削り落ちて残ったもの
全身の肌に氷の薄い膜を
一枚一枚貼り付けていくような冷気
その場にいると
氷の膜は肌と一つになるように
内へ内へと侵入を果たし
外からは新しい膜が
途切れることなく重ねられて
やがては自身が
氷の彫像そのものになるのではないか
そんな錯覚をするほどに
身体は芯から冷やされ
筋肉が硬まっていく
それが一転して
全身の表皮を
針で刺されたような痛みに変わる
皮膚を突き破るほどではない
ただ皮膚を刺激するほどの
痺れのような痛み
氷の薄皮が一気に剥がされたような痛み
と言ってもいい
硬直したはずの筋肉は
小刻みに振動しているかのような痺れに襲われ
しかし熱は外側から襲いかかってくる
失われていた熱を貪欲に呑み込むように
肌は熱を吸収し
内へと内へと侵食する
やがて気付けば痛みが失せ
熱が行き渡ったかと思えば
ほんの少し身体を動かすと
そこはまだだと言うように
新たな痛みが表皮をおおう
その痛みすら
波打つ音と
あたりを包み込む靄の中に
溶け込んでいくようで
いつの間にか
熱と共に
心まで溶かされていることに気付く
溢れ出た湯が
川のせせらぎのような音を立てて
岩の隙間を流れていく
見上げれば
中心の三つ星を対象線に
砂時計のように三角を描く星の絵画が
一際明るく夜空に浮かんでいた
真冬に露天風呂に入った時の感覚を
描いただけの作品です。
ずっと「それ」そのものを
ぼやかしてきた本作なので
最後の星も意図的に表現を変えて
描いています。
正体はもちろん冬の夜空を彩る代表的な「あれ」です