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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

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お狐様、夕飯を食べる

 すぐに選定、交渉して送るという安野の言葉を受け、イナリは電話を切る。やはり超人連盟については安野も危機感を抱いていたということなのだろう。あとは追加の人員が来るのを待ち、再度の捜査に移ればいい。となれば、イナリが次にするべきことは……チェックインである。

 地図を頼りに歩いて行けば、湯畑からは少し離れた場所に存在する小さめの和風宿だ。大分年季の入った建物だが、モンスター災害から生き残った建物なのだろうか?


「ふむ。趣があるのう、儂好みじゃ」


 小さな帳場でチェックインを済ませるとイナリはギシギシと音の響く階段を登り2階の部屋へと入る。8畳ほどの小さな部屋にはちゃぶ台とお茶のセット、そしてお菓子が置かれている。何処となく、あの廃村がまだ人の居る村であった頃を思い出す光景だ。

 窓からは道路を挟んで土産物屋や他の宿が見えているが、それもまた面白い。

 ちなみにイナリは喜んでいるが、1人旅向けのお安い宿である。それ自体は素晴らしいものであり湯治客が何泊かするのには、とても向いている。しかしながら、覚醒者協会がもてなしとして用意するには少々不向きだ……出張所の予算の問題などもあるのかもしれないが。

 さておき、イナリは一通り外の風景を楽しむと、お部屋チェックをしていたアツアゲを手招きで呼ぶ。


「さて……此処は素泊まりの宿なんじゃったか。となれば何処かに食事に行ってみるというのも楽しいのう」


 そう、高級な宿とは違い素泊まりの宿では外で好きなものを食べるという楽しみがある。特に草津では地元の人間も利用するからという理由なのかどうかは不明だが、観光地価格ではない店も非常に多い。要するにリーズナブルで美味しい店が多いということでもある。

 だから、というわけではないのかもしれないが居酒屋も多く、良い香りを漂わせている店もたくさんある。


「お、この香りは……中々良いのう」


 なんだか何かを焼いている良い香りに引き寄せられ、イナリは一軒の居酒屋の扉を開く。


「入っても構わんかのう?」

「いらっしゃいませ! どうぞお好きな席へ!」


 まだ始めたばかりで客が来ていないのか、店内にはイナリしかおらずテレビがよく分からないバラエティ番組を流している。何処でもいい、ということなのでカウンターにイナリがちょこんと座れば、店員が冷たい水を運んでくる。


「……ふむ」


 メニューを開けば、どうやらこの店が焼き串に力を入れているらしいことが分かる。鶏肉の各種部位が並んでいるが、正直イナリにはそんな名前を並べられてもよく分からない。焼き鳥以外のメニューも並んでいるが……ひとまず幾つか頼んでみることにする。


「この焼き鳥を1つ、としいたけ串を1つ、あと……ちいずのべえこん巻き串を1つ。それと冷ややっこ1つと、お茶を頂けるかの」

「はい! 焼き鳥1、しいたけ1、チーズベーコン1に豆腐にお茶ですね!」


 まあ、そんなわけでカウンターの向こう側の厨房でも串を焼き始めているが……暇つぶしにイナリはメニューを見ておにぎりがあるのを見つけていた。


「むむっ、おにぎり。シャケと梅の2つか……これでもよかったのう」


 しかしながら草津に行っておにぎりを食べましたではいつも通り過ぎて土産話にはならないことくらいはイナリも分かっている。後ろ髪を引かれつつもメニューを閉じて。そうするとお茶と冷ややっこが運ばれてくる。

 湯気をたてるお茶と冷たい冷ややっこの対比はなんとも素晴らしいものだが、冷ややっこに乗せられた鰹節とネギも嬉しい。豆腐はこの店の手作りというわけではないだろうが、パクリと口に含んでみれば大豆の濃厚な味が広がっていく。そこに軽く醤油をかけてみれば、箸の進む味に変わっていく。


「お待たせしました! 焼き鳥にしいたけ、チーズベーコンです!」

「おお、これはこれは。中々に美味そうじゃ」


 タレのしっかりかかった焼き鳥は口に含めば期待通りの味が口に広がっていく。


「うむ、美味い」


 タレも肉も間違いなく良いものなのだろうし、焼き加減もイナリ好みだ。

 そしてしいたけ串は……これまたタレが絡んで美味しい。焼くことでホクホクになったしいたけはなんともジューシーな味に仕上がっているが、イナリはもう1つのチーズベーコン串に早くも手を伸ばす。


「ほお……ちいずをべえこんで巻いて焼き上げるとは……串で刺すことでしっかりと形が整うわけか。技じゃのう……」

「ありがとうございます。変わり種ではありますが、美味しいですよ」


 カウンターの向こうの職人がそう言うのにイナリは頷き、パクリと口に含む。そうすると口の中にベーコンの塩っ気と脂が伝わり、続けてチーズの濃厚な味がそれを包み込むように広がっていく。単純ながら無視できない強烈な味の変化は、しかし2つが合わさることでより上質なものに仕上がっている。つまり……美味い、のである。


「おお、美味い……斯様なものは初めて食べたのう」


 確かに変わり種ではあるのだろう。しかしイナリは実に新鮮な衝撃を受けていた。ちなみにこの後やっぱりおにぎりも頼んだが、群馬で育てられているブランド米ということで、合わせてイナリは大満足だったのである。

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― 新着の感想 ―
宿が不備なのか予算の都合なのか微妙なところだなぁwww 焼き串美味しそう
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