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お狐様、埼玉第4ダンジョンに挑む3

『ただいま、4時、44分。44秒をお知らせします』

「な、なんじゃあ!?」

「放送室!」


 イナリたちは放送室の前まで走り扉を開けるが、そこには誰もいない。無人の部屋にある放送設備には電源の光が灯っておらず、防音の整った部屋も真っ暗だ。なのに、放送室の外では放送が続いている。男の声にも聞こえるが、女の声にも聞こえる……まるで何か変声機でも使ったかのような不気味な声だ。


『皆さんはもう、帰れません。可哀想。とっても可哀想ですね』

「玄関……」

「うむ!」


 イナリたちは先程通ってきた玄関に行くが、閉じた扉は鍵がかかっている。ガチャガチャと無慈悲に響く音は閉じ込められたことを示しているが……放送はまだ続いているようだ。


『可哀想なので、全員死にます。整列して順番を待っててください。すぐに、順番が来ます。さようなら、さようなら』


 ピーンポーンパーンポーン、と。先程と同じようで違う放送終了のチャイムが鳴り響いて放送が終わる。それはなんとも不気味な……けれど「何かが来る」ことの明確な予告だった。問題はそれがボスなのか、違うのか……ということだが。今の放送からそれを判断するのは困難極まりない。


「どうする? この扉、斬ってみるかの?」

「あんまりよくない。こういう条件型のギミックは、意図に反する動きは難易度を上げる原因になる」

「ふうむ。そうなると、殺しに来る何かを倒さねばならんが……」

「うん。たぶん今回のボスは『学校の怪談』系の都市伝説のどれかだと思う」

「学校の……近頃の学校は何やら曰く付きの場所にでも建っとるのかえ?」

「都市伝説だから。真実はあんまり重要じゃない」

「そういうものかのう……」


 トイレに出る花子さんや太郎さん、動く銅像や絵に標本、誰もいないのに音の鳴るピアノなど色々あるが……此処が都市伝説系のダンジョンである以上は、今回の敵モンスターの元となる都市伝説が必ずある。イナリはその辺りは全然知らないが、幸いにも紫苑はそういうのを好んでいた時期もあるのでそれなりに知っている。


「4時44分44秒……たぶん、異界に連れていく系の都市伝説」

「此処がもう異界では……?」

「それは言わない約束」


 しー、と口元に指をあてる紫苑にイナリは納得できていない顔ながらも「うむ」と頷く。さておき、学校の怪談系の都市伝説には「行方不明になった生徒、あるいは先生がいる」というものが複数存在する。たとえば12段ある階段が13段になっていて、その13段目を登ると何処かに連れていかれてしまうとか。トイレのドアが知らない場所に繋がっているとか。色々あるが……特に多いのは「鏡」だろう。地方などにより色々と異なるが「四次元婆」とも呼ばれる都市伝説などは、4時44分44秒に鏡の中などに現れ人を連れ去るとされている。


「鏡、鏡……そういえば先程何か見たと言っておったの?」

「うん。でもそうなると、難しいかも……鏡の中に入って倒すにしても、向こうの領域……」


 四次元の名の通り、神隠しのようなものだともされている。四次元にまつわる都市伝説は無数にあるが、それを再現した能力を持っているとすれば相応に強力でもあるだろう。相手の領域でも倒せるような、そんな力を持っている必要がある。紫苑は自分の手札の中でそれが出来るか考えていたが……イナリが「うーむ」と声をあげる。


「鏡の中、のう。つまり其奴は鏡と繋がる場所に居て、此方を引きずり込む。そういう理解でええんじゃよな?」

「うん」

「となれば、その四次元とやらは其奴の能力……ということになるのう」

「うん……でも、それが?」

「簡単な話じゃよ」


 イナリはそう言うと、狐月を構え鏡へと近づいていく。


「斯様な術を使うのであれば、祓い引きずり出すまで」


 鏡の前に立ったイナリに反応するように、鏡の中から真っ黒な何かが現れようとする。それは鏡の「向こう」に空間があるとでも言うかのように近づき手を伸ばして。その手が、鏡からぞぷりと突き出る。

 そのとき、イナリは刀身に指を這わせ滑らせていた。

 イナリの指の動きに合わせ緑の輝きを纏っていく狐月は冷たい輝きを放って。黒い手が輝きを恐れるように一瞬止まる。


「蝕む邪を祓え……秘剣・大典太」

「ギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 リィン、と。鈴のような音を響かせながらイナリを中心に緑の波紋が広がっていく。その緑の波紋を受けて黒い何かが溶けるように消えていき、鏡がバリンと粉々に砕けていく。それだけではない。階段のほうからも同じような音が聞こえてくる。そこにも鏡があったのだろうか。そういえば「踊り場の鏡」みたいな都市伝説もあったな……などと紫苑は思い出す。


「……む? なんじゃ、倒したのかえ? となると、呪物か……呪いそのものじゃったかの?」


 ドロップした小さな手鏡を拾い上げながらイナリが呟けば、いつものシステムメッセージが流れてくる。


―【ボス】四次元婆討伐完了!―

―ダンジョンクリア完了!―

―報酬ボックスを手に入れました!―

―ダンジョンリセットの為、生存者を全員排出します―

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― 新着の感想 ―
wwwww超絶メタ能力で相性最悪だった関係でワンパンwwwww 空間系の能力だし、一般的には強敵の部類だったんだろうけどwwww
[一言] 鏡全てを祓わなければ出られない系? 鏡全てが同じ敵に繋がってた系? どっちにしても範囲攻撃で一発だったわけか。
[一言] 都市伝説がダンジョンのせいで廃れてそうな世界なのに、都市伝説系妖怪が頑張ってるなぁ
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