お狐様、未来を祈る3
その後の草津の話をしよう。結果から言うと草津での強引な……いわゆる非合法な手段も混ざった買収から始まった今回の事件は、根元から掘り返され始めていた。
非覚醒者社会での問題ではあるが、それが覚醒者社会にも大きな影響を及ぼし、日本3位が大きく力を損なう事態にまで発展したとなると……もはや「非覚醒者社会の自浄作用に任せるべきだ」といったような穏便な論調は覚醒者社会からは消えて失せた。
もう日本からの全面撤退を視野に入れるといったような覚醒者協会からのダイレクトな脅迫ともいえないこともない……脅迫ではなく、あくまで抗議であるがさておいて……とにかく最後通告ともいえる抗議を受けて、もう徹底的な洗い出しが始まった。
結構な大物が何人も逮捕される事態は連日ニュースを騒がせているが、草津から「新住人」が撤退し様々な「売り」……物件に店舗、企業まで……草津が丸ごと売られるのではというような事態にもなった。それはつまるところ、そこまでのことになっていたという病巣の深さをも示していた。
いまのところ、ではあるが……あくまで表面上は何も変わらないように見える。まあ、その話もさておこう。
とにかく草津は今、再度の転換期を迎えている。今後どうなるかは、まだ誰にも分からない。
「それで……結局クランはどうするんですか?」
恵瑠に請われて武本武士団に遊びに来たイナリの髪をいじりながら恵瑠がそう聞けば、イナリは「うむ」と頷く。ちなみに今は三つ編みにされている。
「今は特に作る理由もないのう。ないが……何かあったときに受け皿に出来るような建物に引っ越すのはアリかもしれんのう」
「では巣鴨に住みますか? 良い物件探せると思います」
「ほっほっほ。まあその辺はじっくり考えてみようかの」
まあ、それも良い案ではあるかもしれない。巣鴨一帯は武本武士団の影響下にあるが、そこに何処のクランに所属しているわけでもないイナリが住んだところで何の問題もないし、何より武本武士団とイナリの関係は良好だ。
勿論、だからといって今すぐ巣鴨に引っ越すことを決めなくてもいい。他にも良い場所はあるかもしれないし、そもそも今すぐ引越しをする理由もない。
「それにしても……」
「ん?」
「今回の事件。私もお力になりたかったです」
シュンとした様子の恵瑠に、イナリは優しく微笑む。自分に懐いてくれているだけに、そういうところを気にしてしまうのだろうが……。
「そう気負う必要などないぞ? 何事も全て縁じゃ。今回タケルを引き受けてもらったように、全ては巡るものじゃ」
「そういうものでしょうか」
「そういうものじゃ」
肯定するイナリに恵瑠は「そうですね」と頷く。次があれば自分も力になりたいと思うし、タケルの一件で更に縁も強まった。だからこそ、イナリの言葉はスッと染み入るものがあったのだ。
「そういえば、その大和さんのことですけど」
「うむ」
そう、土間タケルは再び大和タケルに戻った。武本武士団のクランメンバーと一緒にダンジョン攻略に出かけ、順調にレベルアップしているようだ。恵瑠も何度か一緒に行ったことがあるが、好青年だという印象が強い。
「凄く馴染んでらっしゃいますよ。女の子の間ではすでにファンだって子もいます」
「おお、そうかそうか。良いことじゃ」
タケルが上手くやっているのであれば、それで良い。イナリとしては素直に嬉しい話であった。まあ、武本の人柄を知ってクランの雰囲気もなんとなく知っているからこそ今回タケルを任せたわけだが……結果的に正解だったといえるだろう。
「随分と苦労してきた子じゃからの。今度こそ幸せになってほしいと、そう思うよ」
今回のタケルの件で青山にもイナリは連絡をとっていたが、どうにも青山の実家を焼いた火事以降、タケルとは疎遠に……というよりも、タケルにあからさまに避けられていたらしい。心配はしていたが、あまり大きなことは出来なかったのだと……だからこそ今回の件は感謝していると、そうイナリは聞かされていた。
今回のタケル関連の情報操作含む諸々も、青山が中心になって動いてくれたようだ。今すぐは難しいかもしれないが、関係修復もそのうちに出来るようになるだろう。今はまだ時間が要るだろうことは、全員の一致する見解であった。
そして不動の3位であった「土間タケル」は消えて、ランク外に「大和タケル」が登録されている。その結果、黒の魔女が4位になったり「聖騎士」が5位になったりとそういうことがあるらしいが……まあ、些細なことだ。
「あ、そういえばこの間くださった刀のことですけど」
「む? おお、あれか」
草津でイナリが手に入れた金の報酬箱から出てきたのは、一振りの日本刀だった。真っ赤な拵も素晴らしい「鳳凰」と銘のついたその刀は抜けば炎のような刃文の美しい、まさに芸術品のような……しかし間違いなく素晴らしい力を持った名刀であった。
イナリには狐月があるのでタケルの件のお礼も兼ねて武本に渡したのだが……。
「毎日ニコニコしながら磨いてますし、何処に行くにも持ち歩いてます。凄く大切にしてますよ」
「う、うむ。喜んでもらえたならよかった」
前に恵瑠に贈ったものも飾っているとは聞いているが……義理とはいえ親子は似るものなのか。
イナリはそんなことを思う。何はともあれ……それもまた、1つの平和な光景であるのだろう。
第6章はこれにて終了です。
劇場版のような構成となりました本章、いかがでしたでしょうか?
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