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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

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お狐様、草津を歩く

 翌日の朝。朝食をとるために湯畑の方まで出てきたイナリたちは、そこに立っているタケルの姿に気付く。そしてタケルもイナリたちに気付いたらしく、微笑んで軽く手を上げて挨拶してくる。


「おはよう」

「うむ、おはよう」


 まだそれなりに早い時間なのであまり人がいないが、それでも全国区で有名になったタケルの顔を知っている人たちがチラチラと見ているのが分かる。それはただの興味の視線だが、イナリは心配そうにタケルの近くに走っていく。


「タケル、お主……もう大丈夫なのかえ?」

「ああ。大丈夫だよ、狐神さん」

「そうか。お主がそう言うのであれば良いが……」


 明らかに自分を心配している……今も無理しているのではないかと案じる視線を向けてくるイナリに、タケルは思わず苦笑してしまう。本当に、どうして此処まで誰かに親身になれるのか。


「そっちの2人も……昨日は情けないところ見せてごめん。ちょっと色々整理しきれなくてさ。挨拶も出来なかったけど、土間タケルだ。よろしく」

「え、あ、はい! 私は敷島エリです」

「真野月子よ」


 そんな挨拶を交わし合うと、タケルはイナリに視線を向ける。


「実はさ、此処に来れば会えると思って待ってたんだ」

「む? 儂らにかえ?」

「いや、狐神さんにだ」

「ふむ?」


 まさかいきなり「一緒に東京に行く気になった」というわけでもないだろうとイナリは思う。それならそれでも構わないのだが、タケルが草津に心残りを残したまま……というのも宜しくはないと思うのだ。しかしそうだとすれば何なのか? あるいはタケルが「草津でやるべきこと」に関して何かあるのか。そう考えるイナリに、タケルは「今日の狐神さんの時間を俺にくれないか?」と口にする。


「ひょ?」

「色々と話したいこともあるしさ。2人には悪いんだけど……」

「え、ええ……?」

「うわ……結構ストレートにくるのね」


 動揺するエリと感心したような声をあげる月子だが、言われた本人であるイナリは特に何も感じた様子はない。というか実際に感じていない。そういう話じゃないだろうことも察している。


「ふむ。儂は構わんが2人はどうかの?」

「いいんじゃない。行ってきなさいよ」

「そうですね……!」

「ありがとう。じゃ、行こう狐神さん」


 そう言うと、タケルは思い出したかのように「あっ」と声をあげる。


「もし朝ご飯がまだなら、あっちに見える喫茶店が開いてるよ」

「どうも」

「いえいえ」


 月子に微笑むと、タケルはイナリに「行こう」と微笑み歩き出す。


「うわあ……友人としては応援すべきなんですかね?」

「んー……一瞬そうかもとは思ったけど。なんか違う気もするのよね」

「と、いいますと?」

「分かんない。別に感情とかの専門家じゃないのよ。でもまあ……イナリなら何があっても平気でしょ」

「何かってなんですか?」

「それはまあ……色々よ」


 聞こえないようにヒソヒソと言い合ってはいるが、耳の良いイナリたちには全部聞こえていてタケルは苦笑していた。


「はは……信頼されてるね、狐神さん」

「ううむ……すまんのう。後で叱っておくからの」

「別にいいよ。彼女たちからしてみれば、俺がどんな奴かなんて分からないんだから」


 危ない奴かもしれないだろ、と冗談めかすタケルにイナリは「まあ、言っとることは分かる」と返す。


「タケルはそんな奴ではないが、エリも月子もそれを知らん。なれば天秤が儂に傾くはまあ、自然よな」

「そういうこと。彼女たちを叱るなんてやめてあげてくれよ」

「お主は……ほんに良い子じゃのう」


 イナリも仕方なさそうにタケルへ笑みを返す。本当に、どうしようもなく「善い人間」だとイナリは思う。しかし同時に、タケルは色々なものを諦めた表情を笑顔で覆い隠している。昨日、タケルを焼け跡から掘り起こしたときに見えた表情。恐らくはアレがタケルが普段は覆い隠しているものだ。

 あの焼け崩れた家のように、タケルの中でも色々なものが焼け落ちているのだろう。だからこそ、イナリとしては力になれるならばなりたいのだが……。


「それで、話というのは何かの?」

「ああ。その前に……揚げ饅頭食べていこう」

「あげまんじゅうとな」

「美味いんだぜ」


 湯畑の側にある店で、タケルは紙に包まれた2つの揚げ饅頭を買ってくる。饅頭に衣をつけて揚げた揚げ饅頭は、揚げたての良い香りを漂わせていて、イナリは代金を払うべく財布を取りだそうとしてタケルに制止される。


「今日付き合ってもらってる代金……にしちゃ安すぎるけどさ。貰ってくれないか?」

「ううむ……まあ、そういうことならば。ありがとうのう」

「どういたしまして」

「おお、これは……美味い!」

「だろ?」


 ザクッと歯応えの良い衣と、饅頭の甘み。この組み合わせはなんとも暴力的に美味い。調理工程的にお土産にするには無理があるが、食べ歩きとしてはかなり完璧に近い位置にいると、イナリはそう評価できた。

 そんな揚げ饅頭をザクザクと食べながら、イナリとタケルは草津の道を歩いていく。

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― 新着の感想 ―
タケル君の目的は何だろう?続きが楽しみです!
[一言] 嫌われる前に一度でいいからデートに行きたかった、ってやつなのか… それとも計画の内なのか…
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