お狐様、長野第2ダンジョンに挑む2
「わあ……なんか前より強くなってません?」
「儂としては誤差の範囲じゃがのう」
エリとイナリがそんなことを言い合っている中、他の4人は「ええ……?」と驚愕の表情になっていた。ウッドマンはそこまで強いモンスターではないのは確かだ。人間型であり多種多様な武器も使うが、ちょっと鍛えている覚醒者なら充分に対処可能ではある。あるが……今のはかなり凄かった。
「それはそうと……追加が出て来ませんね。居ないと判断するのは簡単ですが……ジェーン!」
「任せて、シャドウハイド!」
ジェーンの姿が黒い霧に覆われ埋もれていき、その姿が完全に消え去る。一定以上の暗さの場所で姿を消し匂いすらも消すシャドウハイド。影の中を移動する限りはほぼ見つからず、探す側からすれば闇の中で落ちた影を探すような、そんな「身隠し」系のスキルだ。
「凄いでしょう? 私たちでもジェーンが何処にいるか分からないですから」
「うむ、そうじゃのう。中々の技じゃ」
「……なんか視線が移動してません?」
「はてさて」
実のところ魔力が隠せてないのでイナリには何処にいるかしっかり見えていたが、たぶん同じことが出来る相手であれば同じように見えるだろうな、などとイナリは思っていた。まあ、わざわざ言うことでもないが……。
「魔力が見える相手には弱そうじゃの」
「実はその通りらしいです。普通のハイドだと匂いも隠せないらしいですから、それよりは上位なんですけどね。って、やっぱり見えてるんですね?」
「まあのう。魔力が漏れとるし。その辺を隠蔽できれば完璧なんじゃないかの?」
エリとイナリのそんな会話に、シズナがリリカを軽く突く。
「……だそうだけど、見える?」
「見えないですよ?」
「だよね」
マジシャンのリリカに見えないならサムライマスターの自分に見えなくて当たり前か、などとシズナは思うが、その辺が見えるようになればいつか役に立つかもしれない……などとも考えていた。さておきしばらくたつと、ジェーンがイナリたちの前に再び姿を現す。シャドウハイドを解除したのだろうが、緊張した様子で小屋の中を指差す。
「2体、天井に張り付いてる。かなりホラーだった……」
「うわ……めんどくさいパターン」
そう、そこがウッドマンの面倒なところだった。人ではないからなのか、それとも何か特殊な能力があるのか。吸盤でもついているかのように無音で壁登りや木登りをやらかし、そこから落下して攻撃してくるのだ。厄介極まりない相手だし普段なら無視している可能性もあるが、今回は大規模討伐だ。なんとかしなければならないが……。
「はい、全員集合。求む、家の中で天井に張り付いてるウッドマンの対処方法」
エリの号令に全員で集まると、ああでもないこうでもないと意見が出始める。
「爆炎魔法を家の中にぶち込むのはどうですか? 上手くいけば労せず一撃ですけど」
「結構良い案な気がする……」
「でも爆炎魔法って結構魔力消費あるでしょ? 全部の家でそれやるのはちょっと」
「じゃあ火魔法にして、反応して出てきたところをシズナが斬るっていうのは?」
「うん、結構良さそう……」
そんな案が出る中で、エリが「イナリさんはどうですか?」と聞けば、イナリは「ふむ」と頷く。
「あの家を壊すというのはあかんのかの?」
「ん……どうでしょう。いわゆるダンジョンオブジェクトって、かなりの破壊耐性があるって聞きますし。それに壊せたとして、何が起こるか……」
「ふむ。では話し合い通り、火攻めにする……というのであれば、儂に一計あるが」
「一計……火攻めって言いましたけどまさか」
「この村に火を放てば慌てて出てくるんじゃないかの」
「わーお……どう思います皆?」
エリが4人に視線を向けると、それぞれ「いいんじゃないかな」といった反応が返ってくる。唯一の例外はマジシャンであるリリカくらいだ。
「えっと、この村に火を放つっていうのはかなり広範囲の火魔法だと思うんですが、魔力大丈夫ですか?」
「問題ないのう」
「では、問題なしということで……イナリさん、お願いします」
「うむ、ちと離れとるとええ」
イナリはそう言うと刀身に指を這わせ滑らせる。
イナリの指の動きに合わせ火を纏っていく狐月はボウと燃え上がって。
「秘剣・草薙」
振り抜いた刀の軌跡に合わせ地面が燃え上がり火が村全体へと広がっていく。元々そんな大きな廃村でもない、火が広がっていく中で家々のドアが開き、ウッドマンたちが武器を構えて飛びだしてきて、そのまま燃え広がる火が燃え移り一瞬で焼けていく。
「コオオオオオオオ!?」
「ココココココ!」
「ココココココオオオオ!?」
まあ、当然だ。ただの火ではなくイナリによる神通力の火である。かつてウルフをもあっさり燃やし尽くした火にウッドマンたちが耐えられるはずもなく。あっという間に消し炭になって魔石をドロップしていくウッドマンたちを見ながら……リリカは魔法系ディーラーとしての嫉妬すらわいてこない差を見せつけられて遠い目になっていた。