お狐様、パジャマパーティをする
まずはジャガイモの皮を剥いて4等分。半分に切って更に半分。水をたっぷり入れ火にかけた鍋に放り込んだら、次はニンジン。皮を剥いて先っぽを落として、一口サイズに切ったら鍋に放り込む。
そしたら次はタマネギ。みじん切りにしたらフライパンにバターを入れて、火にかけて。じっくり飴色に炒めたら、お次は豚肉。これはもうカレーサイズのを買ったので、そのままお鍋にドボン。アクをすくって煮えるのを待って、ジャガイモやニンジンに串が刺さるようなら煮え具合問題なし。ミックスビーンズを入れて、カレールウをパキパキ小さく割ってお鍋に入れる。そうしたら玉ねぎも入れてグルグルかき混ぜて、カレーの完成。とっても簡単にちょこっとこだわりカレーである。
「そうしてお皿にご飯を綺麗に盛ってカレーをかけて。別添えのらっきょをつけたら……ほーら、ご家庭で簡単に出来るちょこっとこだわりカレーの完成です!」
「おー、凄いのじゃ」
出来立てのカレーは特有の美味しそうな香りが漂っており、イナリとエリは机にニコニコしながら運んでいく。
「では……いただきます!」
「うむ、では早速いただくとしようかのう」
手を合わせて「いただきます」をすると、カレーをパクッと口に含む。辛いのが苦手な人向けの甘口の風味は多くの人に好まれやすく、嫌われにくい味だ。カレーを入れれば全てがカレー味になると言われる程度にはカレーは他とは一線を画す強烈な個性を持っている。
だからこそ、そのカレーとしか言いようのない味は2人の中に広がっていく。飴色に炒めた微塵切りのタマネギとミックスビーンズも良い食感を生み出している。ホクホクのジャガイモとニンジンも、そしてトロトロの豚肉も良い感じだ。牛肉や鶏肉でも勿論良いのだが、豚肉の柔らかな食感は他では代替しにくい。
「んー……美味いのう」
「やっぱりカレーは鉄板ですよねー」
「かれえはかれえじゃろ?」
「あ、はい。えーと、外さない無難さがある、みたいな」
「確かにそれは分かるのじゃ」
そしてらっきょを口に含めば、よく甘酢の効いたシャクッとした食感が口の中に爽やかさを伝えてくれる。なんとも幸せな味だ。勿論エリとしては福神漬けでもよかったのだが、どちらかというとらっきょ派なのだ。ちなみにアツアゲもらっきょを見ていたが、興味がないようで机の上でブレイクダンスをしていた。
そうして幸せな食事の時間が過ぎて片づけに食器洗いを終えていけば、お風呂が沸いたことを知らせる音声が響いてくる。そうしてお風呂が終われば、もう2人はパジャマ姿である。
狐模様のパジャマを纏ったイナリと、薄い桃色のパジャマのエリの出来上がりである。
「ほんっとズルいですよねえ……髪が一瞬で乾くなんて」
「そんなこと言われてものう……」
そんな会話をしながら、エリはイナリの背後に回って尻尾をジッと見ていた。
「パジャマから生えてる……こういうの実際どうなってるんだろうと思ってましたけど、実際見ると更に謎過ぎる……どうやって脱ぐんですかコレ」
「別に脱がんのう……自分で切り替えできるしの」
「そういえば私、イナリさんは寝巻は浴衣とかだと思ってました」
「出来るけどの……ほれ」
イナリが軽くパジャマを叩くと、一瞬で浴衣に変わる。薄手の浴衣は確かに寝巻といった感じで、イナリによく似合っている。そして……。
「やっぱり浴衣から尻尾が出てる……!」
「何がお主をそうさせるんじゃ……」
「だって本物を見るのは参考になりますから! あ、尻尾の根元触っていいですか?」
「ダメじゃ」
「そんなー」
ダメである。まあ、そんなわけでソファに座ってテレビをつければ何かの映画をやっていて、2人でそれを見ていた。大型のテレビと最新の音響装置が設置されたせいで臨場感のある映画は中々に楽しかったのだが……イナリは何故車に当然のようにボタンで発動する加速装置がついているのかが理解できなかったし、どちらかというとアツアゲのほうが映画にハマっていた。
「最近の車は……ああいう加速装置がついとるのかの?」
「そういうのはないですねー」
「では何故あの映画の車は当然のように」
「私も分かんないです」
エリの知る限りでは一般常識のように何の説明もなくついていた気もするが、うろ覚えなのでシリーズの何処かで説明されていたのかもしれない。さておいて。
「あ、もうこんな時間ですね。まだまだ時間が足りないって感じですけども」
時間は夜の10時過ぎ。良い子はもう寝る時間だし、大人も寝る時間である。しっかり歯を磨いて、ベッド……はキングサイズのものが1つだが、予備の布団もあったりする。する、のだが。
「うわ……この布団、覚醒企業が作ってる目茶目茶高いやつですよ」
「そうらしいのう。前の家のものよりずっと良いのじゃ。なんなら一緒に寝てみるかの?」
そう言うと、イナリは布団に潜り込んで端の方に移動していく。
「喜んで! うわっ、すごっ。え、どういう構造なんですコレ」
「知らんのじゃ」
「あれ、いつの間にかアツアゲが真ん中に寝てる……」
そう、寝具を作る覚醒企業がその総力をあげて開発した最高級ベッドは文字通りの最高の寝心地を叩き出せる。寝る前のお話などする余地もなく眠りの世界に誘われたイナリとエリは……そのまま、静かな寝息を立てているのだった。