お狐様、巣鴨に行く3
言われてイナリは、恵瑠を見る。こうして見ると、本当に八重香に似ている。
似ているが……髪型や細部など、違うところも多くある。いとこ、という話であったから似ているのは本当に奇跡的な偶然ではあるのだろう。あるのだろうが……こんなところで出会うとは、なんとも奇縁と呼ぶ他ない。
「うむ……」
「やはり駄目か?」
そう聞く武本に、イナリは難しそうな表情を返す。別に助けを求めている相手に助力するのは問題ない。後ろ盾とやらも問題はない。けれど、1つ大きな問題がある。
「儂にはお家騒動とか、そういうのは分からんのじゃが? 何をどう絡めというんじゃ」
「ああ、なんじゃそんなことか」
武本はホッとしたような表情を見せると、恵瑠に頷いてみせる。それを受けて恵瑠は部屋の中に入ってくると、イナリの近くに座り自分の胸元に手を置く。
「その辺りは私が致します。出来るだけ不遜で強欲な愚か者を演じてみせますので、そうすれば自然と動き出すと思います」
「うむ……うむ。話は分かった。助力するのも問題はない」
「おお……!」
「しかし、しかしじゃ。3つほど確認させてくれるかの?」
イナリの言葉に2人が頷いたのを見て、イナリは指をまず1本たてる。
「まず、1つ目。覚醒者協会にこの話を持ち込まぬのは何故じゃ?」
「覚醒者協会はお家騒動には首を突っ込まんし、証拠は何1つない話だ。動かせるだけのものがない。そして動かせたとして、解決できるか分からん」
そもそも覚醒者協会は覚醒者を統率する組織ではあるが、支配する組織ではない。トップランカーたちに要請する権限も持ってはいる。いるが……今回の件に向いているトップランカーがいるかというと、また別の話だ。火力で解決する話ではない。
「では2つ目。何故儂に話を持ち込む? お主等ではいかんのか?」
「武本武士団では組織が大きすぎる。クラン抗争の形に持っていかれては、話が余計な方向にこじれる可能性がある」
そう、武本武士団も越後商会も「10大クラン」の1つだ。たとえ越後商会をもう「9大クラン」や他のクランが認めていなくても、世間一般的な認識として越後商会は10大クランと呼ばれるに足る巨大クランなのだ。
もし今回の事態に超人連盟が絡んでいるのなら、武本武士団VS越後商会の構図を作り出そうとする可能性がある。そうなればかなりの怪我人が出るのは間違いないし、日本の治安そのものが悪化してしまう。そうなった隙に超人連盟の更なる暗躍を許すのは避けなければならない未来だ。
「そこで、個人で攻防優れた覚醒者に今回の件を頼む必要があった。そんな状況で聞いたのがお主の活躍だったんじゃ」
「うむ。では3つ目。望む結果はどんなものじゃ?」
「可能であれば今回のお家騒動の終結。それと超人連盟が関わっていれば、それの排除。この2つが達成されれば、他はどうであろうと構わん」
「うむ。では請け負った」
それを聞いて、イナリはしっかりと頷く。先程と比べると随分とすっきりとした表情で笑顔すら浮かべていて、逆に武本のほうが困惑してしまう。
「結構な大仕事を頼んだ自覚はあるのだが……」
「まあ、人の子の権力争いは不得手じゃがの。恵瑠が道を整えるとあらば、儂は間違えんように力を振るいそれを助けるだけの話。斯様なものを面倒臭がり否と言うほど、薄情でもないつもりじゃ」
「そう、か。ではよろしく頼む。フォックスフォンのほうには、儂からも伝えておこう。便宜も当然図るつもりじゃ」
「うむ、よろしく頼む」
イナリと武本が契約成立の握手をすると、恵瑠はスッと立ち上がる。
「では私は荷物をまとめてまいります」
「うむ?」
「狐神さま、しばしの間ですがよろしくお願いいたします」
「えーと……? 何の話じゃ?」
「恵瑠がお主の家に泊るという意味じゃな。勿論たっぷり金は払うし持たせるし、便利に使ってくれていい」
「いやまあ……そうなるのは当然、じゃの」
刺客の類も来るかもしれないというのであれば、イナリの家に泊るのはまあ話の流れからすれば当然だ。恵瑠だけ武本武士団にいて間に合いませんでしたというのでは、意味がないにも程がある。
恐らく自室に戻っていくのだろう恵瑠を見送ると、イナリは武本に向き直る。
「ちなみに親御さんのほうはどうなっとるんじゃ?」
「あの子の両親は死んだ」
「それは」
「ずっと前の話じゃ。事故でな……覚醒していたあの子だけ生き残ってしまった」
当時から越後商会は内部がドロドロしており、マトモな引き取り手の居ない恵瑠を武本が10大クランとしてのパワーをぶん回して引き取った。それ以来親子のような関係を続けてはいるが、上手くいっているのかどうかは武本にも分からない。
「親代わりのつもりではいるが、結局こんなことの駒にしてしまっているのだ。人の親としては最低の類かもしれんな」
「ふむ。そういえばお主、恵瑠以外の家族はいるのかえ?」
恵瑠を武本の家族の枠にしっかりと入れた上で聞いてくるイナリに微笑みながら、武本は頭を掻く。
「今はもう居ない。あの世界の激変で大切な何かを失った者は多い……あのときに今の力があれば、と今でも思うよ」
「……悪いことを聞いてしまったの」
「いや、気にせんでええ。それより恵瑠のこと……改めて頼む」
「うむ、任せよ。しっかりお主の元へ帰そう」





