3話. 魔王軍12神将 溺水のルフナ
「きゃああああ」
ジェシカ姫が悲鳴を上げた。
僕やカーラ姫も驚き、
元凶だと思われる小柄の男を見る。
「じろじろ見ないでくれないかなぁ。屑みたいな人間を一人殺しただけじゃないか」
その人物はそういってローブのフードを上げた。
その下は水色の髪に碧眼の中性的な顔をした少女だった。
目はぱっちりとしていてあどけなさのある少女のような整った顔。
こんな状況でもなければ、ほほえましく遊んでいるような姿がイメージできる少女だった。
そんな感想を持った時、その少女はムッとした顔で話しかけてきた。
「お前ら、今女だと思っただろ。僕は男だぞ。…まあいいさ。自己紹介してやろう」
そう言ってその人物はこちらを一瞥してから言う。
「僕は魔王軍12神将が一人、溺水のルフナ。カーラ・レイカーナ姫様、ジェシカ・レイカーナ姫様。あんた達の死神さぁ」
何でもないことのように少年はそう言った。
さっきの盗賊の首を切断した時といい、この少年のかわいらしい容姿が
逆に怖ろしく感じる。
「魔王軍12神将。父から聞いたことがありますわ。魔王直属の部下で最高幹部。
魔王討伐の最大の障害!
そんなあなたがなぜ私たちなんかを?」
カーラ姫が言う。姫の言葉でなんとなく目の前の少年がこの世界でも相当上位の実力者なのだと分かった。ここは隙を見て逃げるべきだろうか。
「とぼけても無駄だよ。君たちには王族の姫だけが受け継ぐという特異能力があるんだろ。放っておけば将来的に厄介になるから始末しとけって魔王様にも言われてるのさ」
「どうしてそれを…」
え?
特異能力なんて持ってたの!?この娘達。
それを使って逃げられないのかな
「苦労したよ。君たち王族はめったに帝国外に出てこない。それに、余計な復讐心で人間側の軍の士気が上がってしまうのも避けたい。だから盗賊団の王女誘拐計画に乗って秘密裏に君たちを暗殺する手はずだったってわけ。そして…」
彼が手をかざすと無数の魔法陣が展開され、水の矢が形成される。
「その任務はこれで完了だね。安らかに死んでよ。アクア・アロー!」
彼が魔法名を言うと共に数十もの強力な水矢がものすごい勢いで放たれた。
「はっ!」
僕は急いで炎を最大温度に設定して火の壁を展開する。
火に触れた水矢は全て水蒸気となり、
残った炎は周りの木を全て燃やし尽くした。
「やば!やりすぎた。助かったけどまだ加減が難しいな」
僕は急いで火を消す。火を消したり出したりの調整もできるようだ。
「ははっ。すごいね。お兄さん。僕の水魔法をよりによって火で消すなんて。
しかも無詠唱。いや、そもそもそれは魔法なのかな?」
「さあ?僕もよく知らないまま預けられた力なんでね。でも、この力でお前みたいな奴相手からでも守れる」
「ふうん。・・・今のを防いだだけでいい気なものだね。でもさぁ、人間風情が調子に乗らない方がいいよ」
「”フラッド カタストロフィ”!!」
そういってルフナは次の呪文を唱えた。
すると、さっきの水の矢とは比べ物にならないほど大きな魔法陣が展開され、そこから
大量の水が洪水の濁流のように襲い掛かってくる。
「ちまちました攻撃がだめなら、質量で押しつぶせばいいだけさ」
ルフナは得意げにそういった。
「大量の水攻めで溺死させる。これが溺水のルフナの由来。とくと味わってね。姫さまぁ」
これは…まずい。
出し惜しみなく最大温度で最大火力の炎を繰り出す。
ジュウウウウウッと鈍い音がして大量の水が蒸発する。高火力で蒸発しきれるか微妙だがやるしかない。
「やるね。でも…まだまだよ」
さらにルフナは魔法陣を3つも展開した。すると、大量の水が追加された。
な、なんだって!?
やばい。やばい。やばい。
このまま火 対 水の耐久戦を続けて勝てるだろうか。
いや無理!
逆転の目が見えない。
僕は可能な限り炎に力を籠める。
「くそっ」
なんか心なしか疲れて気がする。
だんだん力が抜けてきた。自覚はないけどMPとか消費してるのかも
「ぐっ…くっ」
炎を維持しようとすればするほど息苦しさが増す。
一方で水の勢いが徐々に強くなる。力を得ても俺の身体能力は一般人のまま。逃げる手段もない。
「くそっ」
ここまでか…
っていうかこいつ序盤の敵の癖に強すぎない?
普通異世界転生なら最初はさっきの山賊とか簡単に倒せる雑魚敵にしてよね
前世で死んでから体感一時間くらいしか経ってないのにもう走馬灯浮かんできた。
もうだめだ。
こんなところで死ぬなら異世界転生なんてしたくなかった!
でもこうなったらせめて姫様達には今のうちに逃げてもらうしかない。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
僕は力の限り炎に力を籠めようと叫んだ。
でもむなしくもそれは大量の水によってかき消される。
「くっ、くっそおぉおお」
もうダメだ。俺が諦めかけた
その時だった。
「どこのどなたか存じませんが、勇気ある御方。私たちにも助力させてください」
カーラ姫が俺にささやき、肩に手を触れる。
するとジュワァっと音がして
僕の炎でたちまちあたりの水は蒸発し、
水は全て跡形もなく消え去ったのだった。
「え?なんで」
だが、僕以上に奴の方が大きな衝撃を受けたようだ。
「なっ、なんで!?こんな…ありえない。僕の最大威力の水魔法だぞっ!!」
さっきまで涼しい顔をしていたルフナが
初めて動揺を見せた。
「これがあなたがおっしゃっていた私の能力ですわ。相手の能力と私が触れたものの魔法属性の相性を反転する能力、
弱者の反逆」
「…なるほどね。そういうことか。それが王家に伝わる世界の理を覆す力ってやつか。確かに怖ろしい力」
「ええ。今はこの程度ですけれども…」
そう言ってカーラ姫は俺と目を合わせる。
「それでもこの方と共になら、貴方にだって勝てる!!」
なるほど、そういうことか。
僕ら姫に言葉に頷き、手のひらに炎を灯し、一歩近づいた。
ルフナはそれに合わせるように一歩退く。
勝った!僕はそう思った。その時
「ふっふふふ、こんな時の為に保険をかけておいて良かった」
ルフナはニヤリと邪悪な笑みで笑う。
俺は背後に蒸発しきらず、
背後に散らばる水が集まっていることに気づかなかった。
超高速で噴射された水は鉄をも切断するという。
初めに盗賊の首をスッパリ切り落としたのもその力だった。
そのわずかな水は俺の首に向かって高速で噴射された。
だが、それに貫かれたのは僕ではなかった。
「危ない!!」
そう叫んで俺を突き飛ばしてくれた
カーラ姫の背中を水の刃が切り裂いたのだった。
彼女はそのまま糸の切れた人形のように地面へ崩れ落ちた。
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