お狐様、知人が増える
それはイナリとしては、少しばかり意外な提案だった。普通であれば「所属していないなら、フォックスフォンについてはそのままでいいから自分のところに所属するのはどうか」と、そんな提案をするだろう。しかし、どうにもそうではない。
「意外じゃな。てっきり何処に所属するか選べという話をするのかと思うとったが」
「そう言ったら、所属してくれたかね?」
「いや? その場合は断っておったが」
からかうように言う迫桜院に、イナリもからかい返すように答えて。2人はほぼ同時に笑い出す。それを見て千堂が「うーわ……妖怪ジジイと話が合う奴初めて見た……」と呟いていたが、さておいて。
「そんなものは元から期待しとらんのだ。トップランカーたちもクランは未所属。必要ないからだな……そこの千堂が従妹にクラン入りを断られたのは、何も『ドラゴンアイ』が近距離職主体だからというわけではない」
「従妹というと……」
「千堂サリナだ。この前一緒の作戦に挑んだと聞いているが?」
「ああ、うむうむ。覚えておるよ」
『黒の魔女』千堂サリナ。確か2度ほど関わる機会があったが、そんなに話した記憶はイナリにはない。ないが……中々に目立つ格好をしていたのは覚えている。
「そもそもクランとは互助会ではあるが、儂らのように巨大になると、自分たちの利益だけではなく全体の利益を考える必要が出てくる」
「ふむ?」
「他のクランや単体で動く覚醒者が目を向けない、あるいは解決できない案件などだな。逆に言えば、単体でどうにか出来るような案件は儂らがどうにかする必要はない」
そう、クランとは集団の力だ。たとえばランキング1位の「勇者」のような、1人で突っ込んで解決できるような覚醒者はクランに所属する意味はない。自分より下の連中を並べてお山の大将をしたいというのであれば話は別だが、そういうのは10大クランという巨大組織の上には向いていない。
むしろ必要とされるのは調整能力であり、他のメンバーを使い問題を解決でき、何かあれば出て行ける程度の実力……そう、実力は最低条件であり、最後の手段なのだ。単体で滅茶苦茶強いなら、そういうのが必要とされる現場に1人で突っ込ませるのが一番良いのだ。組織に属する必要は微塵もない。
「儂らが10大クランなどと呼ばれるのは、単体の力では手の届かぬ場所をどうにかするために動いているからだ。この日本の覚醒者の力の底上げを狙ってもいるが……そういう意味では、すでにトップランカー級の力を持っているだろう君を勧誘する意味は、ないのだ」
「なるほど、勝手にやらせたほうが良いということじゃな。しかしそうなれば何故儂を呼んだんじゃ?」
「うむ。話になりそうだからじゃな」
「ひょ?」
これまた意外な言葉にイナリは疑問符を浮かべるが、その場の全員が……青山までもが「分かる」と頷いている。
「多少でも関わったなら分かると思うが……トップランカー共はとにかく癖が強い!」
「興味のないことには動かない奴もとにかく多い!」
「1位は問題外として、2位は自分の興味優先、3位は草津からほぼ動かない!」
「4位は水中戦専門ですし、5位は……まあ、今の5位はマシですかね?」
「聖騎士はあいつ、爽やかなツラして色々とな……」
前に会ったときには特に問題はなかったように感じたが、それ以外で何かあるのかとイナリは首を傾げるが、それ以上は誰も何も言わないのでイナリも特にツッコミはしない。陰口はあまりよろしくないし、実際会って決めるべきだからだ。
「しかし、そこにきて君だ、狐神殿。トップランカーと並ぶほどの実力でありながら性格に問題が無し。これは非常に大きい」
「ええ。ですから、私たち10大クラン……越後商会は除くので9大クランでしょうかね。私たちは、貴方と単純に縁を結びたくてこの場を設けて貰ったのです」
月山の言葉の意味を、イナリは考える。縁を結ぶ。なるほど、ひどく真っ当な話だ。実際にこうして顔を突き合わせ、今後の関係を構築する一助とする。イナリの都合も考え、1度でそういうのが済むようにもしたのだろう。イナリとしても、非常に好感が持てる。
「それは良い話じゃ。しかし縁を結んで何とする? 時折茶でも飲むかえ?」
「うむ。それで良い。その上で、儂らは『いざというとき』に互いに納得できる取引を出来る友人をも求めている」
「取引、のう」
「数ではどうにもならぬ力が必要になったときに助けてほしいというわけじゃな。儂らはその代わり、可能な限りの便宜を図るというわけじゃな」
つまりイナリは個の力を提供し、9大クランは数の力を提供する。つまりはそういうことだろう。9大クランほどの規模であれば文字通りの人海戦術も可能であるわけだから、取引としては妥当ではある。
「勿論クランが欲しいのなら譲ってもいい。武本武士団はいつでも歓迎だ」
「ぬかせ。そのときは富士を譲った方がマシじゃ」
「は?」
「なんだやるかジジイ」
「儂がジジイなら、貴様は2つ上のクソジジイじゃろが」
「お?」
「お?」
「ええい、やめんか見苦しい!」
イナリに一喝されて迫桜院と武本はその場に座り直すが……とにかくこの日、イナリと9大クランのマスターたちは友人……ではないが、知人となったのであった。





