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花火

作者: 茜 まふゆ


7月25日、ついに決行日がきた。


22歳ひきこもりニート、それがオレ。


高校を卒業して企業に入ったものの人間関係につまづき退社。


今は一人暮らしのボロいアパートでなけなしの貯金と、親からの仕送りで生活している典型的なダメ人間だ。


朝か夜か、適当に起きて適当にごはんを食べて適当にすごして適当に寝る。


そんな空の生活も、生きている意味もない人生にも嫌気がさしてとうとうオレは自殺する事にした。


自分が死んだ後にまで迷惑をかけたくなかったオレが出した方法は川へ飛び込む事だった。


超久しぶりに出た外はうだるような暑さで思わず尻込みするが、これから死ぬ人間が何を言っているのだと意を決して歩き出した。


決行を予定していた橋で・・・。彼女と出会った。


「え」


人が倒れている。

この炎天下の中、倒れていると言うことは大変な事だと言う事はオレにも分かった。


「お、おい...しかりしろよ」


倒れていたのは女の子だった。

多分、高校生くらい。

身体をゆするが起きる気配はない。救急車と思ったが何分死ぬ予定だったのでスマスを持っていなかった。

どうしようと慌てていると少女の顔がピクリと動いた。



「おい…」


「水...」


今にも死にそうな女の子の声に病院に連れて行かないと、と思うのだが長年引き込もっていたオレには病院という人が沢山いるような場所はハードルが高すきた。


迷ったあげく、オレは彼女を家につれて帰る事にした。

彼女の体重はとても軽かった。


ヘッドに運び、氷をふくろに入れて頭にのせる。


「ほら、水・・・」


ごくごくと水を飲んだ彼女はふっと一息つき、そのまま眠ってしまった。

何時間たっただろう。



「はあ!!生き返った!!」



うとうとしていたオレは突然聞こえた大声にびっくりして起きた。


「君が助けてくれたの?ありがとう、わたしは美和あなたは?」


「えと... 春希...」


「そっか。ありがとう春希。わたしそろそろ帰らなくちゃ」


早すぎる展開に唖然とするオレを横目に彼女はベッドを整えて、じゃあねと言って出ていった。


「何だったんだ…」


まるで四コマまんがのような出来事にしばらく思考が追いつかなかったが


「あ、決行日…」


決意していても一度それを折られてしまうと怖くなるものだ。

まぁ、また考えようと、さっきまでの出来事は忘れようとその日はそのまま眠りについた。



次の日、オレはチャイムの音で目が覚めた。

どうせくだらない勧誘だろうともう一度寝ようとして


ピンボーン ピンポーン ピンポーン

ドンドンドン 春希ー!!



一気に目が覚めた。

慌てて玄関のドアを聞ける。

そこにいたのは昨日の女の子….美和だった。


「ちょっと近所迷惑!!」


「春希がなかなか出てこないのか悪いんじゃん。あ、おじゃましまーす」


オレの横をすりぬけて美和は部屋に入っていく。


「あの、何の用ですか?」


「ん?昨日のお礼を言いに来たんだけど?昨日はありがとう。 これクッキー焼いてきたの」


食べてと半無理矢理口の中に入れられる。


「….しょっぱい」


「えー!? おかしいなぁ….ちゃんとレシピ通りに作ったのに…。わ!マンガがいっぱい!!」


どうやらこの美和という少女は注意散漫なようだ。


本棚いっぱいに並べられた漫画をキラキラした目でみている。


「読んでいい?」


「ど、どうぞ…..」


結局この日も美和は一日中、家に居座り、昨日と同じ時間に帰っていった。


それから毎日、美和が家へ来るようになった。

映画をみようと言われたり、ゲームをしようと言われたり。


最初こそ迷惑だと思っていたが、徐々に美和とすごす時間が楽しくなっていた。

今までずっと一人で暮らしてきたのもあって、美和とすごす時間は、いつこ間にかオレの唯一の楽しみとなっていた。


「春希、明日の花火大会一緒に行こうよ」


ある日美和が家に来るなりそう言ってきた。

確かに明日は近くで花火大会がある。

だが花火大会などという

パリピや家族連れであふれかえている場所など行けるはずもなく、オレは必死に抵抗した。


「お願い!!一生に一度のお願い!!どうしても春度と一緒に行きたいの!!」


いくら抵抗しようが、オレよりも必死に食い下がってくる美和の日はいつになく真剣で・・・。


オレはとうとうOKを出したのだった。



花火大会当日、美和は椿柄の浴衣を着てきた。

来たはいいものの、人ごみには到底入れそうになかったのでオレ達は少し離れた場所から花火をながめた。


「キレイだね….」


「そうだね」


次々とうちあげられていく花火をじっとみつめる


「….花火ってね、とても切ないんだ。長い長い間準備をして、一瞬で消えてしまう。でもその一瞬を咲き誇るために

じっと我慢するの。我慢して我慢してその瞬間に輝いて散っていく。だからこそ美しい」


そう話す美和の横顔はずいぶん大人びてみえた。


「花火きれいだったね」


「そうだな」


「そろそろ帰らないと」


「そうだな、じゃあまた明日」


「うん!」


満面の笑みを浮かべる美和とそこで別れてオレは家へ帰った。



次の日、美和が亡くなったと美和の母親から連絡が来た。

幼いころから重い心臓病をわずらっており、長くは生きられないと言われていたらしい。


親族だけで行われた小さな葬式に顔を出したオレを美和の母親は快く受け入れてくれた。



「美和ね、いつも話してたんですよ。春希さんの事を。

あなたの事を話している時のあの子はとても楽しそうだった」


一生に一度のお願い。

本当にそうだったんだな…美和の言葉がよみがえる。


一瞬を咲き誇るためにじっと我慢して我慢してその瞬間に輝く。

それからしばらく美和の言葉が頭から離れなかった。




数日後、オレはスマホの画面とにらめっこをしていた。

もうこうしてにらめっこを始めて1時間がたつ。


ふう、と大きく息をはいて、オレはスマホの画面をタップした。


「あのアルバイトの面接をお願いしたいんですが....」




ードライフラワードアも枯れるならば美しい




fin

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