お狐様、コラボの話が来る
子どもに人気の職業とは何か。その答えは時代によって大きく異なるという。たとえばパイロットであったり警察官であったりなんかこう、その他の色々な職業であったり。まあ、人気で憧れの職業であるということは、子供たちの目にそれが輝いて見えるということでもある。
そして現在の人気職業として外せないのが覚醒者である。覚醒者が職業かはさておいて「イメージキャラクター」とかも上位に入っている辺り、この時代に存在する超人である覚醒者が輝いて見えるのは事実なのだろう。
まあ、覚醒者になれるかは文字通りに「運」なので皆にチャンスが平等という意味では憧れに足るものなのかもしれない。しれない、のだが。最新の調査結果で奇妙なものが現れしかも上位にランクインしたという。それは……「狐巫女」である。
―いやあ、最新の調査でいきなりの7位にランクイン! 『狐巫女』ですが、これ金城さん、どうなんでしょう?―
―やはり狐神イナリさんの影響が大きいでしょうね。赤羽港での戦いの映像が動画サイトに流れたのも大きいとは思いますが、私もこれ見ましたけど凄い映える戦い方をされますからね。流麗にして豪快! ジョブは覚醒者としての稼ぎに直結するといいますが、此処まで凄いのは中々……―
―ありがとうございます! ではその発端となった動画をご覧いただきましょう!―
そうしてテレビで流れるのは、あの現場にいた誰かがスマホで撮ったのだと思われる赤羽港襲撃事件の映像だ。戦うイナリを追うようにカメラが動き、雷の雨で殲滅するところまで撮られている。なるほど、映像で見るとまさにイナリが無双しているように見える。イナリの戦闘映像がテレビで流れるのは実のところ、これが初めてだ。
主にダンジョン内でのことというのもあるし府中のときは皆寝ていたしカメラは謎の力で妨害されていたしで記録が無かったからだが、赤羽港の場合は一般人もいたからこその結果とも言えた。まあ、とにかく華麗に戦うイナリの映像は今まで映像を見ていなかった者でも魅了されるものがある。
―いやあ、凄いですね! まるで映画みたいでしたけど、覚醒者の戦いって皆こうなんでしょうか?―
―そうとも言えませんね。もっと地味な戦いになることが多いです。魔法ディーラーがいれば派手な戦いになることもありますけど、それも火力の問題ですからね。華麗に……とはいきません―
―では、狐神イナリさんが特別であると?―
―そうですね。フォックスフォンのイメージキャラである狐神さんのジョブは『狐巫女』であるというのは公開されていますし、前々から狐ブームもきてましたし。私は今回のアンケートの結果も驚きませんね―
そんなことを言っているテレビを、イナリはリモコンを持って固まったまま見ていた。なんとなくテレビをつけたら自分のことをあーだこーだと言われていることに気付いたときの反応としては、まあ普通とはいえる。驚きで耳がピーンと立って尻尾がぶわっと膨らんでいるのは、あまり普通ではないかもしれないが。
「ええ……? 赤羽って。あれからそれなりにたったじゃろ。何故てれびで今やっとるんじゃ……?」
実のところイナリが気付いていないだけで、ネットでは赤羽港の動画をきっかけにイナリ人気は爆発していたりする。今テレビでもやっていた動画が動画サイトに投稿されたのは1か月ほど前だが、そこにアンケートも重なり、元々のイナリ人気が爆発した……といった流れである。
まあ覚醒者は余裕があればカッコつけた装備をするのも仕事のうち……というかイメージキャラとしての仕事を狙うならカッコつけて当然だが、そういう意味だとイナリはもう和のテーマで仕上げてきた逸材なのである。しかも狐耳と尻尾まで生えている。そして誰も文句のつけようもない美少女だ。そして強く、戦い方が華麗で一般に知られている戦歴はまさに正義のスーパーヒーローの如く。人気が出ない理由が正直、ないのだ。
イナリが気付かないのはイナリがテレビを基本的に野球と通販しか見ないからであって、ネットは経路検索とダンジョン予約くらいしかしない、趣味がふりかけ選びの安上がり狐巫女だからである。ちなみにイナリがコンビニやスーパーなどに現れてふりかけを前に唸っているのもネットで広がって知られており、ふりかけの売り上げが上がったらしい。
そして……そういう話が広がればメーカーがどういう対応をとるかといえば、いつの時代も非常にシンプルである。
「……む? 赤井か。えーと、もしもし? 儂じゃよ」
『おはようございます、狐神さん。今お電話よろしいですか?』
「あー、うむ。なんか儂がてれびに出とって驚いてたとこじゃが」
『ええ、まさにフィーバーって感じですね。それで、実は他社からコラボのお話がきておりまして』
「うむ?」
『和同食品という、ふりかけとかを主に作っている会社なんです』
そう……狐神イナリ、ふりかけの会社からのコラボのお誘いであった。
イナリ「ふりかけ……じゃと……」