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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

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お狐様、草津出張所に行く

 あまりにも明確な拒絶。それにイナリは「そうか」とだけ答えて。その話は、1度そこで終わる。

 そして自宅も焼けてしまったタケルは身の安全の確保も含め、一時的に群馬第1ダンジョンの検問所の奥にある職員棟の宿泊室の1つを借りることになった。水回りなどもしっかりして風呂もあるため、一時的な生活場所としては……まあ、日本3位に相応しいかはさておいて不自由はあまりない。

 やがて自宅も建て直されるだろうが……放火事件に関しては非覚醒者が犯人である可能性もあるために警察も捜査を開始している。そこに関しては、犯人はいずれ適切な裁きを受けるだろう。


「いつの時代も軽率な行動は身を亡ぼす……ま、そんなところじゃな」

『うん。その通りだと思う』

「ま、そんなところじゃ。心配させてすまなんだのう」

『構わない。それに……手伝えなくてごめん』

「かっかっか! 何を言うとるか。紫苑には紫苑のやるべきことがある。それをやるのが儂は一番嬉しいのじゃ」

『ん』

「そちらもまだ忙しいのじゃろ? 気をつけるんじゃぞ」


 紫苑との電話を切ると、イナリは「ふう」と息を吐く。恵瑠や赤井、そしてヒカルからもさっき似たような電話がかかってきたが、友人関係というものが広がっていくと心配させる相手が増えるということでもあり、その大変さを少しばかり味わっていた。


「待たせてすまんかった。では、行くとするかのう」

「そうね」

「ええ」


 イナリたちがいるこの場所は、覚醒者協会群馬支部草津出張所だ。安野を通じてアポを取ったイナリたちが扉を開けて中に入れば、慌てたように職員が所長室へと案内してくれる。まあ、当然だろう。今のイナリたちはただの覚醒者ではなく「本部が指定したお客様」である。軽い扱いは許されない。

 そうして通された所長室の応接用ソファに座るのは草津出張所の所長と楡崎。そして向かい側にイナリと月子。その背後にエリが立っている。ちなみにエリが立っているのはメイドチャンスを逃したくないからであるらしい……イナリにはよく分からないし月子は理解できないが、さておいて。


「さて」


 イナリは出されたお茶を一口飲むと、湯呑みをテーブルに置く。


「どういうことか説明して貰おうかの」

「そ、その。仰る意味が良く……」

「草津での暴力的な手段を含む買収行為に対する見逃しを始めとする、覚醒者協会への背信行為。証拠は全部上がってんのよね」


 冷や汗を流しながらとぼける所長に、月子がエリの差し出した書類を机の上にぶちまける。それは月子が1時間もかからずに調べ上げた、草津にやってきた「新住人」……タケルに圧力をかけようとした連中と、草津出張所の実に濃厚な関係を裏付けるものであった。タケルにかけられた冤罪を証言した覚醒者。彼等を仲介したのも草津出張所であり、タケルという働き者がいるのをいいことに有能そうな者は皆「新住人」たちの護衛として仕事を出し、雇われた覚醒者たちも様々な後ろ暗い活動をしていた。

 それは結果的にタケルを更に追い詰める一因となり……まあ、言ってみれば草津出張所がキチンとしていれば防げたことは非常に多かったのだ。


「土間タケル関連の報告部分だけ適当書いて、さも手厚いサポートをしているかのように見せかける……帳面だけで言えば計算が合うのもアレよね」

「た、多少大袈裟に書いた部分もございますが、それは書類の見栄えだけの問題でして全体的な内容としては」

「うっさい黙れクズ」

「ク、クズ……!?」


 驚愕に目を見開く所長に月子はチッと舌打ちをする。覚醒者協会はその性質上、末端に行くほど使えない人材の吹き溜まりになっていく。それは結局のところ使える人材は本部や支部に置いた方が結果的に上手く回るからであり、出張所のような場所では定型業務以上のことは求めないからだ。何かあれば支部に応援を要請すれば支部から有能な人間を回し、支部から要請があれば本部から有能な人間が飛んでいく。そうすることで、全部が綺麗に片付くのだ。だから結果的に出張所は島流しや閑職などと揶揄される。

 勿論、そこで才能を見せつければ自然と上がっていくものだが……草津出張所ではそうではなかった。そしてたとえ上に行くことを諦めていたとしても、決められたように仕事をしていれば、それはそれで気楽で安定した……お給料も良い生活が約束されている。けれど、草津出張所ではそれを良しとせず後ろ暗い方向へと進んだ。


「まだ隠せてるつもりなら甘いのよ。目の前に積まれた書類が見えない?」

「隠すなど……全ては物の見方の問題なのです」

「ほう? 見方、とな」

「ええ、そうです。私の話を聞いていただければ必ずご理解いただけます」


 そう確信するように言う所長の視線を受けて、イナリは虫でも払うように手を振る。すると何かが破壊されるような軽い音が聞こえ所長が「うっ」と目元を抑える。


「それは今の不愉快な力と何か関係があるのかのう?」

「ふーん、『説得』スキル、ね。『交渉人』なんてジョブあるなら、ちゃんとやれば有能だったでしょうに」


 イナリにスキルを弾かれ月子の鑑定にスキルを看破され、所長は追い詰められたような表情になる。実際、何かあれば今のスキルでどうにかしていたのだろう……草津出張所が現状を隠し通せていた理由は、どうやらその辺りにあるようだ。


「確かに理解できたのう。なんぞ深い理由でもあるかと思い話を聞きに来たが……ま、お主等がどういう人間か分かっただけでも収穫じゃったな」

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― 新着の感想 ―
覚醒者の全てが善人ではないことと組織に所属する人間が全員有能ではないことで起こったどうしようもない事態だなぁ 問題が報告されていない平時から末端の末端まで監査の目が行き届くか怪しいしなぁ
[良い点] こんばんは。 まぁ草津側がゴミなのは疑いようもないですが、きちんとスキル悪用の精査をしてない本部にも大いに問題がある気がしますね。この辺は自浄は期待できないですから、誰かが改革しないとダ…
[一言] そもそもの原因が草津出張所を本部が軽視し過ぎたから起きるべくして起きた問題なんじゃないかな
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