お狐様、遊ぶことを決意する
ライオン通信は新しく強く、生まれ変わります!
多機能、デザイン、そしてサービス! 3つの強さが覚醒者ライフを最強サポート!
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日常に可能性を……ライオン通信
「おおー」
「どうだ!? すげえだろ!?」
「うむうむ。ようやくといった感じじゃのう」
イナリの家。テレビで流れたライオン通信のコマーシャル。地上波初放送かつ初公開ということで、ライオン通信のイメージキャラであるヒカルはイナリの家で一緒にそれを鑑賞していた。
ライオン通信の「強さ」アピールということでイメージキャラであるヒカルもアイドル風から「強さ」を重視した本来の性格でやることになったのだが、先行して公開したポスターの反応も凄く良く、問題ないとコマーシャルもついに放映されたわけだ。
「やっぱさー。最近色々あるだろ? 強さっていうのは人気の要素になってきてるらしいぜ」
本来は……つーか元々そうあるべきなんだけどな、と苦笑するヒカルにイナリも「そうじゃのう」と頷く。赤羽や府中のモンスター襲撃事件など、安全に対する非覚醒者の人々の意識は高まってきている。この前の「越後商会による大規模攻略失敗」……とされている件もまた、それを加速させている。
覚醒者のアイドル扱いは変わらないが、その要素の1つとして「強さ」が重視されつつある……ということだ。まあ、そんなわけでそれらの件を素早く解決したとされているイナリの人気もまた上がっていたりする。
手の平に乗る程度のサイズのデフォルメイナリ人形も発売されるや否や数秒もたたずに完売して、お守りの如く家に飾っている者もいるというから、なんともイナリとしてはむず痒いものがある。
「強さ、のう。それが全てではないとは思うが、それが無ければ成り立たぬものもある、か」
「そんな難しい話じゃなくてよ」
「む?」
「何をするにも強くて損することはねえだろ?」
「まあ、そうじゃのう」
「今の世の中は結構危険だってことを皆が思い出して、強さがモテる要素になったんだよ」
たとえばかつての時代は「個人の強さなんて意味はない」という風潮があったという。しかし現代では個人の強さは立派に意味のあるものとなっている。たとえ覚醒者でなくとも何かあったときに逃げられる程度、誰かを助けられる程度の強さがあるというのは「頼れる人」という評価になるというわけだ。
そして覚醒者はそんな努力を飛び越える「滅茶苦茶強い人」であり、その覚醒者の中でも更に強いとなれば魅力が凄い……とまあ、そんな感じだ。
「だからイナリは……今凄いモテパワーの化身みたいになってる」
「斯様なものの化身になったつもりは微塵もないんじゃが……」
「グッズを持ってるだけで話題が出来て恋も始まるかもしれないモテを司るアレみたいな扱いらしいぞ」
「司ってはおらんのう……」
というかそれは話題だから会話の種になっているだけで自分がどうこうという話ではないんじゃないか……とイナリは思わないでもないのだが、ヒカルが楽しそうなのでそれは別に言わない。思ったことを全部言うのが友情ではないと思うからだ。
「まあ、儂が話題というのは分かったが……別に儂、外に出てもいつも通りじゃぞ?」
「あー、それはあれだよ」
「あれ、とは?」
「……イナリ、行動範囲が家とダンジョン、スーパーとコンビニだろ? 騒ぐような連中がいるとこに行ってねえんだよ」
「うむう……」
まあ、確かにそうかもしれないとイナリは思う。ダンジョンに行っているのであちこち出かけているように思えてはいたが、考えてみれば自宅と職場を往復するだけの人であるのかもしれない。そしてそういうのは、あまり良くないことではある。
イナリがそんなに注目されているのであれば「仕事こそ我が人生」のような姿を見せるのはあまりよろしくない。影響があるならばあるなりに、見せるべき姿というものがある。「あんなに戦いに人生を捧げているから強いのだ」などと言われては人間社会に多少なりとも影響が出てしまうかもしれない。
「ううむ、儂は儂なりにゆったり過ごしていたつもりだったんじゃが……」
―と、このように狐神イナリさんは結構な頻度でダンジョンに潜っているんですね。かなりストイックで、あまり趣味というものが見えてこない人ではありますが……―
「いかん……! これはいかんぞ。儂のせいで無茶をする若者が出ては償いきれん!」
「別にそんなもん償う必要はないと思うけど……自己責任だし」
「いや、それは違うぞヒカル。儂は人の子にもっと日々を楽しく生きてほしい……儂の背を見て何かを決める者がいるのであれば、儂はそういったものこそを伝えねば……!」
「楽しさねえ……」
別に「多少無茶してでも鍛えれば強くなる!」と思う単純馬鹿ばかりならダンジョンの予約状況は何処も日々一杯だと思うのだが、今もそうではない事実こそが「結局人間は生きたいようにしか生きない」という事実を保証しているように思うのだが、イナリはその辺り評価が甘くて、人間全体を高く評価しすぎるのだとヒカルは思う。まあ、そんなイナリだからこそヒカルはこうして度々遊びに来るのだが。
「じゃあさー。どっか遊びに行く?」
「うむ、ええのう。では早速公園にでも」
「公園じゃなくてさー」
言いながらヒカルはとある施設の特別チケットをひらひらとさせる。
「プール、行こうぜ。今の時代、一番贅沢で楽しいのはウォーターレジャーだよ」





