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お狐様、熱海に向かう

 覚醒者格差、というものがある。主に東京とそれ以外の覚醒者事情のことを指す単語だ。有名なクランの本部が東京に集中したり、花形覚醒者は東京にいたり……地方を拠点にする覚醒者は東京の覚醒者と比べると一段下に見られたり、とまあ、そんな現象のことだ。

 実際には東京と地方を比べた場合に東京の方が覚醒者が多いので安全なのは確かなのだが、そういうイメージがついたせいで強い覚醒者が皆東京を目指すという負のスパイラルが出来上がっていたりもする。

 しかしまあ、東京に覚醒者が集まれば覚醒者としての仕事……ダンジョンを含め、色々と競争率が高くなる。そこで都会での争いに敗れた覚醒者が地方に遠征に行く、というような逆流現象も起こったりしているわけだが。その中には、そういう事情もないのに地方に向かう有名覚醒者も混ざっていたりする。静岡方面のバスに乗っているイナリもまた、そんな「別に仕事に困ってないけど地方に行く覚醒者」に分類される側だった。

 狐耳に巫女服、狐尻尾。そして、とびっきりの美少女。こんなものが揃った覚醒者は日本中を見回しても恐らくはイナリしかいないだろう。


「あれってイナリちゃん……?」

「絶対CGか加工だと思ってた……ええ、凄い……」

「美少女……そっか。美少女ってああいうのをいうんだ……」


 何やら色々と言われているのを、イナリは苦笑しながらも聞き流す。赤井みたいなのがいるので「そうなのだろう」とは自覚してきてはいるが、まだ慣れないものだ。イナリからしてみれば「皆可愛いのう」なので、その辺の感覚は中々身につかないのだ。

 さておき、イナリが乗っているこのバスは静岡の伊豆半島……熱海市に向かっている。そう、旧時代には若者向けの温泉街として有名であった、一大温泉地である。プリンを始めとするスイーツが揃い、海と温泉とスイーツ……そんな再生の象徴でもあったのだ。

 そんな熱海であるが、やはりモンスター災害の影響は避けられなかった。壊滅的な被害を受けた熱海は、それでも諦めなかった。静岡第1ダンジョンと呼ばれる固定ダンジョンをその内に抱え、そのダンジョンをも復興の象徴として取り込んだのだ。

 今では「温泉とダンジョンとスイーツの町」となった熱海は……流石に海は水棲モンスターの恐怖もあり眺めるだけの代物となっているが、今再び観光地としての力を取り戻している。

 そう、イナリは今回、その静岡第1ダンジョンの予約が取れて向かっているのだ。全国各地にダンジョンがある中で静岡第1ダンジョンを選んだのは勿論温泉があるからだ。イナリの頭の中の更新されていない温泉情報でも、熱海が良いところだという情報くらいはある。だからこそ予約できそうなダンジョンを探していた中で静岡第1ダンジョンに反応したのはまあ、当然の流れとは言えるだろう。


「ふふふ、楽しみじゃのう……」


 そう、実はイナリ。前にヒカルと府中のホテルで温泉に入ったがゆえに、温泉欲とも言えるものがしっかり燃え上がっていたのだ。食事も頓着しないし服にもほとんどの娯楽にも興味のないイナリだが、それでも温泉は良かった。非常に良かった。ダンジョンに行き、そして温泉にも入れる。こんな素晴らしいタイミングがあれば行きたくなるのが乙女心……もとい狐心というものだ。勿論事前に赤井にしっかりと相談して旅館の予約もやってもらったので、その辺の抜かりはない。あとは現地に向かうだけ……その辺りの気楽さにイナリは思わず笑みが漏れ、その表情に見ていた同乗客たちの一部が「ひゃあ」と変な声をあげていたが、やはりイナリは気にしない。

 その声が気になったのか何やら巫女服の中からアツアゲが顔を出していたが、もう声はしないし窓の外の景色にも興味がなかったのかそのまま戻っていく。まるで気まぐれな猫のようだ。

 そうして、イナリを乗せたバスは旧熱海駅の現在バスターミナルになっている場所に到着し……他の乗客が降りた頃を見計らってイナリも降りていく。降りて……イナリは「ぬおっ」と声をあげてしまう。そう、そこには「歓迎:狐神イナリ様」と書かれた旗を持った赤井がいたのだ。


「赤井……お主、そこで何をしとる……?」

「いえ。私もクランマスターとしての顔もありますので、定期的にダンジョン攻略はしないといけないんですよ」

「ほう」

「そこに今回のお話があったものですから、私も狐神さんに同行すべく馳せ参じた次第です」

「なるほどのう……で、本音は?」

「府中の件聞いて嫉妬したのでこのチャンスを逃してたまるかと思いました」

「うむ、正直でよろしい」


 要はライバル会社のライオン通信のイメージキャラであるヒカルと府中に仲良くお泊りダンジョン攻略に行っていたのが羨ましかったらしい。まあ、一応イナリはフォックスフォンの所属であって赤井はフォックスフォンの社長にしてクランマスターなのだから、その感情は間違ってはいないとイナリは思う。つまるところ、仲間外れにされてすねているのと同じだ。


「まあ、儂も赤井のことをあまり気にかけてやれんかったからのう。それは儂の過ちじゃな」

「え、いえ。そんな」

「立派な大人と思ったが、まだまだ子どもということかの」

「んー、その。んー……」


 なんか凄い眩い解釈をされているが、まあいいかと赤井は思う。実際、そんなに間違っていない。赤井だって実力者であるイナリの戦う様子を1人の覚醒者として見てみたかったし、イナリが幸せそうならそれで比較的OKでもある。だから、赤井はすぐに思考を切り替える。


「では! 本日の旅館にご案内しますね!」

イナリ「どんなところじゃろうのう」

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― 新着の感想 ―
先回りして旗用意している赤井さん愉快だなぁwww
[一言] 格差社会・・・世知辛い (´;ω;`)
[一言] まあイナリからすれば皆子供ってことだね!
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