お狐様、テレビを見たりする
ダンジョンゲートの登場と、世界規模で発生したモンスター災害。そして現れた覚醒者という力持つ者たち。そこから以前を旧時代、そこから先を新時代と大雑把に区分するのは間違ってはいない。それを境に全てが変わったからだ。
交通事情が変わり、科学には不可思議な力が混ざり、企業も政府も何もかもが変わって、世界自体が大きく変容した。
もっと言えば、かつて科学の力により隅々まで見渡せていた世界は「一寸先は闇」な世界へと戻ったのだ。今では海の中すら把握することは難しい。水棲モンスターの存在が、様々な妨害となっているからだ。一例でいえば潜水艦などは水棲モンスターの格好の獲物となったし、ソナーなど打てば即座に水棲モンスターに感知されて津波のようにやってくる。
だからこそ海産物は昔よりも大分高くなり、密猟者が減っては増えたりする。ちなみに減るのは水棲モンスターに襲われてすぐ居なくなるからだ。さておいて。
まあ、つまり……今の地球の海とは、文字通りの混沌だ。無暗に突けば何が出てくるか分からない、そんな場所なのだ。
―たとえば、こんな話があります。モンスター災害の際に静岡第1ダンジョンから現れた無数のモンスターは何処へ行ったのか?―
―倒されたのではないのですか?―
―勿論です。しかし、ボスモンスター『メガロックゴーレム』とは違う、より上位かもしくは別種のボスモンスターが当時現れたという目撃証言もあったんです―
まるで人間のように精巧な姿の「巨大ゴーレム」の存在については、ただ当時の一部の人の目撃証言に残るのみで、当時の討伐隊も多くの人々もそんなものは確認できなかったという。その後の静岡第1ダンジョンでもそのようなモンスターは確認されず、恐怖の中での見間違いである可能性が高いとされてきた。しかし、つい最近それが覆される発見があったというのだ。
―コロッサスの王冠、そしてベルト。この2つが覚醒者専用のオークションに出品されたというんです―
―コロッサス、ですか?―
―巨大な彫像、巨人……まあ、そんな意味ですが。要は人型の巨大な石像ですね―
―それって……―
―そうです。当時見つからなかったというモンスターの実在を裏付ける証拠が出てきたということです―
番組スタッフは覚醒者専用オークションを運営する覚醒者協会日本本部にこの件の真偽を問い合わせたが覚醒者基本条約を盾に回答拒否……件のアイテムを出品した人物にコンタクトを取りたいとお願いするも、これも拒否……事実上のゼロ回答となった。
―ゼロ回答、ですか……―
―まあ、覚醒者協会としてもあまり扱いたい話ではないでしょうからね。ボスモンスターが海に居るかもしれないなんて話は……―
―海にいるんですか?―
―可能性の話です。石像のようなモンスターであれば、呼吸なんて必要ないかもしれない。だとすると、もし当時『コロッサス』なるモンスターが本当にいて、熱海に出てきたなら……そのまま海に行ったかもしれない。まあ、こういうことですね―
―怖い話ですね。しかし覚醒者基本条約とは何なんでしょう?―
覚醒者基本条約。それは世界の全ての国家が締結している条約であり、現存するどの条約よりも厳しいものだ。簡単に言えば「覚醒者の全ての行動に国家が制約をかけない」というものであり、要はかつて覚醒者が国外脱出するような原因を作った国々、あるいは作ろうとしている国々を縛るものであり、事実上の覚醒者への非覚醒者の敗北宣言とも言えるものだった。
そしてこの覚醒者基本条約については「情報の公開権限」も含まれているのだ。つまり覚醒者協会が情報を出さないといえば、それは何をやっても絶対に出てこないのだ。
―なるほど……しかしそれでは皆不安ですよね?―
―結局何かあった際に戦えるのは覚醒者の方々だけですからね。いや……今この瞬間何もないのも何処かのダンジョンで覚醒者が命をかけているからです。そういう意味では、悪戯に不安をあおる必要はない、というのも分かる話です。何しろ、海の危険性は今更語るまでもないんですから―
そう、海はいま世界で一番危険な場所だ。何があるか分からず、何が出てきてもおかしくはない。いつか再び海を取り戻したい。そんな願いを誰もが抱き続け、未来へとつなげていくのだ……。
「……なんじゃ? この番組」
「たぶん覚醒者協会から苦情が来るギリギリを攻めようとしたんでしょうね」
コマーシャルに入ったテレビ画面を指差し聞くイナリに、赤井が苦笑しながら答える。
こういうのはたまにあるのだ。主題をなんか無暗に大きな話にもっていって、その中に言いたいことを混ぜていく。途中とか最後にフォローを入れることで更に誤魔化しにいっているのだ。この辺はあんまり露骨にやると覚醒者のアイドルやら俳優やらもいる現状、問題が無暗に大きくなるから配慮したりと、そういう大人の事情もあったりする。
「つーか『ころっさす』云々は儂の話じゃよな?」
「そうですね。誰かが情報を流したみたいですけど……ま、これ以上この話は出ないでしょうね」
オークションの話はそこらの覚醒者からでも聞ける話だが、コロッサスを誰が倒したかについては覚醒者協会からは絶対に漏れない。勿論、推測は出来るだろうが……永遠に確定はしないのだ。今の世界は、そういう風に動いている。
「ま、そんな話はどうでもいいんです! それよりも……ついに完成したそうです!」
テレビ「365体合体ゴッドキングダム! この後すぐ!」
イナリ「ちょっと気になるのう……」