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常世市の見解 【side斉藤美礼】

 市外の人間からすると、常世市は変わっているらしいわ。知ってたけどね。うちは市外にも県外にも親戚がいて、親戚づきあいもそこそこあるから。


 はっきりと常世市がよそとは違うと知ったのは、四歳の時。市外の親戚がうちに来ていて、わたしはいとこ達と庭で鬼ごっこをして遊んでいたの。わたし、盛大に転んでしまって。その拍子に影が外れたの。


 わたしは影が外れたことに気づかずそのまま鬼ごっこを再開しようとしたら、後ろにいた一つ上の従兄がすごい叫び声をあげてね。振り向くと、夏の暑い日差しを白く反射する砂利の上に、さっきわたしが転んだままの姿で真っ黒なわたしの影がぽつんと取り残されていて。


 わたしはそんなの慣れっこだったから、お母さんにくっつけてもらおうと転んでる影をひょいと抱き起こしてて家の中に戻ろうとしたわ。そうしたら、また、従兄が大きな声をあげて。そのまま大泣き。


 従兄の泣き声に、大人たちが庭にやってきて、影を抱えて呆然としているわたしと、大泣きしている従兄を見て、状況を把握したみたい。わたしと従兄は別々の部屋に連れて行かれたわ。


 影をくっつけてくれながらお母さんが教えてくれた。よそでは影が取れたりすることはないんだって。


 それを聞いて、わたしはどうして従兄があんなに取り乱したのかを理解した。今思い返しても、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼には本当に怖い思いをさせてしまったわ。トラウマにはならなかったようなので、そこだけは良かった。


 常世市では影が取れてしまうのは珍しくないことだけれど、実はとても危険なことでもあるの。体から影が長時間離れてしまうと命に関わるから。


 影が取れてしまう原因は人それぞれ。ただ、大人より子供のほうがより取れやすいみたい。原因は分からないけど、子供のうちは本体と影がまだしっかりくっつききってないからだって聞くわ。


 小さいうちは影は取れやすいといっても、普通は転んだくらいじゃ取れたりしないのよ。影が取れやすい体質っていうのがあってね。わたしは正にそれだった。


 そういう子は、体質が分かった時点でお隣の常若町の人に依頼して、本体と影をまじないでぎゅっとくっつけてもらうのよ。そうしてもらっても、他の子達よりも取れやすいのだけど。


 まじないの効力は数え三歳まで。数え三歳になる時に、まじないをかけた人がもう大丈夫か確認にくる。大丈夫そうなら、そこで終わり。


 まだ取れやすいようなら、もう一度まじないをかける。次の確認は数え五歳。


 数え五歳でも駄目なら、次は数え七歳。数え七歳でも駄目なら、満七歳。


 それでも駄目なら、別のまじないになるの。


 その際に、まじないをかける人が代わることが多いらしいわ。交渉の上手な人に依頼するんだって。影をくっつけるのに、なんで交渉が上手でないといけないのかしら。そもそも誰と交渉するの? 残念ながら知らないのよね。


 ちなみに、私は数え七歳までまじないをかけてもらっていたのよ。


 満7歳の確認で、まじないをかけてくれていた人が「もう大丈夫でしょう」と言ったときの家族の喜びようといったらなかった。弟妹はよく分かってないみたいだったけど、ママと兄さんなんて泣いてた。当時は大げさだなあなんて思ってたけど、今なら分かる。命に関わることだもの。


 影が取れない市外の人たちはそれだけでもとても安全よね。うらやましい。


 でも、市外では猫の集会に猫又は参加しないんですって。


 猫又の手ぬぐい踊りを見られるのは常世市の良いところだわ。


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