月子、人探しをする
その月子が何処にいたか、というと。やはり他の面々とは違う場所に飛ばされていた。森の中であるのは確かだが、現在地が何処であるかは分からない。分からないが……原因は明らかだ。あのノイズのかかったウインドウは、月子にも見えていたからだ。
「神の如きもの、ね……初めて見たけど、ダンジョンに干渉可能とは驚きだわ」
イナリから覚醒者協会に伝えられた情報は、そのまま月子にも伝えられていた。優先度の高いものばかりな上、流石に月子でも又聞きの伝聞情報だけから「神の如きもの」についての解析を進めるのは不可能であったが……こうして実際にその力を目の当たりにしてみると、確かに神と呼ばれるに値する力を持っているのが分かる。
「覚醒フォンと、念のために用意した発信機も……全部反応なし。これも神の力ってわけ?」
覚醒フォンが通じないのは都市伝説関連の事件でもあったが、それを前提に用意した月子の発信機も無効化されたのは……まあ、驚きではあるが対応できる範囲内ではあった。
月子の手にあるタブレットは、月子自身が開発したものの1つでもあり、今そこには様々な数値やグラフの類が表示されていた。
「ダンジョン内の魔力濃度が正常値を大幅に超えてる……つまりコレが機器を無効化した何かによるものってことだけど。この数値なら他にも何か異常が出ていてもおかしくないはず……ん?」
月子が何かに反応すると同時に、月子の周囲に展開していたビットがその何かに一斉にレーザーを放つ。
「ヴヴッ!?」
一瞬でレーザーにより焼かれたのは、虫を模したかのような全身鎧を纏った人型だが、月子はそれを見て「虫……?」と呟く。すでに死骸は消えてその場にドロップしているのが「迷宮コガネの羽」な辺り、虫である何よりの証拠……ではあるのだが。
「あんな妙なの、出なかったはずよね。モンスターの変質……急がないとヤバそうね」
月子が指を鳴らすと同時に、虚空から小さな飛行機の模型のようなドローンが数機現れ空へと飛翔する。探査ドローンだ、この状況でデータの送受信ができるようにすでに調整されている。
「イナリはほっといていいから……最優先捜索対象は『小鳥屋 恵瑠』。さあ、行きなさい」
ヒュンッと風を切る音をたてて飛んでいくドローンを見送ると、月子は背後にビットがその銃口を向けているのをチラリと見る。
「目的は知らないけど、隠れてないで出て来なさいよ」
「流石はトップランカー2位。直接戦闘が苦手というのはガセだったようだ」
「別にそれは間違ってないわよ」
振り向くと、そこには1人の男が立っていた。恐らくは入る前にいた越後商会のメンバーの1人だろう。明らかな殺気を漂わせ、短剣をその手に握っている。
「私は別に強くもなんともないわ。でも、私のスキルが私を強くするのよ」
「フン。そのあからさまな科学兵器を使えているのもそれが理由か」
「それもあるわね。ただ、説明は省くわ……理解できるとは思えないもの」
「そうか。ならこちらも前置きは省こう。真野月子……お前は殺す」
「超人連盟の手先ってわけね」
「いいや、越後商会として邪魔な奴を消すだけさ」
なるほど、そういうことに……全てを越後商会に押し付けるつもりでいるらしい。だから月子は「そう」とだけ答えるとビットを全て男へ向ける。
「勝てるつもりか」
「ええ、楽勝よ」
「馬鹿が」
男の姿が掻き消えて。ビットが何処かへグリンと向いて、レーザーを一斉発射し「見えない何か」へと命中させる。そしてその何もない空間から、黒焦げの男が現れ倒れていく。
「……な、ぜだ」
ドサリと倒れた男に再度のレーザーでトドメを刺すと、月子はフンと鼻を鳴らす。
「何故も何も。消えるモンスターだっているのに、その辺の学習データがないと考える方がおかしいのよ」
データがあるからといって対策が出来るのとは別の話だ。どんな現象か分かっていても対処不能な事態はたくさんあるのだから。しかし月子であれば出来る。万能でこそないが……そのデータを解析し、対策をとることが「プロフェッサー」である月子ならば可能なのだ。
「ま、私を狙ったのは突発対応と考えていいわね。甘く見積もられたもんだわ」
確か越後良一が雇っていたのはチンピラクラン「サンライト」だったはずだが……どうやらチンピラでは収まらないくらいの悪党であったようだ。悪党としての教育が出来ていて、人殺しに躊躇いがない。なんとも面倒な相手だが、外に出たら完全に潰すよう進言しないといけないだろう。
「えーと……お、見つかった。結構離れてるわね……急がないと」
タブレットには、恵瑠発見の報と位置マーカー、そして写真が記録されている。そして同時に、ドローン撃墜のログも。どうやらすでに危機的状況にあるようだが……本当に急がなければならないだろう。
「まったく、こういうのを見越して私を呼んだんだろうけど。後でしっかり貸しは返してもらうんだから」
そう呟きながら月子は走り出す。こういうのは苦手だが……今は、少しでも早く現場に辿り着かねばならなかった。





