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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

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お狐様、草津の危機に挑む3

 そしてタケルの炎の剣とイナリの狐月がぶつかり合う。炎の剣と狐月がぶつかり合う度に狐月から魔力の輝きが弾け、これが物理的なものではなく魔力のぶつかり合いであると示している。つまるところ、此処に他の面々を連れてこなかったのはまさにイナリの英断であったといえるだろう。

 剣と刀がぶつかり合い、互いに一歩も引かないままに……いや、イナリのほうが押されている。たとえ威力で劣らずとも、本人の腕力は違う。タケルの力で振るう炎の剣は、振るう度にイナリを少しずつ押し込んでいた。


―【終わり告げる炎剣】は狐神イナリを殺した場合のメリットを並べています―

「煩い、黙れ」

―【終わり告げる炎剣】は殺さなければ必ず失敗すると念押ししています―

「分かってる」


 分かっている。全部タケルは分かっている。イナリは善だ。この所業を絶対に許さず、何としてでも止めようとする。実際今、こうして斬り合っているのだからそこに関しては疑いようもない。

 殺さず無力化するなどということが出来る相手ではない。強い。この炎の剣を受け止めていることからも、それは明らかだ。これまでの実績から考えても、イナリは神に抗する力を確実に持っている。「殺さない」などという枷をつけながら勝てる相手ではない。その半端な甘さは、きっとタケルを失敗へと導く。

 炎の剣と狐月がぶつかり合う。

 知っている。タケルは自分の心の奥底で燃え盛る炎を知っている。あの日見た始まりの炎は。【終わり告げる炎剣】と契約した日の炎は、まだタケルの奥底で燃え盛り全てを焼き尽くそうとしている。

 ずっとだ。あの日からずっと、タケルは草津を消し去りたい衝動を抑え込んできた。まだ他にも方法がある。ずっとずっと、そう思い続けてきた。けれど、そんなものはなかった。草津の住人はほぼ入れ替わり、タケルを飼いならそうとする連中の巣窟になった。だから、タケルの中に残ったのはもう全てを忘れるか、草津を消し去るかの二択だった。

 炎の剣と狐月がぶつかり合う。

 イナリの来訪は、タケルにとって心を大きく揺らす出来事だった。忘れていた暖かさを思い出す、そんな瞬間。けれど……超人連盟の暗躍もあったとはいえ、タケルの中の炎は激しく燃え盛った。もう滅ぼさなければ自身を保てないと思えるほどに、怒りに身が焼き尽くされそうだった。それを邪魔するイナリにまで殺意が湧くほどに。1度勢いを増した炎はもう消えないとでもいうかのように。

 炎の剣が強さを増し、イナリを大きく弾き飛ばす。


「来るとは思ってたんだ。だから、早く帰れって言ったのに」

「……」

「間に合わない距離まで行けば。俺が全てを終えるまでには来ないと思ったのに」

「かも、しれんな」

「憎いんだよ、狐神さん。全てが憎い。俺の邪魔をする貴女も、殺してしまいたくてたまらない」


 燃える。タケルの中の炎が燃える。何もかもを焼き尽くせと燃え盛る。

 それはタケルの中に閉じ込められていた感情の発露なのか。それとも【終わり告げる炎剣】との契約がもたらすものなのか。あるいは……その、両方なのか。


「草津の人々は、殺してしまったのか」

「結果的には死ぬ。世界の上書きに巻き込まれて存在そのものが消え去る……奴等がこの世界に残すものは、何もなくなるんだ」


 骨の一片……あるいは存在するならば魂すらもこの世には残らないだろう。殺すのではなく、消え去るのだから。世界の書き換えとは、そういうものだ。しかし逆に言えば、今ならば間に合うということでもある。


「それでお主は何を得る。結局草津は消えてしまうのじゃろう?」


 距離を詰めたイナリの狐月とタケルの炎の剣がぶつかり合う。何度弾き飛ばされても、イナリは止まりはしない。そしてタケルもまた、決定打を与えられずにいる。いや、傷一つ負わせることができてはいない。


「いいんだよ。そういうのはもう」


 炎の剣と狐月がぶつかり合い、イナリを押し込みながらタケルは笑う。


「もう戻らない。なら、美しい思い出にして消してしまうのがいい。腐りゆく残骸は……ただ無惨なだけだろ?」

「残骸ではない。人が生きておる」

「そうか。でも俺にはもう、人に見えないんだ」


 タケルの炎の剣がイナリを弾き飛ばし、そこから一歩踏み込んだタケルの炎を纏う蹴りが爆炎と共にイナリを更に吹っ飛ばす。


「ぬおっ!?」

「さあ、何処まで耐えられる!?」


 炎を纏う拳と蹴りの乱打がイナリをその度に爆炎で吹っ飛ばし、完全に体勢を崩したイナリに炎の剣が命中し大きな爆発を起こしながら吹っ飛ばす。転がっていくイナリは起き上がり……けほっと息を吐く。そこにはやはり……傷1つない。


「ハ、ハハ……なんだそれ。どういう防御力だよ。計測されてる能力値じゃ、そこまでじゃないはずだ……その巫女服のせいか?」

「さて、のう。しかしこのままではお主を止められん……か」


 イナリが狐月を構え、刀身に指を這わせ滑らせる。

 イナリの指の動きに合わせ火を纏っていく狐月はボウと燃え上がって。


「秘剣・草薙」


 振り抜いた刀に合わせるように広がった炎が地面の炎を消しながらタケルへと到達し……防ごうと振るった炎の剣を消し去り、タケルを吹っ飛ばした。

忘れたころのTips


名前:秘剣・草薙

読み・ひけん・くさなぎ


能力:言わずと知れた草薙の剣の伝説を元にした秘剣。ヤマトタケルノミコトが火を草薙の剣を使い起こした火で押し返した伝説を再現するように、地を這う火を広範囲に放つことが出来る。また、火難を避けた伝説を再解釈し火を消す力をも持つ。

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― 新着の感想 ―
そうだったイナリちゃん火に関して特攻技持ってるんだった
[気になる点] 大蛇おる上に常に雲ありと言う事から天叢雲剣と名付けられた剣が国造が起こした野火の難の時に草を刈って逃げ延びた事から草薙の剣と名称を変えただけで、この時刈った草を使って国造にやり返した火…
[良い点] ガンメタじゃないか…… それこそ炎剣の神通力を引っ張ってこないと話にならない……
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