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お狐様、伊東の問題に決着をつける

 キングコロッサス。それこそはかつて伊東を襲ったモンスター災害の際に現れたモンスターの中に居たボス級にして、行方不明であったがゆえに都市伝説ともされた存在であった。

 古代の王を思わせる、威厳に満ちた容貌。恐らくは老齢に差し掛かったあたりの男だろうか……少なくとも日本人の容貌とは程遠い。筋肉質なその身体に鎧を纏い、立派な剣を持ったその姿は、まさしく「キング」の名に相応しい。他の全ての巨像は、この王を引き立てさせるためだと言われても納得できるだろう。


「……恐るべきことだ。我が精鋭たちが成す術もなく敗れるとは」


 キングコロッサスもまた、流ちょうな日本語で話し始める。しかしまあ、部下に出来ることがキングコロッサスに出来ない理由もない。つまりは、そういうことなのだろう。キングコロッサスの視線はアツアゲを突き抜けて、その先にいるイナリへと向けられている。


「大神官が執着したのも無理はあるまい。焦がれんばかりの輝きだ……しかし、身を焦がす輝きだ。貴様のようなモノが何故いるのか分からんが、事ここに至ってはもはや、引く道は無し」

「ビーム」


 剣を構えるキングコロッサスにアツアゲが放ったビームは、しかし何もない空中を貫くだけに終わる。


「!?」


 慌てたようにアツアゲは周囲を見回すが、キングコロッサスの巨体は消えてしまったかのように見当たらない。海にも、陸にも、空にも。一体何処に消えたのか? アツアゲはキングコロッサスを探すが、やはり何処にもいない。見失うはずもないキングコロッサスの巨体を完全に見失ってしまった理由が分からず、アツアゲは特大の疑問符を浮かべていた。

 だが……これに関しては、アツアゲのせいではないとも言える。キングコロッサスの軍団が人間サイズになれることを知っているのは、この広い地球上に石動たち2人だけであり、その2人はその情報を誰にも伝えることはなかった。だからこそ、知るはずもないのだ。キングコロッサスもまた、人間サイズになれるなどということは。

 そしてキングコロッサスは、王として崇められるだけの能力を持っていた。先程確認したイナリの姿から、イナリの現在地や距離などをほぼ正確に計算し町中を駆けていた。あとは簡単な話だ。建物の中に入り、巨大化することで足場を崩す。如何に怪物じみた力を持った相手とて、それで隙は出来る。その一瞬の隙で充分だった。


(貴様等の犠牲で得た勝利への道筋……無駄にはせん!)


 此方が巨像であるという前提にたつ以上、この技は初見では絶対に見破られない。だからこそ、キングコロッサスは道路を凄まじい速度で走り……曲がり角で、何かにぶつかって吹っ飛ばす。


「ぬわー!?」

「チッ、現地人か!? その不運を恨むがいい……!」


 そう言い残して走り去ろうとして。キングコロッサスはうすら寒いものを感じてその場に停止する。


(待て。余とぶつかって原型が残っている……だと?)


 そんなこと、あるはずがない。人間の使う車よりも速い速度で走るキングコロッサスは、小さくなっているといえどパワーに関しては巨大なときと同じだ。そんなキングコロッサスとぶつかって原型が残り、なおかつ「のわー」とかいう間の抜けた声をあげる余裕がある? 有り得ない。そんなもの、有り得ない。ならば、まさか。


「おお、派手に吹っ飛ばされてしもうたが……しかしまあ、どうやら目的の相手には出会えたようじゃの」

「狐神イナリ……!」

「儂のことを知っとるのか。まあ、あれらの主人であるならば当然か」


 刀形態の狐月をゆらりと構えるその姿に、キングコロッサスは「何故」という言葉が口をついて出てしまう。


「む?」

「何故此処に居る! 何故余が此処に居ると分かった!」

「分からんよ、そんなもん」

「ふ、ふざけるな! 貴様は此処に来たのが偶然だとでも」

「偶然じゃよ」


 そう、本当に偶然なのだ。イナリはキングコロッサスの巨体が消えたことに気付き、何かが起こったのだと慌ててアツアゲの下へ走っていく最中だったのだ。その最中にキングコロッサスと出会った。ただそれだけのことだ。

 強いて言うのであればあれだけの情報からイナリの現在地までのルートを導き出せるキングコロッサスが優秀過ぎたのであり、そんなキングコロッサスに轢き飛ばされるイナリが不運であったのだ。

 しかし同時に言えば、並の覚醒者であれば衝撃で消し飛んでいたであろうキングコロッサスの体当たりを受けて「ぬあー」だけで済むイナリの防御力の高さをも示していた。


「ハ、ハハハ。笑うしかないな」


 キングコロッサスは剣を構え、イナリへと向き合う。なんということか。千載一遇のチャンスが、こんなアホみたいな理由で無くなってしまった。もう巨大化することに然程意味はない。踏み潰したところで死ぬとは思えないし、こちらの攻撃が当たりにくいだけ損だ。ならば、この一撃を通すしかない。キングコロッサスは剣に魔力をありったけ籠めて、オーラを形作っていく。


「オーラブレイド。貴様のような怪物女に通じるか試してくれよう」

「人のことを怪物怪物と……流石に傷つくんじゃがー?」

「戯言を」

「まあ、ええ。ならば儂も相応のものを出すまでよ」


 そうしてイナリは刀身に指を這わせ滑らせる。

 イナリの指の動きに合わせ白の輝きを纏っていく狐月を……その完成を待たずにキングコロッサスは仕掛ける。


「もらったああああああ!」

「秘剣・石切」


 輝く剣と輝く刀が、ぶつかりあって。キングコロッサスの剣が、断たれる。そしてイナリの刀がキングコロッサスを……真っ二つに、切り裂いた。

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― 新着の感想 ―
衝突事故wwwこれが幸運Fの力かwww
[一言] アツアゲよりでかい石の塊と同じ質量が車より早いスピードでぶつかってぬわーて…物理無効と言ってもいいのでは
[一言] 王たる身で自ら前線で戦う、その意気や良し! それ以外は普通に迷惑じゃのう
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