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無口な西洋人形  作者: 鎌勇
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4.工事現場から

 これは、七月二十日の夜のことです。その日は、普段なら午後八時までには家に帰ってくる兄がまだ帰宅していませんでした。

 

 私、川田琴葉(かわたことは)は私立の中学校に通っている学生で、父と母が長い間仕事の関係で海外へと出張しているため現在、私は今年で十八歳になった兄と二人で暮らしています。私の兄は、午前中は卒業認定をもらうために通信制の高校の授業を受け、午後は私と二人で生活するための食費やらを稼ぐために土木作業をするバイトをしています。

 そして、今日は午後九時を過ぎても兄はまだ帰ってきません。そんな時、兄から自宅に設置してある受話器に電話がかかってきたのです。

 兄からかかってきた電話の内容がどのようなものだったのかというと、今日の帰宅時間が遅れていることに対しての説明でした。どうやら、仕事を行うために向かった先の現場にて機会の不具合が発生しているらしく、今日中に終わるはずの作業も終わらなくなってしまったのだとか。

 ともかく、私は兄が家に帰ってくるまでの間、明日の学校の支度等を行い有意義な時間を過ごせるようにしました。


 時刻は午後十一時を過ぎた頃。ガチャリ・・・という玄関の鍵を開ける音がしました。そのすぐ後には、何かをぼそぼそと呟く兄の声が聞こえてきたのです。そんな兄の声は、とても疲れているようで、同時にすすり泣くような低音も聞こえてきたのです。

 それから間もなくし、私は帰宅したばかりの兄の様子が心配になり玄関まで出迎えに行きました。そこで私は兄に対し、バイト先で何か嫌なことでもあったのかということを尋ねてみたのです。

 しかし、私の質問に対して兄は、ただ疲れているだけだ、というようなことしか言わず、それ以上のことは話さないまま広間のテーブルに置いてあるサランラップのかかった私自慢のオムライスを電子レンジで温めて食べ始めてしまったのです。

 その後も、兄との気まずい雰囲気になっていたのですが・・・風呂から出てきた兄は、

「そうそう。今日さーおもしれーもん手に入れたんだよ。だから、お前にやるよ・・・」

 そう言うと、バイトに毎回持っていくカバンの中から片方の腕がとれた人形を取り出したのです。

「おっ、お兄ちゃん、どうしてそんな人形(もの)を持って帰ってきたの?」と、私。

 そんな私の言葉に対し兄は笑いながら、

「なんか知んねーんだけどよ、バイトから帰る時にカバンの中のぞいたら、いつの間にかこの人形があったから、めんどくせ~って思いつつも、そのまま持って帰ってきたってわけ」

 そんなことを言われても、私は、もしこの兄が持ってきてしまった人形が(いわ)くつきの代物だったらどうしようか、というようなことしか考えられませんでした。

 また、兄が持ってきた人形の特徴はというと、瞳は透き通った緑色、髪の毛は茶色、右腕が根元からもぎ取られたようで民族衣装のようなものを身に纏ったセルロイド系の樹脂でつくられた男の子の西洋人形。比較的新しめの年代に誕生したものだろうということは予想できるものの、私は人形全般に対して微塵も興味がありませんでした。そのため私は兄に、

「そんな薄汚い人形、どこかに捨ててきてよ!」

 と、強い口調でお願いしたのですが兄は全くといっていいほど聞く耳を持ってくれませんでした。

 そんなこんなで、兄の持って帰ってきた人形は必然的に私の部屋に置かざるを得なくなってしまったのです。

 そして・・・その時の私は、まだ兄の持ち帰ってきた人形が私たちの家庭をかき乱すことになるとは知る由もなかったのです・・・・・・。

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