アツアゲ、オンステージ
『エマージェンシー、エマージェンシー。積み木ゴーレム、出撃準備開始。マスターとのリンクスタートします』
そんな謎の放送が響き渡ると同時に2つのダイスが輝き、その場に静止する。それは、埼玉第3ダンジョンのときとは違う挙動だ。そして……示された、そのダイスの目は。
『6、6! 36! 36倍! 36倍!』
アツアゲの身体が急速に巨大化していき、かつてイナリと戦ったときそのままの巨体へと変わっていく。
『36倍積み木ゴーレム、出撃完了。行動開始します』
つい先程まで、巨像に一撃で踏み潰されそうであった……精々50センチほどの玩具のような大きさだったアツアゲ。しかしそれが36倍でおよそ18メートル。およそ10mほどの兵士の巨像と比べても大きい、頼れるボディ。すなわち、巨体これから起こるのは巨体同士の大決戦である。兵士の巨像たちもそれを悟ったのか、ザブザブと海を揺らしながら走り出して。
「ビーム」
アツアゲの胸元から放たれた極太光線が容赦なく兵士の巨像を何体も貫き破壊していく。
「ビーム。ビーム。ビーム。ビーム。ビイイイイイイム」
とんでもない大乱射である。アツアゲはこれほどまでに強かったのか……という話になれば答えは「イエス」になってしまうのだが、実は「ペット」としてイナリに従属している今のアツアゲは、その魔力を自身のものに加えイナリにも依存している。そう、他に誰もペットを持っていないので検証すらされていないが、ペットのパワーは飼い主によって上下する。
強いペットを持っていても飼い主が弱ければその能力を十全に発揮できないし、弱いペットを持っていても飼い主が強ければ本来の能力を超えた力を発揮したりもする。
さて、その上で「狐神イナリ」という主はどうか? 答えは「極上」である。無限であるかのように尽きぬ強大な魔力。身体能力に関しては結構人並みだが、アツアゲの主としては充分すぎる。何しろ……こうしてビームが撃ち放題だ!
あっという間に全滅していく巨像兵士に巨像神官たちだが、間髪入れずに巨像騎士や一際巨大な巨像騎士……巨像騎士団長とでも呼ぶべきものが現れる。その背後には巨像大神官までもがいる。
「まさか、こんなものを手懐けていようとは」
「外に出たのは我々以外にもいる。当然のことです。まあ……なんだか少し違う気もしますが」
「関係ない。叩き切れば済むこと。騎士団、前進せよ」
「ビーム」
だが、アツアゲには関係ない。放つビームを巨像騎士が盾を犠牲に防ぎ、その隙を狙い巨像騎士団長が……跳んだ。水しぶきをあげながら飛ぶ巨像騎士団長は剣を振りかざして、アツアゲの腕を叩き切る。そのまま返す刀で胴体をも真っ二つに斬る。確実に勝利した。そう巨像騎士団長が判断した、その瞬間。
「パーツチェンジ」
「!?」
何処かから飛んできた積み木が巨大化していき、壊れたパーツを取り換えて綺麗にしてしまう。今までのダメージは全部ゼロになった36倍アツアゲの登場だ。その顔を驚愕に歪めた巨像騎士団長をアツアゲは腕の一撃でぶん殴り、軽やかなワンツーで吹っ飛ばす。
「……ガッ……!」
「ビーム」
「ガアアアアアアアアアア!」
巨像騎士団長はビームをマトモに受けてボロボロになるが、パーツチェンジなどというものがあるはずもない。普通はそんなものないのだ。イナリをして驚愕せしめた、アツアゲの凄い機能である。勿論これを外で使うにはかなり膨大な魔力が必要だが、イナリなら問題ない。
「お、おのれ……! このデタラメモンスターがあああああああ!」
しばらくの人間生活ですっかり日本語も上手くなった巨像騎士団長だが、出てくるのはそんなあまりにも当然すぎる罵倒だ。胴体が真っ二つになってもパーツが飛んできて全快する。そんなものがいてたまるかと思うのは、本当に当然のことで。巨像騎士団長の凄まじい踏み込みからの突きがアツアゲの頭部を破壊して。
「パーツチェンジ」
「うあああああああああああああああああああああああああああ!」
「ビーム」
新品に換わったアツアゲのビームを受けて、巨像騎士団長は砕け散る。その姿を見て巨像騎士たちは動揺しつつも前進しアツアゲへと襲い掛かって。先頭の巨像騎士の頭部が飛んできた光線に粉砕される。アツアゲのビームではない。それは……伊東市役所の天辺に登り弓形態の狐月を構えたイナリの放った一矢。
続けて放たれていくイナリの攻撃とアツアゲのビームが合わされば、巨像騎士たちも成す術もなく破壊されていく。前進して伊東の町へ入ろうにも、アツアゲが立ち塞がっている以上はそれをすることもできない。その現状に、巨像大神官は表情を歪ませる。
「おのれ……おのれぇ! 常識外れの怪物女に意味不明の巨大玩具! なんだこの状況は! 悪い夢でも見せられているのか私は! 私たちの完璧な計画が! 月日が! あと一歩で築けた王国が! こんな埒外の怪物どもによって阻まれるというのか!」
「ビーム」
「ぬおおおおおおお! 舐めるなあああ!」
アツアゲのビームを、巨像大神官の結界が阻んで。しかし、続けて放たれたイナリの一撃が巨像大神官を撃ち抜き破壊する。
「我等が、王よ……申し訳、ございま……」
崩れていく巨像大神官の、その更に背後。そこから現れたのは、イナリがダンジョンで戦ったコロッサスよりも遥かに大きく、巨大な……そう。アツアゲよりも更に巨大なモンスター。『キングコロッサス』の姿であった。