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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

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お狐様、草津を歩く3

 その言葉に、タケルは驚いたように目を見開いて。やがて、何とも言い難い……そんな笑顔になる。あの全てを諦めたような、そういう色のある笑顔だ。


「ありがとう。そう言ってくれるかもしれないとは思ってたんだ。でもごめん」

「……そうか」


 断られるかもしれない、とはイナリも思っていた。しかし今日の誘いがタケルが何か心変わりしたことによるものならば……と。そう思ってもいたのだ。


(意志は固い、か。となるとタケルが儂にこれを見せた理由は……)

「そうか。これはお主の戦い、か」

「ああ。だから……狐神さん。もう帰ってほしい。俺は、もう大丈夫だから」


 それは明確な拒絶の言葉だ。これ以上踏み込んでくるなという、そんな意思表示。だからこそ、イナリは静かに頷く。


「……そうしよう」

「ああ、ごめんな」


 その後は、互いに無言。湯畑の近くまで辿り着くと、タケルはイナリに軽く手を振る。


「じゃあな、狐神さん」

「ああ、またの」


 そんな短い別れの挨拶で、タケルは歩き去っていって。その背中を見送りイナリは小さく息を吐く。これ以上イナリに出来ることは何もない。本人が望んでもいないことをイナリがやるのは筋違いだからだ。

 タケルがどういう手段で草津の元の姿を取り戻すつもりなのかは分からないが……今回の件の顛末が広がれば草津でタケルも動きやすくなるかもしれない。今は、それを祈るしかない。


「あれ、イナリさん?」

「おお、エリたちか」

「もう終わったんですか?」


 お土産らしい袋を持って歩いてくるエリたちに、イナリは「うむ」と頷く。実際、あの話にあれ以上イナリが関わる余地はない。


「儂に出来ることはもう何も無さそうじゃ。帰るとしようかのう」

「ふーん?」


 なんとなく察したのか、月子もそう言いながらイナリをじっと見る。まあ、タケルとの話が上手くいかないのは月子も察してはいた。どういう理由で今日イナリと何を話したかまでは月子も想像するしかないが、まあ改めてタケルから断ってきたのだろうことは想像できる。


「じゃあ、クランの話もしばらくはなさそうね」

「そうじゃのう。タケルの進むべき道は中々に遠そうじゃ」


 言いながら、イナリは「さて」と声をあげる。


「お主等はいつ帰るんじゃ? 儂も明日には帰ろうと思っとるが」

「はい、明日の早朝です。色々ありましたし、チェックも兼ねてヘリのメンテを草津空港のほうでやってもらってるみたいで。今夜中に全部終わるそうなんです」

「イナリもついでに乗っていくでしょ? バスよりは早いわよ」

「うむ? しかし……協会のヘリじゃろ? 予定外の儂が乗ってええんかのう」

「何よそんなの。許可とってるに決まってるでしょ」

「おお、手際が良いのう……ではお世話になろうかの」

「決まりね! じゃあ草津最後の日、遊び回るわよ!」

「その前にまずはお土産を宿に置いてきませんと」


 ワイワイと言い合いながらイナリたちは草津の町中を歩いていく。そうしてたっぷりと遊んで、夜は早めに寝て……翌日の午前4時には、まずエリが起きるとサッと身だしなみを整えメイド服に着替えて、まずはイナリを優しく揺り起こす。


「イナリさーん、朝で」

「もうそんな時間かの」

「うわっ、寝起き良いですねえ」

「うむ。おはよう、エリ」

「はい、おはようございます。さてさて。月子さーん、朝ですよー」


 イナリは正確には寝てなどいないから寝起きが良いのも当たり前なのだが、がっつり寝ている月子はそうではない。エリが優しく声をかけても起きる様子はなく、軽くゆすれば「うー」と声をあげる。


「起きてください、月子さーん」

「あと5分……」

「それで起きたのは人類史上例がないので起きてくださーい」

「あによー。あるかもしれないでしょ……」

「少なくとも私は観測してませーん」

「うー」


 そんな攻防戦の末に結局月子は目を覚まして。すでに巫女服姿になっているイナリとメイド服のエリをゆっくりと見回す。


「……おはよう」

「はい、おはようございます」

「おはよう、月子。ほれ、顔を洗ってくるとええのじゃ」

「髪の毛もセットしないとですねー」


 月子が顔を洗い戻ってくるとエリはまだ微妙に寝ぼけている月子の髪を手慣れた様子でセットしながら「そういえば」と声をあげる。


「イナリさんはセットとか全く必要ないの凄いですよね」

「まあ、儂はそういうのはのう」

「確かに寝ぐせの1つもないわよね」

「この前髪も触らせてもらったことあるんですけど、キューティクルが凄いんですよ。絹糸のようなってこんな感じ? みたいな」

「エリのはどうなのよ」

「私は良いとこ木綿か麻か……」


 そんな2人の前にアツアゲがやってきて、サッと髪をかき上げるような真似をする。話題に混ざりたかったのかもしれないが……エリが「えーと」と言っている間に月子がジト目でアツアゲを見つめ口を開く。


「まあ、ツヤはあるわね……なんかこう、ニス的な」

「アツアゲは分かってやっとる節があるから気を遣わんでええぞー?」


 イナリがツッコミを入れればアツアゲがダッシュしてイナリに軽く蹴りを入れに行く。無粋なツッコミをするなとでも言いたいのだろうか。


「これ、アツアゲ! 反抗期かえ!?」

「……積み木ゴーレムに反抗期とかあるんですかね?」

「知らない。別に研究してみようとも思わないし」


 何はともあれ準備を終えれば、あとは前日の内に予約しておいたタクシーに乗り、草津空港へと向かうだけである。

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― 新着の感想 ―
メイドの朝は早いなぁ 後五分はなぁwww実質まだ寝たいだからなぁwww
[一言] タケルにはイナリたちと一緒に幸せになってほしいな…
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