顔合わせ
「はい、ではこちらにどうぞ。」
「…ありがとうございます。」
地味な色ではあるが上等な生地が使われているであろう、艶やかさがある正装。
そんな服に身を包んだ穏和な…しかし、目の奥には厳しい光を感じる、初老の男性に案内され、他の教師達が集まる職員室へと入る。
「き、今日からこの学校で働かせていただきます!
マ…マリー・ホーランドと申します!!
よろしくお願いいたします!!」
…噛んだ…。
私、マリー・ホーランドは今年から教師になった。
新社会人!ピチピチの22歳!!
…というわけではないのだ。22歳に見えるだけ。
なぜなら…私の身体の時間は、22歳の時に止まってしまったから。
そう、私は不老不死だ。
もう草木が生い茂り、花が満開になっても良い季節だというのに…私の22歳の誕生日は、極寒・豪雪・暴風の三拍子だった。
裕福な家庭に育った私には、盛大な誕生日パーティーが企画されていたのだが、異常気象で中止。
最悪な三拍子に加えて、最悪だったのは、誕生日であるにもかかわらず寝込んでしまい…
―起きたら不老不死になっていたことである。
当初は、異常気象の影響を受けて寝込んだと思われていたが、3日経っても1週間経っても回復しない娘。
そんな姿に耐えられなかったのか、両親がとんでもない手段に出た。
…伝説、伝承、魔法、超能力など、ありとあらゆる「病を治す」系のものに頼り始めたのだ。
人魚の肉、女神の涙…ほとんどは偽物だった。
しかし、あろうことか「本物」が混ざっていた。
私は意識がなかったため見ていないが、目が覚めてから両親や使用人たちに話を聞いた。
それは黒いローブを被った人で、ぶつぶつと呪い《まじない》を唱えて去って行ったそうだ。
そして、全回復。
だが、おかしなことにそれ以上の情報は得られなかった。
父は、妖艶な雰囲気の女性だったと言い(少し願望が混ざっているような気がするが)、
母は、爽やかで若い青年だった(少し願望が…)ということだった。
使用人たちも、老人やら少女やら言っていることは一貫せず、私は聴取を諦めてしまった。
そんなこんなで、自分が不老不死になってしまったことに気がつき…はや378年…記念すべき400回目の誕生日を終え、401年目の人生が始まった私は、今までの自堕落な生活を反省した。
この約400年の間には、本当にいろんなことがあった…。
でも…、それはまたあとで。
よし、教師になろう。
そう思い立ち、今に至る…。