お狐様、物件を見に行く
そんなわけで2日後。イナリとエリは一緒に板橋の東京第7ダンジョン前へ来ていた。来ていたが……なんともさびれた場所である。東京第4ダンジョンもそうだったが、ダンジョンが不人気だと町も寂れる傾向があるらしい。此処もバス停はあるが、周囲には建物も店もほとんどない。
「なんともまあ、寂しい場所じゃのう」
「そりゃまあ、そうですよ。何かあったらアンデッドがダンジョンからゾロゾロ出てくるんですから。そんなゾンビアポカリプスみたいなことが起こる場所に住みたい人って、あんまり居ないですから」
「ぞんびあぽ……?」
「ゾンビアポカリプスです。えーと、要は動く死者によって世界の終わりがくるみたいなのでしょうか」
「そのあっぽうかりで世界が終わったわけでも……あー、いや。もんすたあ災害は起こったんじゃったの」
「そうなんですよ。あとアポカリプスです」
「あぽかりぷす」
「はい。で、まあ、えーと。そのときの光景が未だに写真とか映像とかでネットに流れてるらしくて。皆凄い嫌がるわけです」
さながらリアルなゾンビ映画の如し。そんなリアルホラーを見せられたなら、中々そんな場所には住もうとは思わない。たとえ覚醒者協会主導でクランへの大規模攻略の委託が行われていたとしても「突然何かの理由でモンスター災害が起こるかもしれない」と思ってしまえばもう終わりだ。
「しかしのう。他のだんじょんとて同じじゃろ?」
「見た目の問題です。皆動く鎧は見れてもゾンビとか虫とかは見たくないんですよ」
「まあ、なんとなく理解はできる気もするのう」
同時にダンジョンが不人気である理由も理解できるが……まあ、大規模討伐が定期的に行われている限りは一応の問題はない。そんなわけで、今日は別に東京第7ダンジョンに潜る予定はない。
「ついでに行ってみるかの?」とイナリが聞いたら「そうですね!」と言いつつもエリがちょっと震えていたので、空気を呼んでイナリが「そんなついでに行くものでもないのう」と引っ込めたのだ。さておいて。
「さて、では行ってみるかのう」
「そうですね。とはいえこんな場所じゃタクシーもないので歩きですけど」
「そうじゃのう」
とはいえ2人共それを厭うようなジョブでも性格でもない。町中をテクテクと歩いていくと信号はあるものの、行き交う人や車の姿もない。周囲を見回せば閉店になったガソリンスタンドの跡地や、色褪せた「テナント募集中」の看板がなんとも寂しい店舗跡がある。
「お、この建物はぶらざあまあとかのう?」
「あー、色合いがそんな感じですよね。まあ、この辺で買う人ってあんまり居ないでしょうしねえ……」
東京第7ダンジョンの職員は監視所の中に食堂もあるし自動販売機もある。そして周囲には他に何もないとなれば、コンビニが存在する意味もないのだろう。どの建物も空き店舗や人が住んでいない家ばかりであり、空き地も非常に目立つ。「売地」の看板も、何も期待していないかのように色褪せている。
「……世知辛いのう」
「そうですね。というか、この辺普通に暮ら辛いんじゃないですか?」
「かもしれんな」
「月子さん、なんでこんなところを……」
「あー、ほれ。いつかくらんを作るとき用、という話でな? そうするとほれ、色々と誘致が出来るとかなんとか。結果的に地域振興にもなるらしいんじゃよ」
「ああ、そういうことなんですね」
(じゃあクラン作ってないのに普段暮らしには不向きなんじゃ……)
(くらんも作らんのに暮らしにくいのではという顔をしておる……)
まるでテレパシーのように……イナリはテレパシーを使えるがさておいて……エリの気持ちを察したイナリであったが、勿論イナリとて考え無しで板橋に来たわけではない。
「儂とてな? その辺を考えずに来たわけではないんじゃよ」
「はい」
「今後のことを考える上で、色々と物件を見ていく必要があるからの。それに実際見てみれば良いということもあるじゃろ?」
「かもしれませんね。なんだかんだ東京なんですし、地理的には悪くないんですから」
「じゃろ?」
そんな風に明るい言葉を選びながらイナリとエリは目的の建物の前まで辿り着くが……周囲には何もない。大型スーパーらしい建物はあるが、モンスター災害以降は営業を再開していないように見える。というかがっつり閉店している。周囲にも、目的の建物とそれがあるくらいだ。
しかしまあ、良いこともあるにはある。
「古民家を利用したんじゃったか。見た目は良さげではあるのう」
「そうですね。ただ、うーん……」
「ん? どうしたんじゃ?」
「やはりといいますか、最低限の管理しかしていない感じがありますので……結構な補修費用はかかりそうですね」
「ふーむ。まあ、そこは別にいいんじゃが」
使わないお金が溜まっているので、世の中に還元するという意味ではむしろ費用はかけて構わないのだが。
「やはり交通の便の問題はあるのう。何かあったときに人を迎える場所としても、儂が住むにしても不向きじゃのう」
どうにでもなるものだろうと思うし、どうにかなるのだろうが……やはりクランも作らずに使う物件ではない。そういう意味では此処は保留となるだろうが。
「む?」
そんなことを考えているイナリの覚醒フォンに着信音が響き始める。画面に表示された相手は……武本武士団の恵瑠であった。





