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ラスボスは女神様!?  作者: カモミール
1章.自称女神と天使な王女と転生者
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5話. 王国の姫の騎士

1章最終話です。ここまで読んでいただきありがとうございます。



内村優心はルフナと名乗る少年が去るのを黙って見ていた。


あんなに憎い相手だったのに

なぜ、とどめを刺さなかったのか自分でも不思議に思う。


殺すことにためらいはなかったはずだ。


ただ、彼の怯え切った姿を見ると一瞬、

ほんの一瞬だが躊躇(ちゅうちょ)してしまった


その隙にまんまと逃げられたしまったのだ。

俺は甘かったのだろうか。


そう思い、振り返ると突然、時が止まったように周りの動きが静止する。


「これは…」

「よくやりましたね」


背の白い翼を羽ばたかせて現れたのは白髪に白いドレスを着た紅蓮の目を持つ人物だった。


「お前は…俺に魔王討伐を丸投げしてったポンコツクソ天使!!」


「………」

天使に笑顔のまま頭を拳でぐりぐり攻撃された。


「誰が力をあげたおかげで助かったと思ってるのですか?このわたしでしょう」

女神が初めてマニュアルをやめた瞬間だった。


「…でも、結局カーラ姫を助けられなかった。お前が最初からこの力の事を説明してくれてれれば、全員助けられたかもしれない。そう思えば嫌みの一つも言いたくなる」


「…ごめんなさいね。あなたを試していたの。この力を使いこなすにふさわしい人間か」


何でもないことにように女神は言う。


「は?」


試す?そんなことでカーラ姫は犠牲になったっていうのか。


「ふ、ふざけるな!カーラ姫は俺なんかよりずっと素晴らしい人間で、俺なんかより生きるべき人で、そんな理由で犠牲になっていい人なんかじゃ」


「…あら、この短時間しか経ってないのにずいぶん褒めるのね。もしかして惚れちゃったのかしら?」

「なっ、別にそんなんじゃない。っていうかそんな話は」

「ふふっ。冗談よ。ごめんなさいね。それに…貴方は全員ちゃんと助けたみたいだけど」


「え?」


「向こうを見てみなさい」


俺は女神の言われるままに周りを見渡す。

すると信じられないものが目に入る。


「う、うーん」

そうかすかな唸り声をあげて起きるのは俺がさっき丸焦げにした盗賊だった。


「な、なんであいつが…」

あんな炎で焼かれて助かるわけが


「どうやら気づいていなかったようね」


天使があきれたように言う。


「あなたに授けた火の力は7炎色の妖精。7色の炎それぞれに別の能力があるの。

そして、貴方が今回見せたのは赤色と緑色の力。赤色は普通の火の力、そして、緑色は回復の炎。妖精の力は貴方の魂の思いに呼応して発現する。つまりあそこの盗賊がまだ生きているのは、貴方が殺したくないと心のどこかで願ったからってことかしら」


俺が盗賊を燃やした後、緑の炎で無意識に回復させてたってことか

「…じゃあカーラ姫も」


「ええ、もうすぐ目を覚ますと思うわ」


「そっか。よかった…よかった」


俺の命がけの行動はちゃんと意味があるものだったようだ。

二人の姫をちゃんと助けきる事が出来たんだ。


そうだ。


「そういえば、俺を試したって言ってたけど、なんでそんなことしたんだよ」


最初からきちんと力の使い方や

この世界について教えてくれたら


もっと楽にこの局面を乗り越える事が

出来たかもしれないのに。


「ああ、それはね。君という人間を見る為よ。お姫様二人が襲われている状況で命がけでそれを助ける人格者かどうか。それくらいの覚悟がないと魔王討伐なんて到底無理だからね」


「冗談じゃない。死ぬかと思ったんだぞ。というか俺があの場面で逃げるような逃げ腰だったらどうしたんだよ」


「さあ。どうなったかしらね。まあいいじゃない。貴方は転生者にふさわしい気高い覚悟を示した。その結果力を使いこなし、二人を助けた。文句なしの合格よ。今はね」


「今は?」


「言ったでしょう。7炎色の妖精だと。あと5色使いこなして魔王を討伐するまで命がけで戦ってもらうわ。おそらくその極限状態の中でしかあなたの能力は覚醒できないでしょうから」

さらっと笑顔でとんでもないこと言うなこの女神。

鬼畜か!


「いや、嫌だよ!さっきの12神将とかあんな怖ろしい奴らの全員倒さないといけないってことだろ?あんなのともう関わりたくない」


当然あんな思いはもうごめんだ。


だいたい試練とか、異世界での適性を見てたとか

俺の嫌いで前世で散々苦労した面接みたいじゃないか。

しかも命がけ。

絶対にごめんだ。


「俺は異世界に来たからにはのんびりスローライフを送るんだ」

「あら。そう。日本人っていうのは意気地がないのねぇ」

「…なんとでも言え」

「まあいいわ。貴方の性格上どうせ魔王軍とぶつかることになることは分かったから。その時は期待させてもらうわね」

結局この女の手のひらかよ。


要するにこの女は戦力が欲しいのだろう。

魔族を倒すための。

僕は戦いなんて望んでないのに。


「そうまでしてなんで魔王軍と僕を戦わせようとするんだ。この世界にも軍隊くらいいるだろう?」

「世界平和の為よ。この世界の魔族は強すぎる。だから、強い力を受け継げるあなた達転生者が戦わなければ平和は訪れない。魔族にいずれ滅ぼされるでしょう」

「だから転生者を酷使するのか?僕たちは違う世界から来た。この世界には関係ない」


「…でも私たちにとってはやっぱり貴方たち転生者に英雄になってもらうしか道はないの。悪く思わないでね」

「やっぱり貴方は信用できない」


当然だ。この女は僕を見ていない。

力を使いこなせる人材が欲しかっただけなのだから。


「そう。でも信頼なんて関係ないの。貴方がこの世界で生きる為には、結局魔王軍を倒すしかないのだから。ふふっ、それじゃこれからもよろしくね」

何を言っても無駄らしい。


「そうか。でもこれだけは覚えとけ。僕はお前の思い通りにはならない」

僕の言葉に女神は微笑み、去っていった。


どうあっても女神は魔王軍を僕に倒してもらいたいようだった。

なんで異世界に転生してまで命がけで戦わないといけないのか。

もしかしたらそれはわざわざ命がけの試練を与えようとしてくる

この女神のせいではないだろうか。


というか確実にそうだ。

今すぐ担当の女神を変えてほしい。


やっぱりこんな異世界転生は嫌だ――――。帰りたい。


僕はそう思うのだった。


****

*カーラ姫視点



カーラ姫が目を覚ました。


「う…ん、あれ、私は」

私は確かルフナという少年にやられたはずでは?

だが、切られたはずの背中を見ても傷はなかった


「姉さまっ!」


ジェシカ姫が泣きながら抱き着く。

「うっ…うっ…よかったです。もうだめかと」

「ジェシカ…」


まだ幼い妹はさぞかし怖かったことだろう。

母が死に彼女にとって私の存在は大きな心の支えだったはずだ。


愛しい妹を優しく抱きしめてなでた。


「あの、傷は全て直しておきました」

そう言って手に緑の炎を(とも)したのは、ユウシンと名乗った

私たちを助けてくれた青年だった。


「ユウ、シンさん…」


「立てますか?」

そう言って彼は手を差し伸べてくれた。


「え、ええ。ありがとう」


その手を掴んで起き上がる。


その後しばらく沈黙が続いた。

先程、もう死ぬからと交わした迫真のやり取りだったが、

助かってみると

なんだかすごく恥ずかしいわ。


思ってること全部言っちゃって。

ユウシンさんに一体なんて声を掛けたらいいの?


だが、見るとユウシンという青年も同じようにいたたまれないといった面持ちで

顔を背けている。


確かに彼もすごい剣幕で私に死なないでくれっていいってくれた。

その事に嬉しさを感じつつも、

私と同じなんだなと思うと思わずクスッと笑ってしまう。


その笑いにユウシンさんが戸惑ったような顔をしたので

コホンと咳ばらいをし、カーラは言った。


「ユウシンさん。改めてこの度は私たちを助けて頂き、本当にありがとうございました」

「はい。いや、でもすいません。結局あのルフナって魔族には逃げられてしまいました」

「逃げられてしまったなら仕方のないことでしょう。命があるだけでも感謝しきれません」

「いえ、俺はあの魔族を逃がしてしまったんです。とどめが刺せなかった。あの魔族がこれからまたあなたたちを狙ってくるかもってなんとなく分かってたのに」


「…そう、ですか」


確かに私たち王族としては12神将の魔族はできれば倒してほしかった。


今後彼がルフナを逃したことで生まれる被害もあるだろう。


だが、それはきっと彼の他者を思いやれる優しさの結果なのだろうな。


私たち姉妹を勇気を持って救ってくれたように


それならば、

その気持ちを尊重したい。


そう思いカーラは言う


「確かに、貴方はあのルフナという魔族を滅ぼすべきだったのかもしれませんね。ですが何が正しいかということは分からないものです。貴方のその甘さともとれる優しさがいずれ良き方向に世界を導くことだってきっとあるのでしょう。ですから貴方はそれでいいのだと私は思いますよ」

「……」

彼はうつむいた顔をしている。

ルフナを逃してしまった事を後悔しているのだろうか。


真面目なんだなと思う。


「ユウシンさんには迷いがありそうですね。では一つ提案があります。私のどうか専属の騎士になっては頂けないでしょうか。そこで、あのルフナというものが襲ってくるのならば、貴方が守ってください。そして、私だけでなくこの国の、いえ世界の多くの人々を救ってくれませんか?」


「えっ!? いいんですか。俺たち初対面なのに」


「はい。いつ出会ったかは関係ないです。私が貴方の勇気が欲しいと、私と共に人々を導く手助けをしてほしいと、そう思ったのです。ですから、私の下で貴方の力を存分に振るってください。その中で…ユウシンさんのある種甘さとも取れる決断が正しかったのかどうか、きっと分かるはずです」


少し強引だったでしょうか。

確かに彼の強さを見込んでの提案でもありますから、

疎ましく思われてしまったのではないでしょうか。


でも、私は彼の甘さも間違いではない。

そう思ったから、お願いしているのですが、

ちゃんと通じたでしょうか。


不安に思い、


ユウシンを見ると何か面食らったような顔をしている。

だが、それは次第にとても嬉しそうな顔に変わった

のだった。


ふふっ、事情は分かりませんが、とても嬉しそう。

可愛らしい方ですね。 


「謹んで…お受けさせて頂きます」

ユウシンさんは言った。


「改めて、私はこの世界の中央の国。アルトゥムナ王国の姫、カーラ・レイカーネと申します。どうぞよろしくお願い致しますね」


そう言って私はにっこりと笑い、新たな騎士、ユウシンと握手を交わしたのだった。




――――――

*優心視点


結局、あの女神の言うように俺は魔王軍を相手にする立場に立ってしまったのだった。


まぁいいか。

なんやかんや異世界でようやく念願の職に就く事が出来たし。


今までの就活を思い出す。


僕は人の事を考えて行動する事が好きだったから、

その心情をアピールしてきた。


でも、受からなかった。


そのうちに僕はそれから自分を取り繕ってでも

実績をなにより重視するようになった


でもそうすると、今度は自分ってものが見えなくなって。

いつのまにか、僕という存在が見えなくなっていった気がした。



だから、僕の心をカーラ姫が一番に評価してくれたことが

何よりうれしかったんだ


カーラ姫の提案はあの女神とは違う。

どちらにも魔王軍と戦うことを望まれた。


でも、あの自称女神は僕の事なんて見ていない。


その事がさっきのやりとりでなんとなくわかった。

戦力が少しでもほしかっただけだ。


でも、カーラ姫は人々だけじゃない。俺の事も思って親身に提案してくれた。

多分俺がルフナを逃がしてしまったことを悩んでいたことも見抜いて…


この人の下で働くなら何を企んでいるか分からないあの女神より何倍もいい。

同じ魔族と戦う立場で働くのだってさ。

騎士も悪くないかもしれない。





そう思えるだけで十分この世界で

楽しく生きていけそうだと、


僕は心の底から思えるのだった。





優人君のこのお話は一旦ここで終わりです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ユウシン君たちの出番が今後あるかは内緒です。


ここまで読んで

もし少し気に入っていただけたのであれば


下にある☆☆☆☆☆から、

率直な評価をくださると

とても参考になりますのでぜひお願いします。


また、先が読みたいと思って頂けたのであれば、

ブックマーク。

何か気になる事や気づいた事があれば

感想など

気軽にアクションしてくてくれると作者の大きな励みになるので

とても嬉しいです。



次話からひとりぼっちのダンジョンの支配者の話が始まります。

そちらもお楽しみに。

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