お狐様、カードが銅になる
結果から言うと、利島の件は表沙汰にされないことが決まった。ただでさえ海への恐怖がある中で、利島のような離島にそういう危険性があるなどという話が表に出れば、今現在他の離島に住んでいる人々や漁業関係者など、色々な方面に大きな影響が出るのが確実だったからだ。
何もかもを公開することばかりが正しいわけではない……いわゆる知らなければ幸せというものだが、実際問題が解決したからには無駄に不安をあおるのが間違いというのは事実ではあるだろう。
とはいえ、様々な補償は勿論、功労者への明快な報酬というのもまた与えられるべきだ。
今回の事件を解決したイナリには、かなりの額の報酬が振り込まれていたが……それでイナリが喜ぶかといえば「さよか」の一言で終わってしまう話であったりする。
「今回の件、ほんっとうにお疲れ様でした……! 事態が事態なだけに完全部外者だったんですが、本当に心配してたんですよ……!」
「うむうむ。ま、実際放置すれば本州まで被害が及んでいたじゃろうしのう。その辺りの責任を負わんようにしてくれたんじゃろうのう」
「報告書は読みましたけど……祟り神のくだりは結構『上』は半信半疑だったみたいですよ」
案件を担当するということは、何かあったときの責任を負うということでもある。今回の件は新人に毛が生えた程度の安野に任せるにはあまりにも被害者が出すぎていて、「話題の覚醒者」のイナリを失った場合の想定される責任も大きかった。
だからこそ安野ではなく青山が出てきたのだろう……失敗したときに責任をとれる人間という意味合いもあったのだろうが、まあその辺りの話はさておこう。単に青山は上に立つ人間としては結構部下想いという話なだけだ。
そして安野のいるこの場所はイナリの家であり、お昼がまだということで安野はふりかけご飯をサクサクとごちそうになっている最中の話であった。
「いくら狐神さんが凄くても、そんな『神』なんてつくようなものを倒せるとは思えないし、そもそも『神』とつくモンスターが出たことはない、と。あ、私が言ってるわけじゃないですよ!?」
「何を今更。神の如きものの話はどうなったんじゃ」
「うっ。ぶっちゃけた話でいいますと、狐神さん以外にその神さまを確認できていないのに真実のように扱うのはどうか、みたいなことを言い出した幹部がいるらしくて……いや、ほんとはこれ言っちゃいけないんですが……」
「その辺りは何時の世も変わらんのう」
まあ、イナリとしても分からない話ではない。イナリ以外にその存在を証言する者がいない「神の如きもの」。物的証拠もないのだから、イナリが実際以上に自分の業績を飾っているという疑いが出てこないほうが不自然だ。
別にそのあたりはイナリはなんとも思わないが、安野は居心地悪そうだ。
「その。祟り神から何かアイテムとか……そういうのドロップしなかったって話ですけど」
「そうじゃのう。報酬で銀の箱も貰ったが……」
「上級マナポーションでしたっけ。いえ、凄いアイテムなんですけどね」
そう、あの後青山から「祟り神からドロップしたものはあるか」と聞かれて「無い」と答えたイナリが思い出したように出したのが銀の報酬箱だった。ダンジョンではない場所でイナリが銀の報酬箱を手に入れたことから「相当な事態があった」という証拠にはなったが、それが祟り神の存在を証明するかといえば話は別になってしまう。
そして開けてみた報酬箱から出てきたものが上級マナポーションである。高い実力のある魔法系覚醒者が魔力を限界まで使い切って何も出来ない状態からでも半分飲んだだけで魔力が全快すると言われており、あれば一発逆転を狙える秘薬とされているものの、流通量は極端に少ない。
まあ、例によってオークションに出されて今競り合っている最中なのだが……さておこう。
とにかく、それでは「祟り神」の存在を肯定する材料にはならないということなのだ。
「ま、儂は儂の見たものは教えた。どう判断するかは自由じゃの」
「いやほんと、それにつきましては所属組織ではあるんですがなんとも……」
「別に責めとるわけではないぞ? 幽霊の正体見たり枯れ尾花、大山鳴動して鼠一匹。儂1人の言葉に踊らされて組織の運営は出来まいて」
実際、青山レベルではイナリの話をかなり真剣に捉えていた。その辺りはバランスの話でしかない。それにその辺りの話を抜きにしても、イナリが偵察隊が全滅するような場所で活躍したこと自体は、持ち帰ったモンスターの魔石からも疑いようがない。確かに利島には少なくない数のモンスターが居たのだ。
「と、いうわけでして……その辺りの諸々の事情の結果なんですが、カードの色が変わります。今後は銅です」
「うむ。前のものを渡すんじゃったの。ほれ」
「はい、確かに」
そう、覚醒者カードは上から順に金、銀、銅、黒、緑、青、赤、黄、白となっている。
今まで持っていた黒と比べても、レベルの違う……素材からして特別感の漂うレベルだ。
具体的にはクランを立ち上げても人が集まる程度には凄い。まあ、イナリはそんなものを作る気はないのだが。
フォックスフォンのイメージキャラ、狐神イナリ。その程度で何も問題はないのだから。