表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

常世市での生活 【side斉藤美礼】

 変わってる常世市だけど、市外から引っ越してきた人でも生活するのに困ることはないと思うの。私が遠方へ旅行した時も、市外の親戚の家に泊まった時も、常世市と大きく違っていて驚いたことなんて特になかったから。生活様式はそう変わらないわ。


 市外の人はちょっと常世市のこと別世界に思いすぎよ。言葉だって通じるし、通貨だって同じ。

常世市に来るのにパスポートなんて必要有りません。市外と一緒でちゃんと日本です。


 違うのは、時々住人の影が取れたりするくらいで。


 他はそうねえ。市外に比べるとちょっと変わった売り物が多いかも。


 例えば、薬局の人気商品、塗り薬「ケーアイ軟膏(なんこう)」は市外では手に入らないはず。パッケージのイタチのイラストが可愛いいの。


 昔はイタチである点は同じでも、妙に迫力のあるイラストだったらしい。小さい子が大泣きするほどだったとか。ママも怖かった覚えがあると言っていた。


 見てみたいわね…。ネットに画像上がってないかしら。


 効果は抜群! 切り傷、擦り傷にはあれが一番。価格もお手頃で、庶民の味方。だいたいの家にはあるわね。


 この説明だけなら、なんてことはない、ちょっとマイナーな塗り薬で終わっちゃうんだけど。


 実はこれ、鎌イタチ製の塗り薬なの。


 常世市に興味のある人なら知ってるでしょうけど、鎌イタチは三匹一グループで活動してるのね。一匹目が対象を転ばせて、二匹目が切りつけて、三匹目が傷口に薬を塗るの。その三匹目が使っている薬が「ケーアイ軟膏」


 市内でも鎌イタチ製って言うのはネタだと思ってる人、多いんじゃないかしら。かく言う私も、信じていない時期が有りました。鎌イタチに遭遇したこともないし。


 まあそれも、製造元の会社の所在地が常若町だと知るまでの話。常若町に会社を構えてて、鎌イタチ製と偽る愚は犯さないでしょう。もしそんな真似してたら、とっくに会社無くなってるわね。


 偽ると言えば、最近市役所近くに出来た輸入雑貨店、ネクタルの販売してるって聞いたけど。それこそ本物かしら? 常世市でだってあんまり酷いまがい物を売り出せば、相応のしっぺ返しがあるはず。


 偽物でないにしても、混ぜ物してたりってことは有りうるわね。この手の情報は桂子が、あ、幼馴染よ、詳しいのよね。聞いてみよう。本物なら飲んでみたいし。


 ……はぐらかされるかしら。


 あの子がはぐらかす時は、本物でも偽物でも関わらないほうがいいって事だけど。前にあの子と一緒に古本屋に行ったんだけど、店の奥のほうがなんだか気になったから見てこようとしたら、困ったような笑顔で止められたのよね…。今は駄目って……。あの奥に何があったのかしら……


 あれからちょっと経ったし、今なら教えてくれるかも。


 そうだ、久しぶりに桂子を青猫の扉に誘おう。最近予定が合わなくて、遊べてないし。


 青猫の扉って言うのは、駅前の商店街にある便利な通りのことよ。あれは間違いなく市外にはないわね。すっごく便利なの。


 商店街のメインストリートの裏にある通りなんだけど、そこは扉だらけなの。扉を開ければそこにはちゃんとお店があるわ。店は多種多様。でも飲食店が多いんじゃないかしら。


 ここにあるお店、実は、裏通りに存在していないのよ。駅から遠い場所で営業しているお店に商店街がいくばくかの賃料で裏通りを提供してるの。駅前と郊外とでは集客が大違いだとかで、経営者にもこの通りは大人気。


 設営協力は勿論常若町の皆様です。定期的にメンテナンスも行ってくれています。


 こんな良い物を作ってくれてメンテナンスもしてくれているのに、寸志程度の金銭しか受け取ってないって噂だけど、いいのかしら。もっとも、メンテナンスと称して勝手に機能追加したり、いたずらし掛けたりしてるらしいし……


 いいのかな。

 いいのよね、うん。


 扉の位置が変わってたり、何も変わってないように見せかけて違う店舗に繋がってたりするのはいたずらの一つよね、きっと。一回引っかかったわ。お気に入りの文房具店に行くつもりだったのに、いつもの扉を開けたら中はカントリー調の焼き菓子屋さんだったのよ。慌てて謝罪して扉閉めて、よくよく扉を観察したら、プレーに小さく刻まれている店名が違ってたわ。


 あれ以来、必ず店名確認してる。


 間違って入ってしまったお店も今では常連ですけれども。店内がとても可愛かったし、すごく良い匂いがしてたから、後日行ってみたの。そうしたらもう! 試食させてもらったオレンジのパウンドケーキとシナモンの利いたスパイスクッキーが! もう!


 ああいう素敵な出会いがあるなら、あのいたずらも可愛いものよね。


 時々、通りが某夢の国のアーケードみたいになってたり、水族館の水中トンネルみたいになってることがあるんだけど、あれも良いわ。通常のままだとちょっと寂しいもの。もともとただの店舗裏だったんだから仕方ないけど。


 ただ、あれ。


 美術の資料集で見た、シュールレアリズムの絵の……、題名が分からないわ。異国の町並みと、フラフープみたいな輪っかを転がして走ってる女の子の影が描かれてる絵。あの絵みたいになってる時があって、あの時は通りに踏み込めなかったわね。どれだけ想像を巡らしても迷子になる未来しか見えなかったから。


 そういう時は無理は禁物。


 生まれ育った場所だけれど、常世市は普通の場所じゃないんだもの。違和感があった時はみだりに近づかないこと。なにに巻き込まれるか分かったものじゃない。


 違和感があったら回れ右。


 危機回避能力って、とっても大事よ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ