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一貢で語れる日本昔話  作者: ナンプラー
9/10

第九話

 昔々、ある所にお爺さんとお婆さんと孫娘がいました。

 おじいさん達の家系は京の街で名の知れた家財道具を売るお店をやっていました。


 そのお店には人が賑わう理由となる噂がいくつかありました。

 一つは家具はとても頑丈だということ。

 そしてもう一つの男性客が多くなる噂として、姿を見せない孫娘がそれはさぞ美人だという話で盛り上がっているのだ。

 誰も見たことがない娘の姿を見たいが為に遠路はるばるから買いに来る客もいるほどで、その噂から「家具屋のお姫様」と呼ばれる程でした。


 ある日、家具屋に一人の大物がやって来ました。当時の代の天皇が部下を侍らせて来店したのです。

 店主のお爺さんは恐る恐る一礼し声をかけました。


「これはこれは天皇様。未熟な私の店にご足労頂き頭が上がりません。どの様な要件でしょうか」


「実は噂を聞いてここまで足を運んだのだ。お主の孫娘、中々の麗しさと耳にした。良ければ一度お会いしたい」


 噂の内容を聞いたお爺さんは少し喜びはするものの困った表情で返答しました。


「お褒めの言葉誠ありがとうございます。……しかし申し訳ございません。礼儀のなってない娘でして。天皇様のお目汚しになってしまうかと」


「それでも構わぬ。一目見てみたいのだ」


 お爺さんとお婆さんは困りました。少し時間が欲しいと相談をしにその場から離れ、数分後また戻ってきました。


「天皇様のお頼みです。もう少しだけお待ちくださるのならお会いできます」


 話を聞いた天皇は家具屋の希望通りしばらく待ちました。

 そしてお婆さんが降りてきて言いました。


「大変お待たせしました。どうぞこちらへ」


 お婆さんに連れられて階段を登り、幕で仕切られた部屋の前に案内してもらうとお婆さんは幕をずらし部屋を開けました。


 何ということでしょうか。目の前には確かに、どんな女性も敵わないほどの見目麗(みめうるわ)しい女性が奥に騒いだているではありませんか。

 これには天皇も驚きませんでした。


 はい、驚きませんでした。

 あれだけ求めた美人の娘の姿。凄く素っ頓狂(すっとんきょう)なことを言ってしまえば彼の好みのど真ん中なのだ。


 だが驚かない。

 いや、それより別の事実に驚いていると言えば良いだろうか。


 彼が顔をひん曲がらせ、麗しの孫娘よりも気になったのは部屋のかほり。過度な甘さと、合わぬ渋み。数々の臭いが不協和音となって男の鼻をつん裂いた。そして何よりももっと酷かったのは……

 熟れたという表現が正しいか。数々の匂いが混じる中でも凄まじく感じる熟れた酪農(らくのう)製品。腐った卵の様な臭いが一番強く感じた。


「麗しい……が臭い! この部屋臭うよ! 何だこの香の乱用は、何故こんな馬鹿なことを!」


 そしてお婆さんは言いました。


「申し訳ございません天皇様。実はあの子、体臭が凄いのです。魅惑(みわく)に感じる匂いもあるのですがその強さがとんでもなく強烈なのです。そのせいで人に顔を見せることも少なくなりました」


「何だと?!……なるほど、お主たちが合わせたがらなかったのはそういうことか。絶世の美女はかぐわしい姫だったのだな。くぅ……もうこの臭いに耐えられん。すまぬ、金は置いていくので失礼するぞ!」


 そう言うと天皇は颯爽(さっそう)と去って行きました。


 後に家具屋のお姫様という噂話は、家具屋のかぐわしいお姫様という悪評に変わりました。


 因みにですが、天皇は臭いフェチなのでかぐわしい姫と結婚しました。






第九話 「家具屋姫」

 ー完ー

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