6話. 零落のダンジョン
ダンジョンの支配者
七瀬一三が主人公のお話です。
ダンジョン。
それは数十年前、何の前触れもなく突如この世界に現れた謎に包まれた遺跡。
この世界の文明では説明できない
未知の資源や様々なお宝が眠り、
人々はこぞってその恩恵を求めた。
だがそれを守護するかのように
多くの危険な魔物やトラップが行く手を塞ぎ、
いつしかダンジョンは危険災害区域として人々に忌避されるものとなった。
命知らずの冒険者たち以外には。
彼らはロマンを求め、ダンジョンに挑み続けるのだ。
そして今日も冒険者達がダンジョンに挑む。
「ちっ、またモンスターの群れ…か」
休憩中リザードに襲われた。だが退路はある。
いつでも逃げるルートを確保して休憩するのが
一流の冒険者だぜ。
さて、退くか、それとも戦うか。
だが、俺が考えていた退路の道から大きな足音が迫ってきた。
「ハア、ハア、おや、バハモスさん。貴方もリザードマンの群れに追われていたのですね」
「…追われてたのはおめーだけだよっ、ロザリオ!!っていうかどさくさに紛れてモンスターを押し付けてくんじゃねえ!」
「これは失敬」
だが退路はまだあるぜ。
こういう事態に備えられるのも一流の…
「ま、待ってください~。僕たちもグンタイアリに追われてるんです~。巣をうっかり焼き壊しちゃって。助けてください~」
「あんた達、どきなさいよ!逃げられないじゃない」
これで退路は完全に断たれた。
ハァ、これもダンジョンの厳しさってやつか
戦闘狂の不良戦士 バハモス
一獲千金を夢見る金の亡者 税金のロザリオ
神童の魔術師 デネブ
魔女っ子 リザリー
だが、いずれも一癖も二癖もある冒険者達が一堂に顔を合わせた。
これならいけるぜ。
「ちっ、仕方ねえ。こいつは見せたくなかったんだがな。とっておきだ」
「ええ、私も私だけの真のお金の力を見せる時が来ました」
「ぼ、僕もこいつらを焼き殺すサポートします~」
「しょうがないわね。競争はやめ。ここは一時休戦と行きましょう」
「いくぞっ!!」
そうして冒険者たちはコテンパンにやられてダンジョン攻略競争から
ドロップアウトする事になるのだった。
「はぁ、今回もダメだったか。なんかいけそうな気がしたんだけどな~」
冒険者たちの奮闘と惨敗を見届けて私は頬杖を突きながら溜息をついた。
♢♢♢♦
私は七瀬一三という。
一度日本という地で死んで転生した転生者だ。
私を一言で言い表すのならば、”ぼっち”という言葉が相応しいだろう。
前世で通っていた高校では友達ができず、転生した今もそうなのだから。
だが、前世でぼっちと言っても今よりははるかにましだ。
前世ではなんだかんだで中学時代に一人親友もいたし、私はそこそこ裕福な家庭に
生まれたので両親にも愛されていた自覚はある。
だが今はどうだろう。
女神と名乗る女にこのダンジョンの管理人を押し付けられ、その制約として
この洞窟から出られなくなった。
そのせいで私は完全に世界から孤立し、友達どころか知り合いさえいない。
今ではぼっちを通り越してニート、いや一応働いているので、誰にも認知されていない究極のぼっちとでも言うべき存在になってしまったのだった。
今でも転生した時のあいつの顔を思い出すだけで怒りが湧いてくる。
「お悔やみ申し上げます。あなたは前世でなくなってしまったのです。」
奴はそう言って天使のような言葉遣いと振る舞いで現れた。
「…あ、わ、私死んだの…ですか?」
「ええ、そしてこの世界に転生してきました。貴方たちの世界で言う所の異世界転生というやつです。ですが安心してください。別世界のあなたがこちらの世界で生きる事は大変でしょう。特典として特別な力を差し上げますよ」
「ほんと?チート能力ってやつ?よ、よかったぁ」
今思えば困惑しているときに甘い話をいきなり持ち掛けてくる詐欺の手段のようなものだったのだが、
私は世間知らずのお嬢様だったようだ。
私は自称女神からその力を受け取ってしまったのである。
それはダンジョンをカスタマイズする力。
クリエイツと名付けた。
ダンジョンの内部で発動でき、ダンジョン内部を自在に操る事ができる。
この能力によりダンジョン内の宝を増幅、精製できるし、岩を動かしてトラップも作れる。
材料さえあれば強力なモンスターを作り出すこともできる。
「へ、へぇ、こりゃすごいわ」
ダンジョン内でクリエイツを使うために私は自らの精神とダンジョンを繋げた。
するとダンジョン内の様子が全て把握できた。
ダンジョン内部の全体図から意識を凝らせば小石の配置まで全てだ。
他にもできそうなことはまだまだありそうだ。
だがこの能力には一つの欠点があったことに私は気づかなかったのだ。
「あ、あれ?出られない」
ダンジョンの外に出ようとしたとき、見えない壁にさえぎられたかのように私は押し戻された。
「ちょ、ちょっと、どういう事?」
「すいません。この能力のデメリットについて説明を忘れていましたね。この能力を使用したら条件を満たすまで外には出られないんです。ダンジョンと精神が繋がっていますから。」
何言ってんだこの女。頭の中にソーセージでも詰まってんのか?
「は、はぁ?条件って何!?ってかだったらこの能力いらない。ここから帰して!」
「条件は簡単に言えばこのダンジョンのヌシを倒すことですよ。まあやめておいた方がいいでしょうね。今のあなたでは天地がひっくり返っても勝てないでしょうから」
「…冗談じゃないっ!!そんなこと」
「まあいいじゃないですか。ここは後々重要な拠点になると思うのですよ。世界を救うためのね。その為にどなたかダンジョンの管理人になってもらいたくて。
それにその能力は万能ですから。ここの中でなら何でもできますよ。貴方たちの世界で言う所の自宅警備員みたいなものです」
私はすかさずダンジョン内の岩の形を手のように変形させ、女神を捕まえる事を試みた。
脅迫して外に出してもらおうと考えたのだ。
だが、無数の岩の手が女神を襲うも女神を捕まえた感触はなく、逃げられてしまった
「くそっ」
ここから私の長いぼっちで引きこもりな生活は始まったのだった。
♢♢♦♦
2年後の現在
私はモンスターの群れにやられて倒れた四人組に目を向ける。
全員ほぼなすすべなくやられたな。こいつら。
やっぱり異世界人弱すぎ。
「皆。こいつら入り口に放り投げといて」
「「がうー」」
モンスターたちは私の命令通り冒険者たちを口にくわえてダンジョンの入口へと走っていった。
このダンジョンのモンスターは私の手作りだ。だから私の命令は何でも聞く。
こいつら返事はするし、従順なんだけど
愛嬌が感じられないし
何だかプログラムされたロボットを相手にしているように感じるんだよなぁ
せめて犬や猫のように愛らしい姿でも見せてくれれば、
私がこんなに孤独を感じる事もなかったんだろうけどね。
そう思いながらモンスターたちが
外からとってきてくれた木の実で作ったジュースを飲む。
ま、物資の調達とかやってくれるし何だかんだ便利だしいないと困るのだけどもね。
そんなことを考えている内にモンスターたちが冒険者送り届けの任務を終えたようだ。
さてと。今日の仕事も終わりかな。
腕を伸ばし、座りっぱなしで凝り固まった体をを伸ばす。さて、寝るか。
「あら、やっぱり優しいのね」
だが、そう考えた時
背後からこの世界で唯一の知り合いであり、
憎むべき相手である女の声がした。
ちっ、後ろから話しかけんな。あんたの事嫌いすぎて蕁麻疹出るわ。
「敗者をわざわざ助けるなんて」
「いえいえ。ここの支配者として当然のですよ~。女神の癖に救済してない人もいるみたいですけど。そんな事より何しに来たんですか。女神って仕事ないんですか?」
「あら?便利な能力をあげたじゃない。それに仕事というならここに様子を見に来ることがそうなのよ。まあ今日は別の理由もあるんだけどね」
こいつはいつも定期的にここに見たくもない顔を見せに来る。
最初はあらゆる手で拘束を試みたがどうもこいつは逃げるのが上手いらしく
毎回捕まえられない。
今は諦めて、確実に痛い目を見せる準備を整えるまで適当にスルーして置く方針だ。
今に見てろ。この腐れ外道女が!
いつしかすっかり女神は最初の女神の丁寧語をやめていた。
能力を譲渡し、私がここを管理するようになった今、
必要ないという事なのだろうか。
何にこのダンジョンを使うつもりか知らないがこのダンジョンはもう私のものだ。
誰にも譲るつもりはない。
「別の理由?」
「ええ。半分余興なのだけれども
何か面白いことが起きそうな気がするのよね。ここで。
それでしばらくここで様子を見させてもらおうと…あ、部屋借りるわよ。」
「ふざけないで!」
私は手をかざす。するとあたりの大量の岩が収束し、女神を押しつぶした。
…はずだったが、女神は岩を素手で受け止め、それを握りつぶしたように破壊してしまった。
化け物かこいつ。心の中でゴリラとでも呼んでやろうかな。
「いやだわ。大きな声出して。女の子がはしたない」
壊れた岩のがれきから澄ました顔で出てくる。やっぱり一筋縄ではいかないようだ。
「…ともかくあなたの部屋はないから」
「分かったわよ。じゃあ一層の初心者用ダンジョンのどこかに部屋を作ってくれないかしら。そこなら貴方の気を煩わせることもないでしょう」
「…ハァ、わかったよ」
このダンジョンは一層から五層までの地下構造になっており、今私がいる管理室は最下層の五層。
一層なら問題ないだろう。
さっきの岩攻撃を防いだことからも分かるように、
この女神は得体のしれない力を持っている。
憎々しいが無駄に争わない方が無難だ。
女神その辺を調査をした後、
もとい私の部屋でごろごろして
私の嫌そうな顔を見た後、
ご機嫌そうに一層に帰っていったのだった。
面白いこと…ねぇ。
絶対ろくでもないことだな。嫌な予感がするし、こんな異世界転生は嫌だ。
「もうここから出たーい」
私は叫んだ。
そのつぶやきは広大で深いダンジョンの中に虚しく消えていった。
♢♦♦♦
同時刻
モンスターにコテンパンにやられた税金のロザリオは目を覚ました。
「こ、これが…ダンジョンですか。な、なるほど噂に違わぬ地獄、冒険者の零落地と言われるだけはありますね。ですが、私には金の力がある。今に見ていなさい。ふっ、ふふふ」
♦♦♦♦
次の日
「へぇ…ここが零落のダンジョンか」
「暗そうですね~。明かり用のカンテラと、魔法具とあとお弁当とハンカチは持ちましたか」
「相変わらず母親のような奴よの。レイラ。じゃが心配はいらん。ここは今まで誰も踏破したことの無い難易度SSSの超危険地帯じゃ。お弁当など食っとる暇はないわい」
「そうですね。フーゲンさんの言う通り気を引き締めないと。でも楽しんでいこう」
「呑気なもんじゃの。これじゃから勇者は」
「え~。でも一番楽しんでるのは貴方じゃないですか~?ダンジョンマニアで有名な考古学者さん」
「フン。うるさいわい」
「ふふふ。素直じゃないんですから」
「まあまあ、とにかく、前人未踏破のダンジョンの攻略。俺たちが今日達成しましょう」
ここはSSSの超危険災害区域とされるダンジョン。
だが今日の挑戦者である彼らは
北の王国トップの戦士、“勇者”と
最高ランクSSSの冒険者の2人だ。
この後起こる未知の予感に女神は不敵に笑う。
勇者一行は一歩、冷たく暗い地に足を付けた。
前人未到、難易度SSSダンジョンの攻略が今始まる。
読んでくださりありがとうございます。
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