お狐様、静岡第1ダンジョンに挑む2
だが、ゴーレムがどんなモンスターであろうと倒して進まなければならないのが現状だ。だからこそイナリは狐火を連射して立ち塞がるゴーレムを粉砕して進む。
「さてさて、まだ人型以外は出てきておらんが……む?」
地響きと、こちらに高速で向かってくる4足歩行のロックゴーレム。どうやら牡牛型なのだろう、角を此方に向けて高速で突っ込んでくる姿は如何にも恐ろしい。恐ろしいが……イナリの放った狐火が牡牛型ロックゴーレムを粉砕する。
砕かれ派手な音で転がり魔石をドロップする牡牛型ロックゴーレムにイナリが意識を向けていたその時。イナリの頭上にフッと影が差す。何事かと見上げたイナリは、思わずギョッとする。
「ひょっ!?」
そう、そこには空から降ってくるようにして拳を叩きつける態勢に入ったゴリラ型ロックゴーレムの姿。狐火は……間に合わない。結界は間に合うがいつものだとパワーの差で地面に叩きつけられる。迷うイナリのいた場所をゴリラ型ロックゴーレムの拳が爆発音にも似た音と共に叩き割って。
「ゴオオオ?」
ゴリラ型ゴーレムは地面を爆砕させるほどの自分の拳が、イナリを砕いてないことを感じ取っていた。拳をゆっくりと上げて……やはり、そこにはイナリはいない。ならば、何処に。周囲を見回したゴリラ型ロックゴーレムは、起き上がっている途中のイナリを見つけ拳を振るう。
「ん、ちょいと遅かったの」
イナリの狐火がゴリラ型ロックゴーレムの拳を腕ごと砕き、続けて頭部を砕き魔石をドロップさせる。そう、奇襲を失敗した時点でゴリラ型ロックゴーレムの勝ちの目はなかったが……イナリはどうやって攻撃を避けたのか。
その答えはどうしようもなく単純で、その場で跳んで転がって避けた、が正解であった。イナリは特に戦闘でカッコつけようとかそういう変なプライド的なものはないので、いわゆる「無様な転がり方」をすることに何の躊躇もない。
「しかし今のは驚いたのう。まさか本当に空から降ってくるはずもなし。となると……崖の上か」
そう、両面の切り立った崖。そこもダンジョンの一部である以上、モンスターが当然のように存在しているだろう。いるだろうが……なんとも対処が難しい。イナリであっても、それは変わらない。変わらないが、別にそれで構わないとイナリは思っていた。
「ま、ええか。先に進むとしよう」
別にダンジョン内のモンスターを全滅させなければいけないという話でもない。となれば、崖の上から飛び降りてきたら対処すればいいだけのことだ。
だからこそイナリはそのままダンジョンを進んでいく。岩山を歩いていくような、そんな不可思議な場所で襲ってくるロックゴーレムたちは、次々にイナリの狐火で爆散していく。そのままスタスタと歩いていき……辿り着いたのは、行き止まりだった。
「……ぬう、行き止まり。府中でもこういうのあった気がするのじゃ」
あの時は明らかに妨害されていたのだろうが、今回はたぶん違う。そうなると単純にイナリの運の問題だが、ファジーとはいえ数値化されているだけに「やはり儂の運のせいかのう……」という気分にイナリもなってくる。
しかし、行き止まりの前で佇んでいるほど無駄な時間もない。道を戻って、別の方向に進み、また行き止まりで。また別の道を歩いていき現れた行き止まりの前で、イナリは頭を抱えてしまう。
「む、むう……どうしたらええんじゃ。まさか穴を掘って進むわけにも……」
何処かに正解があるはずだ。あるはずだが、その正解が見当たらない。まさか登ればいいのだろうか? しかし、一般の覚醒者がそんなことをしている可能性は低そうだ。それにそんな可能性があるのであればミーティングのときに赤井から話があったはずだ。
ならば、そうではない……ということだ。しかしそうではないなら一体どうすればいいのか? イナリは行き止まりの前をウロウロして……ふと、気付く。
「んんー? なんかこの壁、おかしくないかのう?」
目の前を塞いでいる断崖絶壁の壁。しかし、なんだかこう……周囲と微妙に色が違うような気がするのだ。それに、まさかこれは。イナリはそれに気付くと同時に後ろへ飛び退き、狐火を放つ。
「儂を化かそうというか! 正体を現すが良い!」
イナリの狐火が放たれると同時に壁に大穴が開き狐火を回避する。いや、違う。ガチャガチャと動くそれは、小さな岩型のゴーレムたちだ。この行き止まりの壁は、小型のゴーレムの集合体だったのだ。そんなものが集まって壁の振りをしていたとは……まさかである。しかし、目の前の光景は「そういうこと」で。小型ゴーレムたちは集まって群体のように1つの巨大なゴーレムの姿を形成しイナリへ襲い掛かってくる。
化かすのに失敗したのであれば、今度は力尽くで。それは多くの場合正しいだろう。
「狐月、弓じゃ」
イナリ以外が相手であれば……という条件は付くが。
「「ゴオオオオオオオオ!」」
群体ロックゴーレムが唸りを上げ、イナリを包み込み押し砕かんと迫って。その全てを、イナリの弓から放たれた閃光が消し去った。