お狐様、ランカーについて知る
第四章、開始です!
これは当然の話ではあるのだが。覚醒者協会は日本にだけあるものではない。現在存在する国家全てが覚醒者基本条約を結び、それに則り覚醒者協会を設立し運営している。
日本にあるのが「日本本部」であるのも、こうした事情によるものだ。つまるところ、世界中にその国の「本部」が存在し、それぞれの国の覚醒者を統率している。1度合併による世界的な組織にしようという話もあったらしいのだが、何処の国が「総本部」となるかで全く意見が合わず立ち消えになっている。
その理由はまさにこの「覚醒者基本条約」にあった。簡単に言うと「覚醒者によって設立、運営される覚醒者協会を除く全ての組織、あるいは個人は覚醒者への指揮権を持たない」といったようなものであり、平たく言うと「覚醒者のやることに口出しするんじゃねえ」といった条約である。これは世界中で結ばれており、この条約のない国とはつまり「覚醒者が逃げ出して存在しなくなった国」……モンスター災害で滅びた国である。
覚醒者は別に政治をやりたいわけではないので……といっても一部の覚醒者は政界に進出しているのもいるがさておいて……ともかく、国家を運営するのは変わらず大多数の非覚醒者である。
ただ、そうした社会に「覚醒者」という特権持ちの超人たちが混ざっている。モンスターの脅威により国家同士の争いというものに割く余裕が消え去った現在、覚醒者はその新たな敵である「モンスター」と戦える唯一の力なのだ。
……と、いうと偉そうに聞こえてしまうのだが実際には多くの覚醒者たちは権力など欲していない。これは覚醒者協会という組織が実力のある覚醒者をスターの如く扱う方針を初期のうちに打ち出したのが効いている。
「そう、それが『ランカー』という制度です」
実力、人気、貢献度……様々な要素から計算されるそれは世界統一基準であり、ほぼ完璧に公平に判定されているという。今のところ「世界ランク」というものはちょっと洒落にならない規模のケンカになるので存在していないが、各国にこのランカー制度が存在している。その中でも最上位の5人は「トップランカー」と呼ばれ、実質その国の顔となっている。
1位、『勇者』蒼空 陽太。
2位、『プロフェッサー』真野 月子。
3位、『要塞』土間 タケル。
4位、『潜水艦』鈴野 紫苑。
5位、『黒の魔女』千堂 サリナ。
日本でのトップランカーはこの5人だ。特に1位の蒼空は隔絶した実力を持っているとされており、しかしながら放浪癖があり世界のあちこちを回っていてほぼ連絡がつかない。それでも1位を維持できているのは、その圧倒的な実力故だと言われている。
そして2位の真野はかなり特殊なジョブであり、魔石を使用した革新的な道具の開発にも携わっている。つまり戦闘というよりは研究開発方面の功績で2位を維持していると言える。
「とはいえ、弱いわけではないんですけども。というか、とんでもなく強いそうです。随分前にその辺を勘違いしたアホが誘拐しようとして研究所周辺の地形が完全に変わったのも有名な話です」
そして3位の土間はその異名通り、タンクの不動の1位である。性格に何か変なところがあるわけでもなく、話せば口数は少ないながらも真面目な印象を相手に抱かせる青年だ。しかし、群馬県……具体的には草津からほぼ動かない。短期であれば動くのだが、長期の仕事となれば絶対に動かない。『草津要塞』なんて言われているくらいである。しかし、いざ戦いとなれば土間を倒せた者は今のところ1人も存在しない。
「と、この3人が『不動の3人』と言われているわけですが……まあ、他の2人は結構変動したりしなかったりですね」
「ふーむ」
秋葉原のフォックスフォン本店で赤井から説明を受けていたイナリは納得したように頷く。どうにもイナリが先日の伊東の件でランカー入りしたらしく、青かった覚醒者カードが黒になったのだ。
覚醒者カードは上から順に金、銀、銅、黒、緑、青、赤、黄、白となっているが、緑をすっ飛ばした形になる。赤井のカードが緑なので、カードのランクで言えばイナリはすでに赤井より上ということになる。
「いやあ、でも凄いですよね。前回の件で一気に98位だそうですけれども」
「そもそも何位まであるんじゃ?」
「100位ですね。とはいえランク入り自体が偉業ですけども」
それ以降は何位とかいう計算すらされない……勿論赤井もランク外だが、そのくらいには凄いことなのだ。つまり、それだけイナリの功績が凄かったということでもある。他の有象無象よりもイナリの方が凄い。そういう証明を覚醒者協会が出したのだ。
「まあ、そのらんく? とかいうのは理解できたが。正直儂、そんなに興味ないんじゃよなあ」
「狐神さんはそうでしょうね」
フォックスフォンに届くイナリ宛の依頼も受けたがらないくらいだ。名声だの金だのに興味があれば片っ端から受けているだろうから、イナリがそういう方面に一切興味がないのは赤井にもなんとなく理解できている。
「む、そういえば5位は知っとるが……4位はどういう者なんじゃろ?」
「あー……4位はなんていうか若い子ですよ。確か、えーと……18歳でしたかね? 水中戦専門なんですよ」
赤羽や伊東の件もありましたし今忙しいんじゃないですかね、と。そんなことを言う赤井にイナリは「確かにそうかもしれんのう」と頷くのだった。