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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第四章

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お狐様、シャンプーする

 翌日。秋葉原の使用人被服工房に来ていたイナリは、バックヤードでエリに髪を梳かされていた。この為に買ったというブラシの感覚はなんとも気持ちがいいのだが、髪を梳かす側のエリが何故嬉しそうな顔をしているのかはイナリにはよく分からない領域だ。


「はー……そんなことがあったんですねえ」

「うむ」

「でもいいんですか? 私にその利島とかいうとこの話しちゃって」

「構わんよ。信用できる者には話してよいと聞いておるしのう」


 エリのことは信用しとるよ、と言うイナリにエリは胸元を押さえて「ウッ」と呻く。不意打ちでそういうことを言われるのは結構効くもので……イナリの場合本気でそう言っていると分かるからこそ、更に効く。


「大丈夫かえ?」

「だ、大丈夫です。えーと、何のお話でしたっけ……あ、ポニーテールにしていいです?」

「ええよ」

「やったー」


 そう、今はヘアケアとヘアセットの練習をしたいというエリの練習に付き合っているのだが……何故かこの使用人被服工房、美容室の如き本格的設備がバックヤードに存在している。何故か、とは言ったが「より高品質なメイドっぽさ、執事っぽさ」を目指す使用人被服工房のメンバーは、美容師免許や理容師免許の取得補助を受けていたりする。

 そしてエリも美容師免許を取得済であり、メイド仲間同士でのこういう設備を使った専門学校並の講習が勤務時間の範囲で行われていたりする結果であったりする。

 勿論取得後も腕は磨かなければ錆びるもの。というわけでヘアセットの練習としてイナリにお願いしている……という経緯があったり、他のメイド仲間にかなり本気で羨ましがられたりと、そんな経緯があったりするのだが。


(視線を感じるのう……)


 その羨ましがっているメイドたちがチラチラと覗いているのはイナリとしてはそんなに練習台が足りないのだろうか……という気持ちである。勿論そうではなくイナリの髪で遊んでいるのが羨ましいからなのだが。


「しかしまあ、都市伝説ですか……私はそんなに詳しくないですけど、聞いたことくらいはありますかね」

「ほう、そうなのかえ?」

「はい。えーと、なんだったかな……あ、そうそう。横断歩道が青になったときの音楽がいつもと違ってたら渡っちゃいけないとか。別のとこに繋がってるんだそうですよ」

「その手の都市伝説は多いんじゃのう……」


 きさらぎ駅にせよ四次元婆にせよ、異界に繋がる類の都市伝説の何と多いことか。まあ、それがただの都市伝説であるからこそ問題ないのだろうが……その類が全て現実になれば人間はすぐに町から消え去ってしまいそうである。


「あー、そういえば横断歩道の白いところ以外を踏んだら死んじゃうってのもありましたねー。まあ、あれは都市伝説っていうよりは子どもの遊びの謎ルールなのかもですけど……っと、出来たー!」

「ふうむ。なんだか新鮮じゃのう」


 ポニーテールになったイナリは、普段の自分では絶対にやらない髪型に何度も頷く。三つ編み、サイドテール、ツインテール、お団子頭にアップスタイル。色々と髪型を変えていく中で、小さな柔らかいブラシで狐耳の毛をも丁寧にブラッシングしていく。


「さて、と。では次は髪洗いますねー」

「人に洗ってもらうというのも何とも面白いのう」


 美容室の洗髪というものは、店にもよるが仰向けの状態で髪を洗うものが多い。目や鼻などに水が入りにくい、リラックスできる形と言えるが……シャカシャカとリズミカルに洗髪する手は、まさにプロの手つきで。イナリからも「おおー……」という声が漏れる。そうしてドライヤーで乾かして、綺麗にセットすれば出来上がりだ。


「うーむ。なんだか髪の艶が良くなった気がするのう」

「ですよねー。サロン用の高級な奴らしいですよ」

「ふむ……」


 イナリはそれを見て頷くと、椅子から降りてポンと叩く。


「儂もやってみたくなったのう。エリか、ダメなら暇な者がいれば儂にもやらせてくれんかの?」

「はい!」

「はーい!」

「はいはい! 私が居ます!」

「ダメですー! 今日は私のイナリさんですー! 引っ込め戻れお帰りくださいお嬢様がた!」

「エリずるーい!」

「これから訪れる瞬間のためなら……私は戦う……!」

「これ、ケンカするでないぞー?」

「してませーん!」


 まあ、なんかそんなことがあったりしつつも、イナリはエリの髪を洗う準備をし始める。動く椅子はなんとも面白いが初めてなので何度か調整しつつ、エリがやったようにガーゼをふわりとその顔にかける。


「さーて、始めるとするかのう……っと、高さが足らんのう」

「はい、どうぞ。踏み台です」

「おお。ありがとうのう、シズナ」

「いえいえ」


 前に家に来たメイドの1人のシズナが台を置いてススッと下がっていくが……そのまま見物人の1人に戻ったようだ。


「では、改めて。まずはお湯でゆっくりと全体を流して……熱さは大丈夫かのう?」

「あ、はい。大丈夫です……」

「さんぷうを、手にこのくらいとって……しゃかしゃか、しゃかしゃか。ふふ、どうじゃ? 上手く出来とるかのう?」

「あ、寝そう……お耳が幸せになる……」

「やっとるのは頭なんじゃが……もしや、耳がかゆいのかのう?」


 そんなイナリのシャンプーを見ていたメイド隊の面々いわく。「羨ましい」しか感想が出てこなかったそうであるが、使用人被服工房は概ねいつでもそんな感じである。

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― 新着の感想 ―
執事・メイドガチ勢で高スペックだなぁ 「しゃかしゃか、しゃかしゃか」いいなぁ
[一言] 調理師免許とかソムリエとかいろいろ持ってそうだなぁ
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