不老不死、教師を目指す
学園を案内してくれたレオナルドにお礼を言い、マリーは職員室に戻った。
よし、頭の中を整理してみよう。
この学園は、王族、貴族など、裕福な家庭の子どもたちが通っており、初等部・中等部・高等部と3つの棟に分かれている。
初等部は、7歳から12歳が在籍しており、7歳から10歳までの初等部A〜Dは1クラスずつ。
私が担任する、11歳の初等部Eと、12歳の初等部Dは2クラスずつあるらしい。
これから一年間、私は11歳の子どもたちに色々なことを教えていく。言葉、歴史、文化、経験、そして…魔法。
実は、魔法学は得意分野である。
「…優秀な教師は、中等部や高等部の教師として引き抜かれることがあるって聞いたけど…。」
…まぁ一年目だしな…。一年目のひよっこを引き入れようなんて輩はいないだろう。
今日からここが私の職場。
そう思うと胸が高鳴った。
「…っよし!!!」
マリーは頬をパンパン!と叩き、気合を入れた。
これから始まる自身の挑戦、401年目の人生のために。
不老不死になってから、あまり人目に晒されないようにしてきたーー気味悪がられるから。
それはそうだ。
何十年も何百年も姿が変わらないだなんて、そんなもの周りの人からしたら近寄りたくないだろう。
まぁ不老不死になる以前から、はたから見たら気味が悪い子ではあっただろうけど。
限りなく白に近い銀髪、白い肌、赤みがかった瞳。
そのどれもが両親とは似ておらず、あらぬ噂を立てられることもあった。
そのため22歳という年齢になっても、誰とも婚約を結ぶことはなかった。
両親はとても優しく、私には辛い事がなるべく無いようにと、計らってくれた。
しかし、私の身体が変わってしまってから、そんな両親もとうとう寿命で亡くなった。
哀しみに耐えられず、マリーは自室に篭り泣き続けた。
ある日、泣き疲れたマリーに、1人の使用人が苦い表情で声をかける。
「お嬢様、失礼を承知の上で、お話よろしいでしょうか。」
それは、長年この家で働いている使用人のジャックだった。いつもはもっと柔らかい印象のため、少し驚いた。
…ジャックが改まってする話って何かしら。
「お嬢様、私は成人してすぐ、この家に仕えるようになりました。数年後にお嬢様がお生まれになって、私どもも、それはそれは喜んだものでございます。」
「何が言いたいの、ジャック?」
マリーは、首を傾げてジャックに問いかける。
「まぁ、聞いてください。
お嬢様が倒れられたあの日から、お嬢様の容姿は変わっらず若くお美しいままです。しかし、外見だけではなく、中身も変わられません、依然として22歳のままなのです。」
マリーは、思い出す。
不老不死の身体となったあの日から、両親の優しさに甘え何もしてこなかった自分を。
老いを自身に感じなくなった私は、両親が老いていくことから目を背けていたのだ。
亡くなるその日まで。
自分のこれまでの生活が、急に恥ずかしくなり身体が熱くなるのを感じた。
ジャックはマリーの様子に気付き、少し笑ってから、諭すように話を続けた。
「気づいておられますか?みんな歳をとりました。
20歳で旦那様に拾っていただいた私も、もう70を過ぎました。他の使用人たちも同様です。みんなだんだんと歳を取り、土に還る。」
「ジャック…」
周りの人間の時は止まらない。
私は、大切な人たちを順に見送っていかなくてはいけないんだ…。
その寂しさから、マリーの赤い瞳に涙が溜まっていく。
「ジャック…私はどうしたら良い?これから先、一人でどうやって生きていけば良いの。」
「お嬢様。身につけるのです、生きていくための知識を。身を守る技術を。そして見つけてください、何か生きる目的となることを。
そうすれば、きっと…よりよい人生になるでしょう。」
ーだから、私は身につけた。
ありとあらゆる分野の知識を。
ーだから、私は身につけた。
剣術や体術などの技術、そして魔法。
それらを極めるのに300年以上かかってしまった。
ーしかし、400回目の誕生日を終えて、ついに見つけた。
生きる目的を。
400年を無駄にしない方法を。