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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第三章

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お狐様、歓迎会に参加する

 夜。伊東国際ホテルの宴会場に、立食形式で食事が準備されていた。サンドイッチにローストビーフ、ウインナーに寿司……和洋中も全部ごちゃ混ぜの、立食形式でも簡単に食べられるものを準備した、けれど見た目がとても綺麗に盛りつけられ豪華さを演出している。


「ほー」

「凄いですねえ」


 イナリはともかく安野はこういうのにはある程度慣れているが、そんな安野にも相手側の心遣いを感じられる会場に感心していた。この「かつての時代」のバブルを感じさせる豪奢な造りの会場も合わせ、イナリという1人の覚醒者を歓待するには充分すぎるものが用意されている。つまり、イナリをしっかり歓迎しようという気持ちがあると判定できる。


(ちょっと安心でしょうかね。何も起こらないように見とけとは言われましたけど)


 安野は上司の言葉を思い出しながら少し安心し、けれど新たな不安も感じていた。覚醒者協会日本本部としては、狐神イナリというスーパールーキーを地方に引き抜かれたくはない。特に新宿の臨時ダンジョンの件があってから、本部は更にイナリに執心し始めている。他の肝心なときに居ないし連絡もつかないランカーたちより、イナリのほうがいいと思い始めているのだ。


(私はずっとそう言ってたんですけどね。上の人はこれだから……)


 安野から見ればイナリは実力良しの性格良し。ハッキリ言って、日本の覚醒者ではトップ3に入る実力だと思っている。まあ、現在の1位と2位は……アレはアレで怪物なので、イナリが一番強いと言い切れない部分はあるのだが。どっちにせよ大事なときにいないのに定評がある2人なので安野としてはイナリのほうがずっと良い。

 そんなことを考えていると、安野の服の裾をイナリがそっと引く。


「どうされました?」

「うむ……こういうことを言うと疑問に思うかもしれんがな。此処で酒は飲まんほうがええと思うぞ」

「はい、分かりました」


 囁くように言うイナリに、安野は即座にそう返して。イナリはちょっとだけ驚いたような表情になる。まさか即座に頷くとは思っていなかったのだろう。しかし安野としては当然ではある。

 元々安野はイナリのサポート役としてここに来ている。そして覚醒者協会は上から下まで全員覚醒者であり、本部勤めの安野はそれなり以上にエリート覚醒者なのだ。そんな安野にとって、今従うべきは実力者であるイナリだ。何か理由があって言っているが今は言わない。その程度を察せずに本部勤めなど出来はしない。

 しかし同時に安野は警戒を最大まで引き上げる。酒を飲まない。つまり、酒に何か仕込まれた? 伊東市からの誘いで? しかしこの場にいるのはホテルの従業員と企画会社のみ。それならば……?


「市長が到着されました!」


 ドアを開けたのは、石動。同じ会社の社員と思われるスーツの男もいるが……なんとなくガラが悪い。1度怪しいと思うと全部怪しく見えてくるが……少なくとも拍手と共に迎えられた市長は本物だ。資料の顔などと一致する。

 内山 源五郎。今回で3期目のベテランだが、覚醒者ではなく一般人だ。政治の世界では覚醒者よりも一般人の割合が高いが、内山市長もそういう感じだ。


「やあやあ、そちらが狐神さんですかな?」

「うむ。儂が狐神イナリじゃ。市長殿は確か内山殿……でよろしかったかの?」

「おお、ご存じでしたか! これは嬉しい!」

「ははは、うむうむ」


 伊東に来るまでの間に安野に聞いて覚えたからだが、わざわざそんなことは言わない。これもまた人付き合いであり、覚醒者協会と地方自治体の間を繋ぐ……まあ、政治の話でもあったりする。そして今話題の人物に名前を覚えられて不快に思う者はあまりいない。内山市長もどうやらそういう人物であるらしく、あからさまに表情をニコニコとした笑顔に変えていた。


「今日は今回の話に関わる一部の人間と、あとは狐神さんたちだけです。これを機にゆっくりと親交を深めたいと考えております」

「それは有難い話じゃ」


 なるほど、ちらほらと見える従業員ではない人間は市役所の人間ということなのだろう。それでも、かなり人数は絞られているようだ。そうして、そんな彼等をも含む全員にグラスが配られ……宴会場の奥の舞台に立った内山市長がエヘンと咳払いをする。


「皆さん、今日は私たちと狐神さんの縁が繋がった記念すべき日です。本番は明日なのでたっぷり飲んでくださいとは言えませんが……」

 

 そこで狙ったようにワハハと笑い声が上がる辺り、かなり訓練されてるなー、などと安野は思う。何処でも勤め人は変わらない……安野も協会の偉い人の冗談には即座に笑い声をあげられる。まあ、そんな内山市長の軽い演説も終わり、グラスが掲げられる。


「それでは……乾杯!」


 近くにいる人々がグラスを軽くぶつけ合い、イナリと安野もそれに倣う。しかし安野はこの酒を飲む気は無いが……どうしたものか。悩む安野の前で、イナリはグラスを傾け中身をキュッと飲んでしまう。


「え? い、一気ですか?」

「うむ」


 飲むなって言ったのは狐神さんなのに平気なのかな……などと安野は思うが、まあ問題は無いのだろう。そんなイナリの視線は油断なく周囲へと向けられていた。

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― 新着の感想 ―
イナリちゃんだとそこらの毒が聞くかも怪しいしなぁwww 本務勤めはちゃんとエリートだったか!
[一言] イナリちゃんは蛇じゃなく狐だからね。 酒飲んで退治されたりはしないのだ。
[一言] ちゃんと気づいてるっぽいあたり凡百の存在ではない
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