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何も知らないお狐様

「ふうん。そういうこと、ね」


 そこでようやく、月子は納得がいったような表情になった。確かに月子は異界の魔力を検知できるような機器を作ったし覚醒者協会にも提供した。しかしそれは、利島の事件を解決するために調整したものであって全ての異界の類を無差別に検知するようなものではない。つまり、それは1つの事実を指し示している。


「利島の件とは別口ね。利島の異界が復活したのではなく、恐らく同じ都市伝説系の『何か』が別の異界を作っていた。そしてそれは恐らく……『狐神イナリ』の介入を嫌がっている」

「え? 何それカッコいいわね」

「うっさい。とにかく、なんていうか……『根』は同じなんじゃないかしら。一連の事態に共通して関わっている『何か』がいる。そんな気がするわね」


 そう、月子は報告書という形でしかそれを知らないが、前回の利島の件でイナリは祟り神を名乗るモンスターを倒し、利島の異界を消し去った。もし、それを理解している何者かがいたとして……イナリが来ること自体を拒んでいるとしたら「移動する異界」などというものがこのタイミングで現れた説明はつく。


「けれど、それはどうにでもなるはずよ。機械の調整をして、利島の問題の場所に魔力が残留でもしていれば新しい異界も見つけられるわ」

「おお、なるほどのう。ところでその機械は何処にあるんじゃ?」

「え? 何処ってそんなの1か所しかないでしょ。こういうのは」


 月子がそれを言いかけたそのとき。部屋の外から騒がしい音が聞こえ始める。まるで何かを妨害するような音や声、そして警笛音まで。


「な、何事よ!」

「襲撃者? え、日本本部に?」

「やれやれ。俺が見てくるよ」


 獅童が立ち上がり会議室のドアを開けると……その頭上を、白く輝く抜き身の刀が通り抜けていく。同時にその横を、小さな何かがすり抜けて。


「え!?」

「嘘でしょ!?」

「はあ!?」

「なっ……!」


 4人が驚いたのも無理はない。白く輝く刀に一歩遅れて飛び込んできたのは、今この場にいる「狐神イナリ」だったからだ。驚愕し元々いた「狐神イナリ」に視線を向けると、それは邪悪な笑みと共に姿が揺らいで。


「せえええええいっ!」

「フヒャハッ!」


 白い影のような何かになった偽イナリが、狐月を掴み取ったイナリが刀を振り下ろすと同時にその場から消え去る。ただそれだけで、今まで此処に居たのがイナリではなかったと示すには充分で。


「こっちだ!」

「居たぞ、偽物だ!」

「押さえろー!」

「なんとお!?」


 追いついてきた警備職員たちが飛び掛かってくるのをイナリは飛んで避けて青山の後ろへ移動する。


「なんとかしておくれ! こ奴等、儂が本人だと言うても聞かんのじゃ!」

「え、はあ。あー……警備の方々。恐らく『こっち』が本物です。というか本人確認手段はあったはずでは?」


 イナリがほれ、と言いながら差し出してくる覚醒者カードを確認しながら青山が言えば、警備職員は疑わしげな表情でイナリをじっと見ていた。


「勿論です。すでに入室記録がありましたし監視カメラでも本人がすでに中にいることが確認できておりましたので……ところで、此処に居るはずの本物は何処に」

「それが偽物です。どうやら何らかの手段で本人認証を誤魔化されたようですね」

「えっ、それでは」

「戻っていてください。それと」

『緊急、緊急。23階研究室にて異常発生。警備職員は急行願います』


 同時に警備職員の持っていた無線が音声を流し始める。それはどうやら急行したらしい警備職員からのものだった。


『警備7班。23階研究室に現着。魔法か何かで内部が吹っ飛ばされている。被害状況をこれから詳しく確認するが、医療チームも急行させておいてくれ』

『警備本部。了解した』


 それを聞いていた青山と月子は思わず顔をしかめてしまう。23階研究室。それはまさに月子の作った機械が置いてあった場所だからだ。


「噓でしょ。さっきの今で場所を見つけたっていうの!?」

「いや、さっきので予備がないかを確認されてたんじゃないか? つまり……」

「まさかずっと潜入していた……!? いえ、それよりも今」


 青山は狐月を持ったままのイナリへと振り向き「一体どういうことなんですか!?」と問いかける。今まで話していたイナリが偽物だった……確かに妙に喋らないと思ったが、本物が「遅れてきた」理由があるはずだ。もしかして、それも。


「うむ。乗っておったばすが凄まじい速度で走るご老体に襲われての。あれは恐らく、たあぼ婆と呼ばれる類のやつだと思うんじゃが」


 それはイナリが倒したのだが、そのせいでバスが動けなくなって移動が遅れてしまったのだ。そこで電話もかけたのだが……すでに本人が来ているということで悪戯扱いされてしまったようだ。これはよく確認すれば本人からの電話と分かったはずだが、もしかするとそこにも何かが介在していた恐れがある。とにかく、そんな事情でイナリは「これは何か起こっている」と急行し、ゴチャゴチャ言う警備をひとまず無視して「祢々切丸」で原因を追ってきた……というわけだ。


「しかし現代で斯様な化け狸の如きものが化かしに来るとは……流石に儂も想定外じゃったが」

「……警備体制を見直す必要がありますが……祢々切丸。原因を追う……ですか」


 青山は月子と頷きあうと、イナリに「狐神さん」と呼びかける。


「む? 何かの?」

「そういうのがあるなら言ってください」

「ええ。これでどうにかなりそうね」


 その場にいた面々が頷く中……何も聞いていない警備職員とイナリだけが、何も分からない顔をしていた。

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― 新着の感想 ―
擬態してくるとかヤバァ あぁ前話の台詞でも手段について探ってたのか
[一言] 電話やカメラがごまかせるなら警備機器もごまかせるか 都市伝説型モンスターってのは人間に対しては本当にどうしようもないほど強いな…
[一言] 特攻 かと思った!
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