はじめてのまっちんぐ
イナリは、自分に求められている役割についてはなんとなく理解できた。理解できたが……なるほど、思ったよりも役割に特化しているのだな、というのが正直な感想だった。
それぞれが持っている武具も、たぶん神田の物が一番性能が良い。
他の2人に関しては、妙な力は感じるが然程たいしたものではないだろう。
「今回のマッチングの相性を確かめる為にも、こちらで初心者用ダンジョンを選定しました。資料をお渡ししますので、ご参考に」
「ふむ」
そうして全員に配られた資料は、薄い冊子だ。「東京第2ダンジョン」と表紙に書かれたそれは……どうやら、地図付きの詳細な資料であるようだった。
しかし軽くペラペラ捲っていくと、神田が「よし!」と声をあげる。
「ま、大したこともなさそうだし早速行く? 時間はキチョ―だしな!」
「そ、そうですね!」
「賛成です。初心者用ダンジョンは稼ぎにもなりませんし」
(む……?)
3人の反応に、イナリは僅かばかりの違和感を抱く。命を懸けた戦いをしに行くには随分と軽いが、これが今時の死生観というものなのだろうか?
「狐神ちゃんは? 武器とか持ってないみたいだけど大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫じゃよ。では行こうかのう」
その辺りはよく分からないが、それが普通というのであればイナリがどうこう言うものでもない。水を差して浮く必要もないからだ。
「東京第2ダンジョンは……あ、無料バス出てるってさ」
「7番のバス停ですね」
テキパキと進めていく彼等は如何にも慣れており、イナリはぽかんとしていたが……もしかすると初心者ではないのかもしれないと思い直す。
まあ、マッチングサービスに来るのが初心者だけとは誰も言っていなかったな……とイナリは思い出すが、そうして3人に連れられるままに東京第2ダンジョン前へと到着する。
そこにはイナリが見たのと似たようなダンジョンゲートがあったが、薄い青色の光が渦巻くゲートの周辺には頑丈な囲いと門、そして剣で武装した警備員が立っていた。
「どうも、覚醒者協会のマッチングでの攻略です」
「はい。では皆さんの覚醒者カードを確認させていただきます」
カードを確認する度に門の奥へと案内されるが……そうして目の前にダンジョンゲートを目にしてみると、どうにも凄まじい力を持ったモノだとイナリは思う。
ただ、イナリが壊したものに比べれば大分力が弱いようにも見えるが……それでも相当なモノだ。
(やはり、祟りとしか思えん……斯様なものを鉱山と有難がるとは……時代は変わるもんじゃの)
「じゃあ、一応確認な。俺と田辺ちゃんが先頭で、狐神ちゃんと新橋さんが後衛。田辺ちゃんはヘイト技は使える?」
「は、はい! 範囲は音の聞こえる範囲になりますけど」
「おっけ、上等上等。新橋さんのヒールの射程は?」
「見える範囲内です。私が上手く視認できないとヒールが届きません」
「うし、じゃあ狐神ちゃん。何使える?」
「ま、一通りできるかの」
(この男……結構出来る方なのかの?)
そんなことを思いながらイナリが答えれば神田が「おっけー」と軽く答える。
「んじゃ行きますか。ま、軽くいこうぜ」
そうしてダンジョンゲートに体当たりをするかのように潜っていく3人を見て、イナリも「ふむ」と頷き真似をする。そうして視界が歪むような感覚を味わった後……辿り着いたのは、何処かの洞窟の中のような場所だった。
壁に松明が掲げられ煌々と照らされた洞窟は明るく、しかしどこかじめっとした空気が漂っている。
「一般的なゴブリンの洞窟形式だな。ま、楽勝っしょ」
神田はそう言うと剣を引き抜き、スタスタと歩きだす。その後を田辺も追い、新橋が「狐神さん、行きましょう」と促し歩き出す。
(楽勝、のう……)
実際どんなものかイナリはまだ知らない。だからこそ3人の後をついていくように歩き出すが……不快な気配と声がしたのは、その直後だった。
「ギッ!」
「ギギギィィ!」
粗末な襤褸布のようなものを纏い、さび付いた武器を振るい走ってくる、明らかに人とは違う何か。資料に描かれていたものソックリの「ゴブリン」がイナリたちに向かってくる。
「いくぜ!」
神田が走りだし「スラッシュ!」と叫びながら振るった剣が光を帯び、ゴブリンを一撃で切り裂き倒す。
(ほう!)
感心しながらもイナリは青い狐火を1つ生み出しゴブリンへ発射し吹っ飛ばす。
なるほど、あのスラッシュとかいう技があればゴブリンなど敵ではないのだろう。
自信もその辺りからくるものか、とイナリは納得するが……そんなイナリの視線の先で、ゴブリンの死骸が消えていき小石程度の光る石が2つそこに残される。
イナリ「手際が良いのう……」