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お狐様、有名人と歩く

「仕事終わりなんじゃろ? 休んだ方がいいのでは……?」

「迷惑はかけないから。それにボク、役に立つよ?」

「うーむ……」

「嫌なら諦めるけど……」


 言われてイナリは考える。確かに最初の頃はソロのほうが色々と都合が良かったが……ある程度有名になり実績に知られてきた今となっては、別に何かを隠す必要もあまりなくなってきている。

 加えて、紫苑は日本の覚醒者の中の第4位。水中専門と聞いてはいるが、ダンジョンについてきたがることも含め、それだけではない実力があることも想像は出来る。

 それに何より、トップランカーと呼ばれる者の実力を目にしておくのも今後のために良いかもしれない。


「んー……よし。では一緒に行こうかの」

「やったー」

「うむ」


 感情の揺れ幅が小さいのか表情があまり動かないタイプなのかは分からないが、世間的にはクール……みたいな感じなのだろう。イナリがこれまで会ってきたのはそこらへんの揺れ幅が大きい人間ばかりだったのもあって「物静かな子じゃのー」といった感じではあるのだが。

 とにかくベンチから立ち上がって、イナリと紫苑は歩き出す。


「で、何処行くの? 埼玉第3?」

「アツアゲのことは呼んでないからのう」


 ひょっこりと顔を出すアツアゲにイナリが声をかけると、紫苑は「おー」と声をあげる。


「それが噂の積み木ゴーレム?」

「うむ。知っとるのかえ?」

「超有名。ペットモンスターは最近ゴブリンをペットにした人が出たくらい」

「ふむ……」


 その辺りはイナリにはよく分からないが「ペット」自体は他の覚醒者も手に入れ始めてはいるようだ。ゴブリン自体はイナリも見たことはあるが……まあ、あんまりかわいくは、ない。かわいくはないが……あの殺意たっぷりの顔をやめて笑顔になったらかわいいかもしれない、などと思う。


「ふむ……まあ、ペットということは表情も柔らかくなるじゃろうからな。人型じゃし、色々と良い相棒になるのかもしれん」

「そうだね」

「ああ、ちなみに先程の話じゃが、今日は第3ではなく第4のほうじゃ」

「えっ。あのお化け屋敷?」

「行ったことあるのかの?」

「ない。でもあそこの異名って『ほんとに死ぬお化け屋敷』だから……」

「言い得て妙じゃのう……」


 まあ、確かにダンジョンなのだから油断してもしなくても死ぬときは死ぬし、都市伝説のような場所というのであれば確かにお化け屋敷でもあるのだろう。


「さて、と。確かバスが何処ぞから出とるはずじゃが……」

「それなら旧川口駅だと思うけど。埼玉第4ダンジョンなら歩いて行ける」

「ほー。そうなのかえ?」

「うん。この辺に住んでたこともあるから詳しい」


 川口港から降りた辺りは川口の飯塚の辺りに位置するのだが、西川口は丁度隣り合った場所に位置している。勿論多少の時間はかかるが、そういうことであればと2人はそのまま歩き始めて。


「この辺も今は工場だらけだけど。そうなる前は住宅街で、その前はやっぱり工場だらけだったらしい」

「原点回帰というやつかのう」

「そうかも」


 昔あった工場は鋳物工場などが多く、今の風景とは大分異なるものであったらしいが……そんなものはイナリは勿論、紫苑も知らない過去の話だ。造船関連の工場や、その工場の従業員向けの食堂やコンビニなどを通り過ぎて。やがて工場が少なくなって住宅街になってきたあたりが、ちょうど西川口のエリアである。


「おお、大分風景が変わったのう」

「ん。もう少しだけ歩く」


 西川口というエリアはこれまた色々と歴史があるエリアであったりするのだが、今は工場の従業員や家族などが暮らす宅地エリアと化している。歩いている人々も会社員やその他工場エリアではあまり見なかったタイプが増えている。

 そんな平和そうな場所に頑丈なフェンスやゲートで囲まれたダンジョンがあるのはなんともミスマッチに見えないこともないが……それもまた現代の光景である。

 そんなゲートの前に立つ職員が、近づいてくるイナリたちを見て愛想よく微笑む。


「狐神さんですね。予約は承っています」

「1人増えてしまったが、問題ないかのう」

「はい、何も問題ありません。本人確認の手続きと記録はさせていただきますが……ではお二人とも覚醒者カードのご提示をお願いします」

「うむ」

「ん」


 元々こういったものの予約は代表者1人の予約のみなので、1人であろうと50人引き連れていこうと何も問題はないのだ。さておき、カードを見ていた職員は「えっ」と声をあげる。


「そ、その。鈴野さん。もしかして、あの。『潜水艦』の……?」

「うん」

「よ、ようこそいらっしゃいませ! どうぞお通りください!」


 ビシッと敬礼をきめる職員に紫苑は「うん」と頷き、そのままイナリの手を引いて入っていく。


「おお、まだ敬礼しておるぞ」

「ボク、顔が知られてないから。よくああなる」

「なるほどのう」


 確かに誰だろうと思ったらトップランカーの1人だったというのは中々に心臓に悪い話ではある。とはいえ知られれば今日のイナリのように囲まれるので、職員にはそれもお給料のうちと考え頑張ってもらうのが一番ではあるのだろうか。まあ、そんな急な有名人の追加に職員たちがザワつく中……イナリと紫苑は、ダンジョンゲートを潜っていく。

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― 新着の感想 ―
ゴブリンだけど他の人もペットを入手できたのか! この前のアツアゲ無双と比較しちゃったら凄い悲しいことになりそうww
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