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03 失態

我は500年前、魔族を支配する魔王。人間達もその名を聞けば恐怖する存在だった。


「おはよう、ルーカス」


昨日封印された本を開いたジュリアは、籠の中で寝ていた我に声をかける。

なぜかベッドに寝かせてもらえなかった。


「おはよう」

「着替えるからあっちを向いててね」

「ふぁ~あ、我は気にせぬからよいぞ」


あくびをしながら答えてやると、ジュリアは冷たい目をしながら枕を投げつけたてきた。

地味に痛い。

恥ずかしがるなら顔でも赤くしたらかわいいんだがな。


「居候なんだから言うこと聞きなさい」


昨晩も同じことがあった。

仕方なく窓の方に目を向ける。

魔王に対して居候とはなんだ。我は願いを叶えてやるありがたい存在なんだぞ。


「願いは決まったか?」

「昨日断ったよね。それに慈悲深い魔王様は待つんじゃなかったの?」


なんだその嫌みのきいた言い方は。

ジロリと振り返る。

着替え終わったて、笑っているジュリアと目があった。


「なんだ?」

「えっ!いや…誰かにおはようって返されたのが嬉しいというか…」


そうだな。

小さな声で言う言葉に同じことを思っていたことは言わないでおく。


「居候だからな」

「嫌みっぽいな。まあいいや。ルーカス朝ご飯にしよう」


ご飯の用意されたテーブルに飛び乗る。


「なんだこれは?」


目の前にはミルクの入った皿が置いてある。


「ミルクだけど」

「見ればわかる!じゃなくだな、我のご飯がミルクなのはおかしくないか」


普通の猫でもちゃんとした固形物を食べるぞ。


「あはは、やっぱり。朝はサーラが持ってきてくれるから。猫だからミルク?」

「昨日の晩はまだちゃんとしたやつがでてきたぞ。あやつが持ってきたのと違うのか?」

「昨日は私が厨房から持ってきたから。私のソーセージあげるから我慢してね」


ジュリアの皿にはパンとソーセージが一本しかのってない。

なんとも質素なことだ。


「いらん。それを食べたらジュリアの分がなくなる」


ジュリアは驚いた顔をしている。


「なんだ?」

「いや、意外とやさしい?」

「なんで疑問系なんだ」


ふふっと笑って誤魔化された。


「我は魔族だからな。人族とは違い食べなくても問題ない」

「でも人間を襲うわ」

「あれは魔獣だ。理性が乏しい。魔族が人族みたいにご飯を食べるのは、一種の趣味だな」

「ふーん、なるほど」


納得したのか、ジュリアはソーセージを食べた。我もミルクを舐める。

それにしてもこんなに少ない量でたりるのか。食べ盛りな年頃だと思うのだが。


「ねぇルーカス、あなた本当に魔王なの?」

「どういう意味だ?」

「だって、魔王って謀略無人っていわれてるのよ。人の嫌がることや恐怖に陥れることをたくさんやった。って伝承があるぐらいなのに。昨日会ったばかりだけど、そんな魔王には見えないわ」

「お前の目はどうなってるのだ。どっからどう見ても魔王だろう」


ジュリアは吹き出した。


「どっからどう見ても猫だけどね。まぁそういう意味じゃないんだけど…あっ、時間だからいかなくちゃ。ルーカス、あなたどうする?」


耳がピクリと動いた。

廊下の方から誰かがこちらに向かってくる音がする。


「誰かくるぞ」


ジュリアは慌てて、ミルクの入った皿と我を抱き抱えてベッドの裏に隠した。


「静かにしててね」


バン、ノックもせずドアが開く。


「時間になってもこないなんて、何をしているの?」

「おはようございます。まだ少し時間がありましたので」


ベットの角から除き込むと、そこには水色の髪の冷たい瞳の女性はジュリアを睨んでいた。


「言い訳は結構です。私が遅いといったら遅いのです」


なんだその理屈は。魔王でもしないぞ。


「申し訳ありません」


ジュリアは頭を下げる。それを見てムッとなる。

この女は何様だ。ジュリアは何も悪くないじゃないか。


「今日は私の娘、マリアーヌの記念すべき日なの。お前は絶対に表に来てはダメですからね。1日中裏庭でお掃除していなさい」

「かしこまりました」


女がドアを閉めて離れていくと、ベッドの上に飛び乗った。


「なんだ!あのいけすかない女は!」


ジュリアはこちらを向いて、クスッと笑った。


「私のお義母様よ。戦で出ているお父様が帰ってくるまでの家の主」

「なに笑っておる?」

「代わりに怒ってくれてるから」

「はぁ?なんでお前は怒らないのだ!」


冷静な対応のジュリアに腹が立つ。

親が子を召使いにしているのに、平然と受け入れている。

胸くそ悪い。


「親が子にあんな扱いするのは許せぬ」

「本当の母親じゃないからね。あの人は後妻なの。実の母親は私を生んですぐ亡くなったわ」


悲しそうな顔をしているジュリアを見て少し冷静になる。

ジュリアは鏡の前に立ち髪を結び始めた。


「それは…すまなかった」

「ん、大丈夫だよ。もう5年もこんな感じだし」

「5年もこんな扱いされとるのか!」


また怒りが増す。声に反応してこちらを見た。


「やっぱり魔王みたいじゃないわね」

「話をはぐらかすんじゃない。それに我は魔王だ」


近づいてきて我の頭をなでる。


「ありがとう。誰かが私の為に怒ってくれるって嬉しいことなのね」


気持ちよくて目をつぶってしまった。

目を開けると微笑んでいるジュリアがいた。


「でも私が反抗すると使用人達に危害がいってしまうのよ。それにこんな扱いされてても、一応バリアント家の長女だからね。使用人達を守るのも私の役目でしょ」

「お前はそれでいいのか?」

「いいかとかじゃないと思うの。私は私の役目をしているだけ」


笑みが消えて泣きそうな顔になった。


「役目を言い訳にしてこの扱いを受け入れてるわけか」

「受け入れなきゃやっていけないわ!」


少し感情的になってるジュリアを真っ直ぐ見つめる。


「ジュリア、それは自分を傷つけていることになるぞ」


ジュリアは我を一瞬睨んだかと思うと、ふーーと深いため息をして首を左右に降った。

今までもこうして怒りをおさえてきたのだろう。


「私のことはいいのよ…掃除しにいってくるわ。ルーカス、自由にしててもいいけど、見つからないようにしてね」


そう言って最後は距離を取るかのように、いってきますと、笑って部屋をでていった。

すべてを諦めてしまってる笑顔。他人と衝突しないように、自分の気持ちを押し殺すか。


ドアを見つめて少し経つと自分の仕出かしたことに気づいて青くなる。前足で頭をかかえた。


言いすぎてしまった…。


昔側近がよく言っていたことを思い出した。


「相手が隠しているのにズケズケと痛い部分をつくのはどうかと思いますよ」


またやってしまったようだ…。

これはまずい。

あやつに願いを言ってもらわないと、我は自由になれぬではないか。

なのに機嫌を損ねてしまった。



あーーーーよし、とりあえず謝ろう。



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