0.1話.運命の日
それはある少女にとって運命の日。
少女は少女の兄、ユリウスが勤めている西の国に遊びに来ていた。
「ごきげんよう。お兄様」
スカートの裾をたくし上げ、足を片方後ろに回して挨拶をする。
習ったばかりの作法だがうまくできたわ。
そう思い、思わず笑みがこぼれそうになる。いけない。いけない。
ちゃんとしなくっちゃ。
だが、そう思った矢先バランスを崩してしまった。
足を後ろに回す動作が中途半端だったようだ。
「きゃ」
手をついて転んでしまった。
「…」
思わず顔が真っ赤になる。敬愛するお兄様の前で私ったらなんて失態を。
「ふふ。ああ。こんにちは。アリス」
しばらくの沈黙の後
私の兄、ユリウス兄さま苦笑し、優しくそう言った。
「も、申し訳ありません。兄さまの前でこのような失態を」
「いいよ。まだ習ったばかりなんだろう。僕の前ではなれない礼儀作法を気にしなくてもいいんだよ。でも社交界にでるまでにはマスターしないとね」
ユリウスお兄様はしゃがんで私の手に頭を当てて優しく撫でてくれた。
「それより、アリス。今日は一緒に庭を回らないかい?今日のために手入れをしておいたんだ」
「まぁ!それは楽しみです。あ、でも」
母上の方を見る。
頭に手を押さえ、呆れたような悩ましいような仕草をされていたが、
「今度みっちりマナーのお稽古をしますからね」
と言っておくりだしてくれた。
普段は厳しいけど、なんだかんだで母上は優しいのだ。
久々の兄様と2人きりの時間。
庭園には色とりどりの花が咲き、私たちを祝福するようだった。
お兄様と二人で庭を歩く。
楽しい。
「アリスが好きなお茶とお菓子を用意したんだ。向こうで一緒にたべないかい?」
「ええ。もちろん」
一通り美しい庭を鑑賞した後、庭園の中に用意されていた椅子に座り、
優雅なティータイムを楽しんだ。
「兄様が王都に居らず、アリスは寂しいです」
「ごめんよ。だけど僕はこの国でやらないといけないことがあるから」
「ええ。アリスは心得ております。ですから今日だけは、妹としてたっぷり甘えさせて頂きますからね」
その後もお茶を飲みながらユリウス兄さまととりとめのない会話を楽しんだ。
楽しい。
こんな日々が未来もずっと続くものだと、
そう思っていた。
だが、破滅はなんの前触れもなく訪れた。
突然轟音が鳴り響いたかと思うと、庭園に火の手が上がった。
鮮やかな庭は一瞬で火の海へと変わっていった。
「きゃあ」
爆風に飛ばされて転倒する。一体何が起こったの?
「アリス!」
兄様がかけよって手を貸してくれた。
立ち上がろうと、顔を上げる。
「え」
私は絶望の足音が私の命にゆっくりと近づいてくる気配を感じた。
大量の魔族が黒い翼を羽ばたかせ、空から国に攻め入ってくるのが見えたのだ。
「うおおおおおおぉおお」
魔族の怒声が聞こえたかと思うと、街に不気味な静寂が流れた。
だが、その静寂も数分もすると終わり、
たちまちそこら中から悲鳴が聞こえてきたのだ。
魔族にやられた人々の悲鳴だ。
私はこれから起こる出来事に恐怖した。
その日、西の国イーシアは滅ぼされた。
そして、それは長きにわたる魔族と人間の戦争が始まりでもあった。
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