表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/407

お狐様、まだ知らない

 イナリたちを笑顔で見送って、扉を閉めて。タケルはスッと表情を消す。


「……立派、か」


 救われる言葉だ。他の誰でもない、イナリの言葉だからこそ救われる。だからこそ、タケルはその救いが辛い。救われるからこそ、その救いはタケルを苛むのだ。


「俺は、そんなに立派な奴じゃあないんだよ、狐神さん」


 それは独白……懺悔にも似たものだ。此処に本人が居ないから、届かないと知っているからこそ出来る告解。救われることを罪深く思うからこそ、タケルはもっと早くイナリに会いたかったと……本気でそう思うのだ。


「……」


 タケルは、虚空を見つめて。聞こえてきたチャイムの音に、ゆるりと首を動かす。ドアスコープから見える、とても優しげな笑みを浮かべた男の姿。それは覚醒者協会群馬支部の職員のものだ。だから、タケルはガチャリと扉を開ける。


「こんにちは、土間さん! 本日も良いお日柄で」

「やめろよサイラス。仁科の野郎の真似をするな……不愉快になる」


 サイラスと呼ばれた男は、そのどう見ても日本人にしか見えない顔を笑顔の形に歪める。それはタケルが先程見ていたイナリのものとは全く違う、不愉快な感情しか浮かんでこない笑顔だ。

 そう、サイラス・テイラー。それが男の本当の名前であり、タケルの目の前にいるのは本当の姿ではない。


「ここのところ見ないと思って清々してたのに……生きてやがったのか」

「そう簡単には死なんさ。だが……少しばかり別件でトラブルがあってね。こちらもバタバタしているんだ」

「越後商会だろう?」

「おや、どうして知ってるんだ?」

「やっぱりか。ざまあみろ、お前らが失敗するのを見るのは楽しいよ」


 タケルに本当に楽しそうに言われて、サイラスはチッと不愉快そうに舌打ちをする。


「お前とて同志ではなくとも利害を一致させる仲間だろうに」

「ふざけるなよ。お前らの仲間になった覚えはない。過程が似ているだけで目的は違うんだからな」

「……まあ、それもそうか」

「ああ。俺はお前らの言う覚醒者の支配する世界なんてものは興味がないんだよ」


 そう、誰も気付かないだろう。サイラス・テイラー……「覚醒者協会群馬支部の仁科」の姿をしているこの男は以前クラン『レッドドラゴン』のマスター補佐『田中 太郎』と名乗っていた。しかしながら……その後、行方不明になっていた「超人連盟」のメンバーでもあった。

 もう1人のロバート・ミラーは死んだが、この男は生き残っていた。ならば何処に消えたかという話であったのだが、まさかの草津にいたようだ。


「お前なら理解できるはずなんだがな。覚醒者が支配する世になれば世界は」

「変わらねえよ。俺にゴチャゴチャ仕掛けてきたのは別に非覚醒者だけじゃあない」


 言われて、サイラスは軽く肩をすくめる。平行線だと、そう悟ったからだ。あまりうるさく言えばただでさえ低いタケルからの好感度がさらに下がる……そうなればタケルを敵に回すのは間違いない。それは少々困る話だ。


「つーか話は終わってないぞ。何しに来た。俺の邪魔をしに来たのなら……」

「最終的には邪魔をするがな。今はまだそのつもりはない」

「そうかよ。じゃあ帰れ」

「コガミイナリのことだ。先程此処に来ていただろう?」


 その言葉に、タケルの表情が一瞬で怒りに満ちたものに変わる。超人連盟のやり口は知っている。そんな超人連盟の1人であるサイラスがイナリの名を口にしたことで、危害を加えるつもりなのだとタケルは察したのだ。


「殺すぞ。あの人に手を出すんじゃねえ」

「アレはお前の目的を必ず妨げるぞ、ドマ」

「……」

「分かっていないフリをするなよ。アレは紛れもない善性であり、分け隔てない慈愛の心とやらを持つ者だ。お前の最終目的を知って、それを邪魔しないと本当に思うのか?」


 確かに、イナリならばそうだろう。しかし、それを分かった上でタケルはサイラスをこれ以上は無いというほどの殺意を込めて睨みつける。


「俺とあの人をどうにかぶつけようと考えてるならやめとけよ……神を焼く火はフォーマルハウトにだけあるわけじゃないぞ」

「……分かった。気をつけるとしよう」

「そうしろ。別に俺はお前らが敵になったところで構いやしないんだ」


 そう言い捨ててドアを閉めると、サイラスが立ち去っていく音が聞こえて。タケルは虚空に浮かんだノイズ混じりのメッセージに目を向ける。


―【終わり告げる炎剣】が大笑いしています―

「楽しんでいただけたようで何よりだよ」

―【終わり告げる炎剣】は狐神イナリを警戒すべきと忠告しています―

「当然するさ。知られれば必ず俺を止めに来る……でもなんだろうな。今更ながらサイラスをさっき殺しておくべきだったと思う」

―【終わり告げる炎剣】は今からでも追いかけて殺すべきだと提案しています―

「それは無理だ。どうせもう違う姿になってる……本当に面倒なスキルだ」


 そう、土間タケルは【終わり告げる炎剣】と契約している。それは、とある目的のため。イナリが知れば間違いなく止めるような……そんな目的を果たすためなのだ。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『お狐様にお願い!』2024年8月10日発売!
『お狐様にお願い!』1巻書影
各種書店様でも 【予約受付中!】
― 新着の感想 ―
タケルくん使徒だったのかぁ 完全に後戻りできなくなる前にイナリちゃんに止めて欲しいなぁ
[一言] 北欧神話からも来てるのかこれ。 色んな神話存在が神の如きものの正体だろうとは思ってたけど、これは名前から見てどう考えてもレーヴァテインじゃないか。
[一言] タケルの目的がヤバいものでないことを祈る…… 他の敵と比べたらバカじゃなさそうだからきっと……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ