お狐様、お家でゆったり過ごす2
テレビの内容としては狐グッズが流行っていて、その起点がどうにもイナリであるらしい……といったようなものだった。まあ、どうにもフォックスフォンが要望に応えて一般向けのスマートフォンを売り出したことも関係しているようであり、そこから今までイナリを知らなかった非覚醒者の人々にも「イメージキャラ」としてのイナリが浸透し始めたようだ。
―めっちゃいいですよね。クラスでも流行ってます―
―クラスで? どんな風にですか?―
―やっぱりまだ公式のグッズが少ないから、狐っぽいグッズとかをそれとなくつけるんですよ―
―あ、じゃあそのきつね尻尾のキーホルダーって―
―はい、そんな感じです―
―このように、町に狐グッズが溢れることで他の人も購入して、そこから更に狐神イナリさんに辿り着くというループが出来ているんですね―
どうにもそんな感じであるらしいが……まあ、つまり皆が買うから狐グッズが最近増えているという話でもあるようだ。イナリとしてはどうにもコメントし辛い話である。
「こういうのって機会損失っていうんじゃねーの?」
「うーむ。怪しげなのは弾いて厳選しとるとは赤井は言うとったが」
「ま、そりゃな。グッズが乱発されると、品質の問題とかも出るっていうし」
実際、そういうグッズは業者側の持ち込み企画となることも多いので、イメージ図やサンプルとは全く違う酷いものが売り出されてしまう……といった事例もたまに……本当に稀なことだが、実際にあったりする。他にもまあ色々とあったりするのも事実で、そういう点ではフォックスフォンは厳格にグッズの作成を管理している。
そんな話をしていると特集も終わったようで、アツアゲがポチポチとリモコンを操作していけば何やら特撮番組の再放送がちょうど始まったところらしい。
「あ、これ知ってる。仮面ドライバーXだ」
「ほー」
「役者が主役級は覚醒者なんだよ。ほら、本人がバリバリのアクションできるだろ?」
「あー、確かにのう」
仮面ドライバー。長く続く特撮の金字塔だが、覚醒者という本物の超人の登場で「よりリアルなアクション」が出来るようになったという。まさにリアルヒーローの登場というわけだが……当然、本物だから作り物より良いかといえば、そんなことはない。特撮アクションとは磨き抜かれた技術によって成り立っており、役者が覚醒者で動けるからと全てが良くなるわけでは絶対に無いのだ。
当然のようにアクション指導はなされており、本格的にその道に進む覚醒者もいるというが……まあ、その辺はさておこう。大切なのは、そうしたアクションが更に進歩したという事実だけだ。
―ワイズ……俺はお前を止める! 変身!―
―出来ると思うかエックス……変身!―
「つまり、あの変身も」
「あれはCGとか使ってるに決まってんだろ」
「残念じゃのう……」
「あー、でも最近はほぼ『出来る』って聞いたな……どうなんだろ。詳しくねえからなあ……っておい、なんだよ」
気付けばヒカルをアツアゲが見上げていたが、心なしか期待しているようにも見える。
「お前はヒーローじゃなくてロボットのほうだろうがよ……」
「ほれほれアツアゲ。そろそろ必殺技が出るんじゃないかのう」
イナリがアツアゲを促してテレビの前に戻らせるが、それを見ながらヒカルは「うーん」と唸る。
「あいつはどういう方向性を目指してるんだ……?」
「さあのう。思うようにやってくれればいいとは思っとるが」
言いながら、イナリは台所から聞こえてくるお米の炊けた音に反応して立ち上がる。
「どれ、ご飯も炊けたようじゃし、昼を作るとするかのう」
「手伝うよ。何作るんだ?」
「うむ……焼き飯じゃ」
「チャーハンってことか」
「その2つ、どうにも違うみたいじゃよ?」
「え、マジか」
そんなことを言いながらイナリとヒカルは焼き飯の準備を始めていく。とはいえ、ご家庭でも出来る簡単なものだ。
まずはタマネギを微塵切りにして、小さく切ったウインナーと共に炒める。いい感じになったら卵を流し入れて、最後にご飯を入れて塩コショウで味付けしていけば完成だ。
ホッカホカの焼き飯にきゅうりのぬか漬けを切って小皿に入れれば、野菜もバッチリだ。あくまでイナリの感覚的にはだが。
「ん、美味い」
「うむうむ。やはり米は良い……」
「つーか米も高いし炊飯器も高いし。米大好きだよなほんと」
「米は良いぞ……あれには人の愛が詰まっとる」
「お、おう」
そういうのをヒカルは感じたことはないが、まあ農家の人の努力と苦労は詰まっているかもしれない。とりあえず、こういうのは普段ヒカルは食べないのでなんともホッとする味ではある。ご家庭の味、というのだろうか? ヒカルはそういうものがあまりない家庭に育ったので、ヒカルにとって「家庭の味」とはイナリの作る料理の味であったりする。
「そういえば今日はヒカルは泊っていくんじゃったな?」
「おう。自宅にいてもやることねえからなあ……ん?」
テレビのリモコンを差し出してくるアツアゲに気付き、ヒカルは受け取る。うんうん、と何やら頷くアツアゲが何処かに歩いていくのを見て、ヒカルはイナリに視線を戻す。
「えーと……どういう意味?」
「そんなに暇なら好きなの見ていい、ということじゃないかのう」
「え? そういう意味なの? おいこらアツアゲ! 別にチャンネル選ばせろって言ったわけじゃねえから! 何処行ったおーい!」
アツアゲと何故か追いかけっこを始めているヒカルを見てイナリは満足そうに頷く。
「うむうむ、仲が良いのう」
仲が良いかはともかく、ヒカルとの騒がしい一日はそうして過ぎていくのであった。