集まった面々、説明を受ける
紫苑行方不明から、2日後。イナリは覚醒者協会本部に呼ばれていた。
会議室に通されたイナリは周辺海域の写真などを見せられ、今回の経緯の説明を受けていた。
しかし、今回はイナリ1人ではない。他にも3人の覚醒者が居た。
2位、『プロフェッサー』真野 月子。
5位、『黒の魔女』千堂 サリナ。
そしてトップランカーの5人からは現在弾き出されているが……6位、『聖騎士』獅童 耕哉。
年齢は20代前半くらいだろうか、精悍な顔は若さに満ち溢れ、短くざんばらに切った赤髪は覚醒して変化したものであるらしく、目も炎のように赤い。
細身の筋肉質の身体は真っ白な鎧に押し込まれ、壁に立てかけられたシンプルなデザインの剣と盾は、獅童が恐らくは物理系のタンクであることを示していた。
そして覚醒者協会側から来ているのは、青山であった。やはり重要度が高いからなのだろう。その表情は真剣そのものだ。
「これが今回の経緯です。此処までで何かございますか?」
青山の質問に、耕哉が軽く手を上げる。
「なら、確認の意味で1つ。集まったのはこれで全部かい?」
「はい。『勇者』は現在インドの奥地でダンジョンの攻略中。『要塞』は……いつも通りです」
「相変わらずってわけか。蒼空にはもう少し日本を優先してほしいんだが……」
「アイツに期待するのは情緒の無駄ってもんでしょ。世界中から引っ張りだこの勇者サマなんだから」
月子も言いながらハッと馬鹿にしたように笑う。実際、『勇者』は今年は日本より海外に居る時間が長いようだから、そう言いたくもなるだろう。それでも不動の1位なのは……まあ、それだけ強いというのもあるのだろうが。
「居ない奴のことはいいでしょ。それで? 経緯は分かったわ。水中系の能力者ではなく、私たちを集めた理由は?」
「はい、その理由はこれです」
サリナの疑問に青山は1枚の写真をスクリーンに映し出す。それは紫苑が撮影した最後の1枚……謎の海中遺跡の写真だった。
「これは『潜水艦』が最後に撮影した写真です。御覧の通り、遺跡のようなものが映し出されています……が、これらしきものは現時点でも見つかっていません」
「ふーん。とても『それっぽく』見えるわね」
月子は興味深げにそう呟く。そう、それはまさに遺跡といった風だ。階段のようなものに祭壇か建物跡か……そんな感じの人工物のような何か。まるで海底にそうした遺跡を作った何かしらの文明がかつて存在した、その証明であるかのようだ。
「このタイミングで出すってことは、これは遺跡ではなく都市伝説型のモンスターか、あるいはモンスターの用意したなんらかのスキルによるもの。そういうことなんでしょ?」
「はい。恐らくは利島の件の再来……あるいは同様の事態であると協会では考えています」
「それで理解は出来たわ。利島の件の功労者……1度出来たなら今回も出来るというわけね」
黙ってお茶を飲んでいるイナリに月子が視線を向けると、イナリは「完全に同じかは分からんがのう」と答える。
「しかし、そうだとすると私を呼んだのは間違いじゃない? オカルトタイプのモンスターは基本的に魔法型に分類される……私は鈴野と同じくゴリッゴリの物理型よ? あと千堂呼んだのも間違いね。こいつの『暗黒魔導』はオカルトタイプにあんまり効かないでしょ」
「うっ……まあ、そうね。同じ闇に属するからって威力が大幅に減衰するわね」
「まあ、そうなると俺か。そこのコガミ……さんが『狐巫女』っていうジョブでオカルトモンスターに強いらしいのは聞いたけど、それなら他にも同系統のジョブを集められなかったのか?」
巫女、神官、エクソシスト……オカルトモンスター特攻のようなジョブは勿論存在している。獅童が言っているのは、つまりそういうこと、なのだが。青山はゆっくりと首を横に振る。
「残念ですが、めぼしい覚醒者からは埼玉第4ダンジョン関連と伝えた時点で断られています。皆さん口を揃えて『あそこは殺意が高すぎる』と……それが外に出たようなものを相手にしたくないそうです」
「正直、気持ちは分かる。俺もあそこのモンスターはあまり相手したくない」
「聖騎士でしょ?」
「まあな。でも確かに殺意が高すぎるんだよ。一番外に出ちゃいけないタイプのモンスターの群れだ」
それより、と獅童は青山に視線を向ける。
「聞きたいことがある。まず、今回の話は分かった。しかし、事件発生から2日たった理由は何だ? 今の説明は個別に資料を送っても出来たはずだ。まさか鈴野さんの生存を諦めたんじゃないだろうな?」
「いいえ。ですが今回トップランカーの1人が行方不明になったことで、上の方で『勇者』を即座に呼び戻すべきだと議論が紛糾しまして」
「無理だったから代わりを集めた、か。傷つくな」
「申し訳ありません」
青山が頭を下げたところで、イナリが机をコツンと叩く。
「斯様な内情はどうでもよかろう。問題は如何にして『潜水艦』の連れ去られた場所へ辿り着くか、じゃ。前回は確か『見つける手段』があったはずじゃが?」
「……はい。それが一番の問題です」
前回月子が作り出した異界の魔力の検知器。それに今回、何も引っかからなかった。それが事態の把握に時間をかける要因になったのだと。青山は多少言い難そうに……しかし、しっかりとそう告げた。
今回、何か思った人へ。それは誤字ではありません。