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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第一章

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22/407

お狐様、初めてのコンビニ

 その日、ブラザーマートの店員はボーッとしていた。

 『アニキみたいな頼り甲斐』をキャッチコピーにしており、「皆のアニキ、ブラザーマート」の歌詞がインパクト大なテーマソングでも有名なコンビニチェーンであり、店員はまあ、普通のバイトであった。

 基本的に世界が変わってもコンビニは大きく変わらず、覚醒者向けの商品を売るわけでもなくそれなりに「普通」な場所だ。まあ、店内に鎧を着ているような客が増えたのも変化といえば変化だが……今時のバイトはもうそれが普通だから動じない。

 動じない、のだが。その日店員は僅かばかり動揺した。というのも、ちょっと中々見ないタイプの客が来たからだ。


(えっ、狐耳……と尻尾? うわ、美少女……絶対覚醒者だろこれ……)


 狐耳と尻尾、巫女服とある意味で統一性の凄い美少女が……ちょっと見ないレベルの美少女が入ってきたのだ。立ち読みやら買い物やらをしていた客も振り返るが、どの客も言うことは同じだ。


「すげ、美少女……」

「かわいい……」

「のじゃ、とか言いそう……」


 1人変なのが混ざっていたが、さておいて狐巫女は店内を回りながら『うーむ』と唸っていた。

 何を探しているのか。是非手伝ってあげたいが、レジを放り出すわけにもいかない。

 店員の男がウズウズしていると、どうもそれは自分だけではないことに気付く。

 どの客も声をかけたくてタイミングを窺っているようだが、変に声をかけて嫌われたり通報されたりしても困る。

 あまりにも相手が美少女過ぎると声をかけ難いというのは当然ある。

 まあ、そんなピュアを発揮している彼等が見ていた狐巫女だが……まあ、当然のようにイナリである。

 先日のダンジョンで稼いだ魔石の売り上げもあるので、ちょっと買い物に来ていたのだ。

 そう、今のイナリは買い物だって出来る。そういう意気でやってきたわけだが……どうにもこのコンビニという場所、凄まじい。


「ううむ……何でもあるのう。さながら雑貨店じゃが、此処なら手に入らぬものはない……そう思わせてくれるのじゃ」

「のじゃだー!」

「うおっ、なんじゃあ!?」


 イナリが商品棚から顔をあげると誰もが露骨に此方から視線を逸らしているが……急に叫ぶからちょっとビックリした。たぶんあの中の誰かがあの妙な叫び声をあげたのだろう。

 しばらくじーっと見回していたが、わざとらしいくらいに誰もこっちを向かないので、イナリも気にしないことにして商品棚に視線を戻す。

 洗剤にゴミ袋、石鹸に歯ブラシ、その他諸々。パンも綺麗に包装されて売っているし、おかずもある。


「おお、おにぎりもあるではないか……一体何種類あるんじゃろうのう」


 しゃけにおかか、梅に昆布、シーチキンに肉まで。まるでおにぎりのデパートのようですらある。

 思わず感動に目をキラキラさせてしまうイナリだが、残念なことに今日の目的はそれではない。


「むむ、いくら……? 鮭の卵か何かじゃったか。旨いのかのう……」


 おにぎりから目が離せなくなってしまうが、今日の目的はそれではない。

 強い意志でおにぎりの棚から目を離すと、イナリの目はホットスナックのコーナーに向けられる。

 コンビニ定番のレジ横のホットスナックコーナーだが、イナリにとってみれば「なんだかよく分からんもの」でしかない。

 近づいて見てみれば、何やらホカホカとしたものが入っているのが分かる。


「肉まん、あんまん、ぴざまん、市井鉄郎の贅沢からあげ……」


 何やら不敵な顔をした男の写真入りのポップと共に「1本200円」と書かれている。いわゆる覚醒者コラボ商品だが、大手クランのエースである市井鉄郎とのコラボということで売り上げが中々に好調な品だ。勿論、イナリはそんな男は知らないしコラボ商品という概念も知らない。

 そんなイナリがこういうのを見てどう思うか……その答えは明白で。


「この男は何をやったらこんな目に合うのかのう……末路がからあげとは、哀れな……」

「ブフッ」


 店員が思わぬ一撃に吹き出してしまう。どんな罪を犯しても末路が唐揚げになったりはしないと思うのだが、確かにそういう風に読めなくもない。ないが……そんなことを真面目な顔で言われては、そういう風にしか見えなくなってしまう。


「あの、それ……コラボ商品でして。材料は普通に鶏肉で。ぶふおっ」

「お、おお! そうじゃったか! はー、よかったのじゃ。この男はからあげ職人じゃったか!」


 我慢できなくなって、男は後ろを向いて笑い出す。そうすると聞いていた他の客も耐えきれなくなったようで笑いが伝播していくが……それが収まった後、店員はキリッと真面目な顔を作る。


「いえ、味の監修とかなんですよ。この人は覚醒者なんで……」

「覚醒者の能力を料理に……?」

「いえ、普通にダンジョンとか潜ってらっしゃいますね」

「では何故からあげを……?」

「ちょっとバイトなんで分かんないですね……」


 たぶんインタビューで唐揚げが好きとか言ったんだろうな、と店員は思うのだが確かじゃないので言う気にもならない。


「ところでお客様、何かお探しですか?」

「おお、そうなのじゃ! 探しているものがあってのう!」

「はい」

「すまーとほんは、何処に置いてあるのかの?」


 そんなイナリの質問に、店員は最大限の営業スマイルを浮かべる。


「当店ではちょっと取り扱っていませんね……」


 残念そうな表情のイナリに店員は申し訳ない気持ちになってしまうが、無いものは無いので仕方ないのであった。

イナリ「売ってないとは……残念なのじゃ」

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― 新着の感想 ―
末路がから揚げwwwwww
唐揚げの感想で吹き出してしまいましたわ。 面白すぎ。
[良い点] >末路がからあげとは、哀れな…… 笑い死ぬw ノートの画面に唾飛んだやないか・・・
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