1話. 転生者
一章、転生者奥村優心君の話始まります。
女神パートは一旦終わりです。
女神は出てくるけど。
眩い光に目を開ける。
そこには大きな草原が広がっていて、俺はそこの中心に寝そべっていた。
僕は…どうしたったんだっけ。
心地よい光と爽やかなそよ風が少しずつ
僕の意識を覚醒させた。
そっか。
思い出した。
僕はあの時トラックに轢かれて…
少しずつ記憶を掘り起こすように、
ここに来る前の事を振り返った。
僕は就活浪人中の大学生だった。
名前は奥村 優人
その日はちょうど面接の日。
だが、面接の手応えを感じられず、
意気消沈してトボトボと歩いていた。
今まで、100社もの企業を受けても一次面接すら
通らず、そうなって来ると自分に
自信がなくなり、
自分の生きる意味はあるのか疑問に思って
しまうほど重症な時だった。
そんな意気消沈の時
少女が道路に飛び出てしまい、そこに一台のトラックが迫っていた。
少女は遊んでいたボールを道路に転がしてしまった
ボールを取るために道路に飛び出したようだ。
トラックは突然の事で少女をかわしきれない。
この状況、僕が助けないと少女が死んでしまう。
そう思ったら体が勝手に動いていた。
僕は少女を突き飛ばし、気づいたらこの草原にいたのだった。
そうか、僕は死んだのか。
なのに、草原の上にいる。
ここは天国なのだろうか?
それとも、ワンチャン小説とかでよく見る異世界転生というやつか?
目覚めたら知らない場所でしたなんて
如何にも異世界転生のテンプレって感じだもんな。
僕は自分の身に起きている状況の可能性を
模索するが、考えるまでもなくその答えはすぐに僕の目の前に
現れた。
「お目覚めのようですね」
そこに現れたのは真っ白なドレスを着た、髪も真っ白な白髪の美少女だ。
髪はロングで腰のあたりまで伸びており、頭には輝かしいティアラを付けている。
そんな中で唯一燃えるような紅蓮の目は、
彼女の異質な存在感を引き立たせている。
正直得体が知れない。慎重に質問する。
「あなたは…どなたですか?ここはどこなんですか?」
「私は貴女を導く女神。あなたは前世で死んでしまったのです。しかし、おめでとうございます。あなたの魂は肉体ごとこの世界へと生れ落ち、異世界転生が成功しました。よって貴方はこの世界で第二の人生を送る事ができるのです」
「なんで僕が?もしかして、生前の行いが良かったとか?それとも皆んな死んだら異世界転生するんですか?」
「そうですね。そういう細かいことは置いておいて」
「え、あの、ちょっと」
「そんなことより、貴女にはこの世界を生き抜く為の得点が与えられます。そうですね…」
吟味するように天使を名乗る女はジロジロと俺を見る。
「なるほど、貴女にはこれがいいでしょうね。火、水、草の大精霊のうちどれかあなたが好きな精霊を行使する能力与えましょう。貴女に相応しい相方を選んでくださいね」
さっきからわざとらしい笑みがなんか怪しいなぁ。
それに、質問に答えてくれないのかな。
有無を言わさぬ強引な感じというか、なにか急いでいるのかな。
「あの…質問に」
「さぁ。選んでください」
女神と名乗った人物は答えるつもりはなさそうだった。
それに、なんだかさっきから会話が一方通行でマニュアル通りの文言を
聞いているような気分だな。
だが今女神以外頼れる人がいない。
しょうがないし、俺は答えた。
「火、水、草ってポ○モンの御三家みたいだな。じゃあ火の精霊。強そうだし、ロマンある」
なんで火かって?
ポケ◯ンのゲームをやってる奴の中でもいるだろう。
特に考えず、格好良さそうとかいう理由でほのおタイプを選ぶ人。
俺も同じ感覚で選んだのだった。
「火ですね。分かりました。では火の精霊を貴女に授けましょう」
「ああ、ありがとうございます」
「これを授ける代わりに貴女に頼みたいことがあります。この世を我が物にしようとする魔王を倒してください。これから貴女にはかつてない大冒険が待っているでしょう。数多くの困難もあるでしょうが貴女ならきっと乗り越えられます。頑張って」
へ?魔王?冒険?
いや確かに力をもらう代わりに魔王を倒すって
定番だけど
いきなりそんなこと言われても覚悟が
しかし、それだけ言うと女神は天へと
去っていってしまった。
「え?ちょっ、ちょっと。まだ承諾してないんですけどーー!っていうか魔王ってなに!?そんなのと戦いたくないんですけど――――――――!」
僕は大声で叫ぶが、その叫びも虚しく、
その後いくら待っても女神が戻って来る事はなかった。
****
その後本当に女神が戻ることはなく
僕は仕方なく行動を始めたのだった。
「フンッ」
僕は力を込めてみたが、
火の精霊の力は全く感じられなかった。
「本当に火の精霊なんてくれたのかあいつ?説明くらいしとけよなぁ」
独り言で愚痴を漏らした後、しばらく考え、僕はどこか街を見つける事を決めた。
お金は当然ない。
どんな文明があるかもわからない。
まずは街に行き、その辺の調査、あわよくば仕事の斡旋してもらうとこから始めないと。
でも僕は就活でも全然うまくいかなかったのに
仕事なんて本当に…
失敗し続けたトラウマがよみがえる。
考えるのは辞めよう。そもそも
よく考えたら、食料もないし普通に現状超ヤバいんじゃない?
「これ下手したら餓死なんて事もあり得るんじゃ」
急いで行動を開始する。
とにかく最悪街を見つけられなくてもいいから
早く人を見つけるんだ。
僕は急いで草原から森へと進んだ。
森を進む中、声が聞こえた気がした。
やった。人だ。助けて貰おう。
そう思って僕はその声の元に向かった。
だが、遭遇したのは予想していないピンチだった。
「さぁ、命がおしけりゃ金目のもんを置いて行けよ。お姫様」
盗賊と思われる奴ら3人、
大柄な奴おじさん2人と小柄な奴1人いるようだ。
全員茶色の小汚いローブをかぶっていた。
その為、小柄な男の方の顔は見えない。
その男達は女の子2人を襲っていた。
え~。いきなりこんな状況?
さっきの交通事故といい、僕って最高についてないんじゃ。
「お、お止めになって下さい。お金ならいくらでも渡しますからジェシカの…妹の命だけは」
「カーラ姉様。辞めて。お願い。私が犠牲になるから。だから姉様の命を助けて!!」
お姫様というだけあって姉は高そうな衣装など、高貴な家柄を思わせるものを着ている。
だが、それ以上に行動一つ一つの所作から高貴な身分なんだろうなと感じた。
女の子は頭を丁寧に下げ、胸につけたダイヤのネックレスや通貨を全て出した。
「なるほど。流石に高価なもん持ってやがる。これだけありゃ酒が何杯飲める事やら」
まさに、異世界転生のテンプレみたいな展開だ。ここで本来ならチート能力を持った主人公が助けに入り、華麗にお姫様2人を助ける。
そして、もしかしたら姫様と恋仲に…
だが僕にそんな力はない。いや、あるのかも知れないが、あの女神は全く使い方を教えてくれなかった。
あのポンコツマニュアル女神が!
だけど、金銭を渡したんだし、盗賊もこれで納得してくれる。
何もできないことは歯がゆいけど、
このまま盗賊が去って姫様達の命が助かるのならば
それでいいはずだ。
だが、僕のそんな期待はあっさりと裏切られる事になる。
「さて、これでお前らに用はねぇが…
俺らの事を王様にチクられても面倒だ。
ここで死んでもらうぜ」
「そ、そんな。金品なら渡したじゃありませんか。あなた方には慈悲の心は無いのですか」
「悪いなぁ。顔を見られた以上生かして返すわけにはいかねぇんだわ。だろ?2人とも」
「ああ、その通りだぜ。恨むのなら王族に生まれた運命を呪いな。ヘッヘッヘ」
フードの小柄な人物もこくりとうなずく。
盗賊達の返答にお姫様2人は絶望の表情をしていた。
相手はお姫様の言う通り慈悲の欠片もなさそうな盗賊。
こうなっては何を言っても無駄だろう。
2人は殺される。なんとかして助けないと。
だが、僕に一体何ができるのだろう?
力もない。出てったって殺されるだけだ。
手が震えている。
僕には向けられていないが
経験したことの無い悪意への恐怖か。
それとも…
「悪く思うなよ。死ね」
盗賊の1人が刀を抜き、2人に斬りかかろうとしている。
そんな時、
絶望を乗り越え、震えるジェシカの前に出て、庇うように手を広げる姉のカーラが見えた。
「諦めてはいけません。逃げて!せめて、少しでも遠くにっ」
勇敢にカーラは最後まで妹のジェシカを守ろうとする。
「!?」
その盗賊の卑劣な悪意にも最後まで負けんとする
凛とした姿に僕は胸を突かれるような衝撃を受けた。
「……」
カーラって女の子は強い女性だなぁ。
それに比べて僕は。
自分の命欲しさにこんな最悪な悪事を見逃そうとするなんて。
そう言えば優人って名前は
人を助ける優しい人になりなさいって意味で
名付けてもらったんだっけ。
だったら。
「ちょっ、ちょっと待てぇ!!」
僕は慣れないながらも震えながらも
力一杯叫んだ。
「悪く思うなよだって?悪く思うに決まってる。最悪だよ。そんな自分勝手なくだらない理由で殺されちまったらさ」
「あ?誰だお前。これからがいいところなのによぉ。それとも、お前も一緒に死にたいのか?」
恐ろしい顔で盗賊達がこちらを見てくる。
人を殺める事をなんとも思っていない目だ。
だが僕は怯まずに続けた。
「死にたくなんか無い!2度とごめんだ。ただ卑怯者共から女の子を助けるだけだ!!」