表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/406

お狐様、メイドを迎えに行く

 秋葉原。覚醒者の街として有名なこの場所には、幾つかの有名スポットがある。

 全国各地の個人職人から様々な武器や防具などを委託販売する「チャクラムの穴」と「メロンアックス」のような店などはちょっと普通の武器では満足できないこだわり派の覚醒者に好まれている。

 他にも各地のメーカー品を集めた大型店も有名だが……イナリがイメージキャラをしている覚醒者用通信機器の「フォックスフォン」、そしてそのライバルの「ライオン通信」なども有名だ。

 しかし、ちょっと。かなり。相当……まあ、すんごい特殊な店もある。

 その代表格が「使用人被服工房」である。知らない人でも店構えを見た時点でなんか趣味的だな、と思うというが、実際に扱っているのはメイド服に執事服である。何故そんなものを取り扱っているのかと聞かれれば「メイドさんはお嫌いですか」「執事のカッチリとした姿に憧れませんか」とか、そんな否定しにくい問いかけをしてくる連中が集まっている。

 そしてこの使用人被服工房で基本的に扱っている服はクラシックなタイプだ。言ってみれば「メイドとは?」「執事とは?」という問いかけで多くの人が連想するだろうものなのだ。

 それは何故か? 理由は簡単で、こういうタイプの服が似合わない人はあまり存在しないからである。どんな人が着たとして何となく違和感も不快感も感じにくい、歴史に裏打ちされた清潔感とフォーマルさ。それはまさに万人が着れる素敵な服ということだ。

 だが心配なのは防具としての性能だ。そこを疎かにしては、命を粗末にする愚か者でしかない。

 でもご安心。使用人被服工房のメイド服や執事服は、お安いものでも並の鎧一式程度の防御性能は確保されている。高級品やオーダーメイドとなれば更に上。服なので更に上から別の防具も重ね着できる。

 つまり……シャイな人でも「防具として優秀だから」という言い訳で着ることができるのだ……!


「というわけで赤羽の件以降売り上げも右肩上がりでして。私のお賃金も増えそうです」

「エリずるーい」

「いいよねえ。いや、そういうのを喜んでちゃいけないけど」


 使用人被服工房所属の覚醒者の1人でありメイドのエリに、他のメイドたちが羨ましそうに声をあげる。そんなエリとイナリはそれなりの付き合いだが、まあたぶん友人と呼んでいい程度には仲良くしている間柄でもある。

 だからこそイナリもこうしてエリ……と他の面識のあるメイドたちにも会いに来ている。ちなみに執事もいるが彼等はイナリが来ると慈愛の瞳を向けながら遠巻きにしている。悪質なパパラッチ対策らしいが、セバスチャンくらいになると祖父と孫くらいの年齢差に見えるのでまあ問題ないらしい。さておいて。

 

「……よし、出来ました!」

「きゃーかわいい!」


 机の上で皆に弄られていたのはイナリではなく、アツアゲである。アツアゲの存在を知った使用人被服工房の面々がお金を出し合って作ったアツアゲ専用の服の数々。ちなみに今着せられているのはメイド服である。


「サイズはしっかり測ったから心配してませんでしたけど、凄い似合う……やだ、涙でそう」

「ところでメイド服着せちゃいましたけど、アツアゲって男の子ですか? 女の子ですか?」

「どうなんじゃろうのう……アツアゲ、どうなんじゃ?」


 聞いてもアツアゲが喋る言葉は「ビーム」だけなので答えが返ってくるはずもないし続けて着せられた執事服にもメイドたちの黄色い声が上がる。


「これはこれでアリですね……」

「やっぱりこのサイズで服着るとそれだけで最強じゃない?」


 すっかり着せ替え人形にされているアツアゲだが、本人が抵抗しないのでイナリも止めはしない。何より今日はアツアゲの服が出来たということでここにやってきたという経緯もある。しかし確かにアツアゲにピッタリな服を仕立ててくるのは流石としか言いようがない。


「ちなみに仕事はええのかのう。いや、儂の言うことではないが」

「あ、それなら平気です。メイド長が『イナリさんを店の中に置いとくだけで売上上がるから全部オッケー』だそうでして」

「儂は招き猫ではないんじゃが……」

「招きイナリさんが出たら教えてくださいね。買うので」


 なんか赤井が聞いたら作りたいと言い出しそうだ、と考えながらもイナリは曖昧に頷く。

 さておき、アツアゲのファッションショーが終わる頃にはエリの退勤時間もやってくる。そして今日のエリは残業をする気は微塵もなかった。


「あ、時間だ。それじゃあ私はこれで上がります! 今日はイナリさんの引っ越し祝いでパジャマパーティしますので!」

「ほんとエリずるーい!」

「今度奢れー!」


 そんなブーイングを受けながらもエリは早々に鞄を取ってきて退勤準備を整える……着替えてはいない、使用人被服工房の面々は出勤も退勤もメイド服に執事服だ。


「さ、行きましょイナリさん! 帰りに一杯色んなもの買いましょうねー! 皆にも写真送るね!」

「う、うむ」


 前に家に来た面々くらいは招待してもよかったのだが、中々タイミングが合わないらしいので今回はエリのみである。そう、前にヒカルを呼んだように今回はエリを新居に呼んだのだ。明日一日有給もとったエリの希望により……これからイナリの新居でパジャマパーティである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『お狐様にお願い!』2024年8月10日発売!
『お狐様にお願い!』1巻書影
各種書店様でも 【予約受付中!】
― 新着の感想 ―
アツアゲのファッションショー楽しそう!
[一言] チャクラム...何故なんだ...
[気になる点] イナリさんのパジャマは和風なのか洋風なのか、どっちもいいな売りに出そう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ