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お狐様、池袋に行く

 イナリと紫苑が埼玉第4ダンジョンを攻略してから数日後。今日のイナリはなんと池袋に来ていた。新宿とは比較的近くに位置し、しかしながら大分性格の違う街だ。かつては東京の中でも特に発展している街の1つであり、最先端とサブカルチャーが違和感なく融合した街であったという。かつての秋葉原と違うのは、女性向けサブカルチャーの勢力が強かったことだろうか。

 しかしまあ、池袋も例外なくかつてのモンスター災害の被害を受け、今は様々な文化が融合する街として再生している。

 秋葉原からサブカルチャーが消え覚醒者の街となったことも池袋がそういう街へと進化したことに一役買っているのかもしれないが……ともかく、そんな池袋にイナリが来たのには当然理由があった。


「んーむ……これだけごちゃごちゃしとると、どうにも分からんのう」


 イナリの手元の覚醒フォンには図書館までの地図が表示されていた。そう、池袋大図書館。そんな一見大仰な、しかしその名に相応しい施設が池袋には新しい時代の池袋の象徴として存在していた。サブカルチャーから図鑑に専門書まで、手広く集めている図書館だ。

 勿論古今東西あらゆる本を集めているというわけではないし、入れ替えも発生するが……それでも、何かを調べたいと考えたときの取っ掛かりにはなる。

 だからこそイナリは今回池袋に来たというのに、様々な建物が乱立して物凄いゴチャゴチャしている。表通りと裏通りが入り組んで複雑なことになっているこの池袋は、全く違う場所でありながら何処か似通った空気をかつての時代も、そして今も漂わせている。

 ただ1つ違うのは、池袋は一般人も多く歩いている「普通の街」だということだ。そしてイナリは物凄く目立つ。もう、とんでもなく目立つ。

 狐の耳に狐尻尾、そして巫女服。これが美少女に装備されていれば、大抵の人間は1度は見る。しかもそれが明らかに本物に見えるクオリティで、美少女っぷりが物凄かったらどうだろう。2度は見るだろう。人によっては3度見るかもしれないし、あるいは目を離せなくなるかもしれない。

 イナリとはそういう少女であり、今のところ世間にそんな要素が揃った少女はイナリ……『狐神イナリ』しか居ないのだ。

 最近すごく有名な覚醒者となっているイナリを見た池袋の人々は、本物かと疑う者や写真を撮る者、あるいは囁きあう者などに分かれている。

 有名人……それも有名覚醒者ともなれば、その扱いはアイドルとそう変わらない。そして「そういうもの」に出会ったとき、話しかけるのを躊躇う者は当然のように多い。多いが……勿論、そこから一歩踏み出す者もいる。2人組の女子高校生などは、まさにその一歩を踏み出したところであった。


「あ、あの!」

「む?」

「こ、こがみイナリさんですよね!?」

「おお、うむ。そうじゃよ。どうしたかの? 何ぞあったかえ?」


 よもやダンジョンゲートでも発生したのかとイナリがその思考を切り替えようとする中で、少女の1人が「な、何かお困りみたいなので!」と緊張しきった声をあげる。


「そうです! えっと、何か探してるんだろうなって思ったので。その、お役にたてたらなって」

「おお、そうかそうか! そうじゃったか! うむ、うむ。優しい子らじゃのう!」


 ただの親切な子どもたちだった。その事実に、イナリはぱあっと花咲くような笑顔を浮かべる。初対面の相手に話しかけるのは勇気がいる行為だっただろうに、緊張しながらも誰かを助けるために一歩踏み出せる。その心意気にイナリはもうニッコニコであった。しかし、繰り返すがイナリは顔が凄く良い美少女である。そんなイナリに全力の好意を含んで微笑まれれば、それはもう一種の武器に近い。少女たちも折角の勇気が吹っ飛びそうなくらいに顔を真っ赤にしている。


「実はのう」

「ひゃいっ!」

「大丈夫かえ? もしや具合でも悪いのでは」

「平気です!」

「そうかのう」


 イナリは心配そうな目を向けるが、そうしている間に少女たちもなんとか落ち着いてくる。ちなみに周囲では「カワイイ」の流れ弾にやられた一般通行人たちが平静を取り戻そうとしているところであった。


「えーと、それでじゃな。池袋大図書館に行こうと思ってのう」

「あ、それならこの1つ先の交差点を右に曲がって、そのまま真っすぐ行けば見えてきますね」

「む? そうなのかえ?」

「はい、結構大きい建物なのですぐ分かると思います」


 なるほど、それならば比較的早く到着するだろう。イナリは地図を再確認し頷くと、少女たちに微笑む。


「ありがとうのう。助かったのじゃ」

「い、いえ。お役に立てたなら嬉しいです」

「はい、私もです!」

「うむうむ。儂もお主等のような子らに会えて嬉しい。要らぬ世話かもしれんが、お主等の幸運を祈っておこう」


 そんなことを言いながら手を振り、イナリは2人と別れ見事図書館の前へと辿り着いたのだが。

 ……この2人。この後入ったお店で買ったトレーディング缶バッジで、見事推しを引き当てることになる。それがイナリが幸運を祈ったおかげかは……不明である。

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― 新着の感想 ―
話しかけれた女子高生凄い! 善意に対してのささやかなご利益感あって好いぞ!
[良い点] 本人はあまり運良くないのに。とか思ってやら、やっぱり突っ込まれてた。(笑) ま、まあ、他人を幸運にするために、自分の運気を削っている可能性があると思えば(笑)
[一言] なお本人の運はスッカスカのスカなので、幸運のラッキーパワーアイテム感覚でこの10連ってところ押して!とかやるとクソみたいな結果が出て爆死する模様。
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