしてその場に落ちたのは魔石ではなく……1枚のカードだ。
「む?」
近寄って拾い上げれば、それは子供たちがよく遊んでいるカードゲームのそれにも似ている。裏面には「電脳ウォーズ」と書かれているが……表面には先程のモンスターの解像度を上げたかのような、そんなイラストが描かれている。
【ノイズマジジャン『コスト1』『中距離』『2/1』電脳世界の魔法使い。ノイズファイアーは未来の力だ!】
「……訳が分からんが……こういうのは近所の子どもとやったからのう。こすとっちゅうのは分かる。分かるが……」
エネルギーを支払うことで戦士を召喚する。それがああいうゲームの基本ルールであり、このカードはそういうのにとても似ている。しかし、このカードでいうコストというのは……?
「……ふむ」
試しに先程手に入れた魔石をカードに近づけてみるが、何の反応もない。
「てっきりもんすたあが飛び出てくるかと思ったがの。考えすぎじゃったか」
とすると、これはただのゲームカード……ということになるのだろうか。まあ、アツアゲみたいなのが増えてもお世話が大変で困るので別に構わないのだけれども。
「ま、帰ったらエリにやるとするかの。こういうのは好きそうじゃ」
あながち間違っていない人物評価をするイナリがまた歩き出すと「ピギャー!」という金切り声をあげながらノイズコウモリが数匹空中に現れ緑色の輪っかのようなレーザーを放ってくる。いや、超音波なのかもしれないが可視化されている以上はレーザーとしか言いようがない。
しかしアッサリイナリに防がれ「0」の数字をイナリの頭上にポップさせ狐火で「1300」の数字と共に爆散していく。その場に転がるのはノイズコウモリと同じ数の魔石だが、先程から魔石の大きさは小さめだ。ゴブリンと同じくらいだろうか?
「今のところ出ておるのは魔石とげえむかあど、か。まあ、これなら争いにはならんじゃろ」
ゲームカードが安全な代物と決まったわけではないが、イナリから見ても「頑丈なカード」でしかない。少なくともモンスターが飛び出てくるわけではないなら、覚醒者協会が適切な流通方法を考えるだろう。
そしてどうやら、此処には妙な罠はない。ならばとイナリの歩く速度も上がり、その度にモンスターを倒し魔石やカードが集まっていく。今のところそれ以外のものは一切出ていない。
「おかしな場所じゃ。とはいえ今のところ危険な要素もないから、そこは救いかのう」
普通に地面を歩けて、空にも海にも放り出されない。なんとも普通……風景は普通ではないが、何の問題もないと言わざるを得ない。イナリがそう考えたとき。ピュン! という甲高い音と共にイナリに光線が命中する。
「むっ!?」
数字の0をポップさせるイナリの視線の先には、このダンジョンの空を飛来するノイズの飛行機……いや、戦闘機らしいものがある。やはり緑色に光っているのは、このダンジョンのモンスターの基本構造だとでも言うのだろうか?
何度も連射される光線はイナリに通用してはいないが、イナリの放つ狐火を実に器用に躱している。戦闘機の見た目に相応しい能力を持っているということだろうか?
「よう避けるようじゃが……」
「ビーム」
「あっ」
999という数字をポップさせ、チュインッと音をたてて消えていく戦闘機。撃ち落としたのはイナリの巫女服から飛び出てきていたアツアゲだ。
「まあ、ええか。ありがとうのう、アツアゲ」
任せろ、と言わんばかりに胸を叩くアツアゲだが、そのままイナリの巫女服の中へと戻っていく。デフォルトサイズでもない最小サイズのアツアゲでも、ビームの威力は充分だ。
「……ふむ? もしやあの数字は攻撃の威力……いや、与えている傷の大きさ、ということかの?」
そう、いわゆるゲームにおけるダメージの概念に似ているようにも見える。ちなみにイナリはそういうのは全くやっていないのでそこまでの発想には到らないのだが……もしかするとアツアゲは気付いているかもしれない。とにかく、それが分かっても分からなくても、少なくとも今のところはイナリの敵ではないようだ。





