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だんじょんくりあなのじゃ

 ワーウルフ。文字通りの狼男だが、お伽噺のそれのように人から狼に変わったりするようなものではない。人間のような身体を持つ狼型モンスターであり、人間の器用さと狼の如き身体能力を兼ね備えた強敵だ。鉄の防具にも爪痕が残るほどの攻撃力を持つ爪は、初期の覚醒者を多く葬ったという。


「私が前に出ます!」

「要らぬ」

「え?」

「要らぬ。前に出られてはこちらの手が減るでの」


 言いながら、イナリはワーウルフと対峙する。互いに隙を窺うかのような動きに、安野は「おかしい」と気付く。


「警戒している……? ワーウルフが?」

(いくら狐神さんが強くても、ワーウルフよりは動きが遅い。なのに襲ってこないってことは……もしかして、真正面からじゃ勝てないと思ってる?)


 それはあまりにも非現実的な考えだった。いくらここまで無双してきたイナリでも、ワーウルフはレベルが違う。そんなワーウルフが、イナリを恐れている? それとも聖刀を恐れているのか? 安野には分からなかった。


「フン、意外に敏いのう。正面から来るなら真っ二つにしてやろうと思うたが」

「イナリさん、冗談言ってる場合じゃありませんよ! ワーウルフ相手に時間を与えちゃいけません!」

「何故じゃ?」

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ぎゃー、間に合わなかった!」


 ワーウルフが叫ぶと同時に、その周囲に数体のウルフが現れる。どれも通常のウルフより多少大きく、毛皮の色も異なっている。便宜上「取り巻きウルフ」と呼ばれており、何度でも喚び直しされるワーウルフの召喚モンスターだ。そしてこれらは……ワーウルフを勝たせるために、その命を惜しまない。


「ガルルル!」

「ガウウウ!」

「ガアアア!」


 一斉に襲ってくる取り巻きウルフたちを前に、イナリは刀身に指を這わせ滑らせる。

 イナリの指の動きに合わせ火を纏っていく狐月はボウと燃え上がって。


「秘剣・草薙」


 振り抜いた刀の軌跡に合わせ地面が草原の草ごと燃え上がり広がっていく。


「ギャン!?」


 空を飛べない以上、取り巻きウルフたちは襲い来る火に焼かれ消滅していく。

 それほどの凄まじい火力は扇状に広がっていくが、その上をワーウルフがジャンプして越えようとしてくる。

 咆哮と共に襲い来るワーウルフの爪を切り裂いて、その身体をもまとめて真っ二つ。

 断末魔もなく消えていったワーウルフの居た場所には、ベルトのようなものがどさりと落ちる。

 狼のマークのバックルのついたベルトに安野は「狼のベルト……」と呟く。

 着ければ攻撃力が僅かに上がると言われる、レアアイテムである。ワーウルフの珍しさもあって、最低価格で50万はするような代物だ。

 なんだかもう、驚きすぎてぼーっとしていた安野は刀を鞘に仕舞う音にハッとする。


「さてと、ゆにーくもんすたあは倒したが、これでは終わらんのじゃろ?」

「え!? はい! 今のはボスじゃないのでクリア条件にはなりません。あ、でもほら! レアアイテムは出ましたよ! よかったですね!」

「そんな柄の帯はいらんのう……」

「ええ!? これ初心者どころか中級者でも欲しがるようなものですよ!?」

「儂はいらんのう。安野が巻けばええんじゃないかの?」

「ダ、ダメです! 職務規定違反です! いらないなら後でオークションに出しましょう!」

「好きにしておくれ」


 何が悲しくて狼の柄のものを着けなければならないのか。イナリとしては絶対に嫌であった。

 ともかく、イナリとしては好きにしてくれて構わないのだが……魔石を拾っていた安野を見て「おお」と手を叩く。


「そういえば、そういうのを回収するのも仕事じゃったの」

「はい。ですけどまあ、今回は私が回収します。なんかもう、狐神さんが凄すぎて私、要らない子ですし……」

「そう卑下するもんではないのじゃ。此処の予約をやってくれたのは安野じゃろう?」

「え、ええまあ。ですがそれは」

「それに昨日は安野のおかげで上手い飯も炊けたしのう。感謝しとるよ」


 私の価値……と呟いて落ち込んでしまった安野だが、イナリとしては本気で感謝してたので「ど、どうかしたかのう?」と心配になってしまったが……さておいて。

 ワーウルフをも倒してしまうイナリにとって、ボスであるグレイウルフなど何の問題もない。


「お、いたのう」

「え? 結構遠くですけど……凄いですね」

「目は良いのでのう。さて……狐月、弓じゃ」


 イナリの手の中で刀だった狐月が輝きと共に弓へと変化し、安野が「ひゅっ」と息を呑む。


「え? その弓、さっきまで……」

「狙いは……よし。それっ!」


 弓を引くイナリの手の中に現れた光の矢が一条の閃光となり、グレイウルフを一瞬で消滅させる。それはダンジョンゲートを消滅させた一撃に比べればずっと弱いものだが、安野にとってみれば精神的な衝撃が凄まじい。


「魔弓? え、でもさっきは刀で聖剣で。ええ? 確か狐神さんのスキルは……え? 召喚って……可変武器の召喚? それも聖剣に魔弓? えええええ?」


 混乱した安野がウネウネと変な動きをしているのを余所に、イナリは出てきたメッセージを見ていた。


―【ボス】グレイウルフ討伐完了!―

―ダンジョンクリア完了!―

―報酬ボックスを手に入れました!―

―ダンジョンリセットの為、生存者を全員排出します―


「うむ、この表示はごぶりんの時にも見たのう」


 どうにも固定ダンジョンという場所は「そういうもの」であるらしく、イナリもマッチングのときのダンジョンと合わせ2回目ともなれば驚きもない。


―転送開始―


 そんなメッセージと共に、イナリと安野はダンジョンの外へと転移していった。 

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秘剣かっこいい!
[一言] 魔剣とか聖弓はないのかな
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