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無口な西洋人形  作者: 鎌勇
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3.あなたの傍で

 これは、私の大切にしている家族同然の人形、私が生まれた時から現在まで一緒に過ごしてきた西洋人形にまつわる不思議な出来事について書き記したものです。

 まず、その人形の特徴としては、赤みのかかった茶色の髪、瞳の色がターコイズブルーで少し丸っこい顔をした女の子。人形(この子)と私の初めての出会いは、今から十九年前の三月二〇日でした。その日、私は生まれたわけなのですが、その際には、もうすでに人形は私の傍にいたのです。

 どういうことかと言うと、私がこの世に生を()ける二週間ほど前くらいから私の祖母がフランス旅行に出かけていて、その記念のお土産として現地の人形専門店で見つけた子(人形)を買ってきたらしく、それを私の誕生祝いとしてくれたということなのです。

 そういうわけもあり、私が生まれてから今まで、人形と一緒に暮らしているのです。そして、不思議な現象が起こり始めたのが約一カ月前からであり、当初は全くと言っていいほどまでに気にもかけずにいました。しかし、つい一週間くらい前から段々とエスカレートしてきたようなのです。


 ここからは、実際にどんなことが起こっていたのかも踏まえて記していきます。

 だいたい一カ月くらい前のこと。私は現在(いま)でも大切な人形をベッドの枕元のランプの横に置いておかないと眠ることができないといった体質のためそのようにしているのですが、朝になり起床すると正面を向かせておいたはずの人形が僅かに右斜め前の虚空を見つめているかのようなポーズになっていたのです。そして、少しばかり窓を開けていたということもあり私が寝ていた間に、その隙間から入ってきた風によって人形の向きが変わってしまったのだと考えていたので何も不思議なことはないと感じていたのです。

 そのため、誰かに相談することなくそのまま二週間、三週間と日にちが経過していったのです。ところが、先にも書いたように一週間ほど前からは、これまでとは少し異なってきたため『大まかなことは気にしない主義の私』でも気がかりになっていたのです。

 夜、誰も彼もが眠りにつく頃。私はベッドの枕元のランプの横に正面を向くようにして人形を置くのですが、朝を迎えると正面を向かせておいたはずの人形が一八〇度回転した方向を向いていたり、私が目を開くとその(となり)で同じ布団をかぶっているといったようなことが起こるようになっていたのです。

 これらは、私の寝相が悪いとかどうのいう問題に関係なく生じていることだと思っています。その根拠を証明できるものはどこにもありませんが。ただ、高校二年生の時の修学旅行の際、私は朝まで布団のシーツ等をずらすことなく熟睡していたため私の寝相のせいで人形が落ちてきたということは考えづらいはず・・・なのです。

 このような現象(こと)の起きた原因として当時の私は三つの仮説を考えたのです。一つ目は、窓から侵入してくる風の影響を受けているためというもの。しかし、実際に窓を介して風が入ってきていたとしてもこのような事が発生するというのは考えづらいのです。

 そのように断定できるのは、窓が開いているとはいえ私の指が一本何とか通せるほどの隙間しかないためです。したがって、この仮説は不採用となります。

 二つ目は、祖母の()のようなものの影響を人形が受けたというもの。この仮説は非科学的であり演繹法を用いての証明もほぼ不可能。だが、長年に渡り大切にされてきた物や古めかしい物などには持ち主等の思いがこもり、時として宿(やど)る。そんな風ないわれに基づいた考えを今回の仮説には取り入れていた。そして、これについては。やはり証明のしようがないため一旦保留とすることにした。

 三つ目は、私の母or(もしくは)父が私の寝ている間にこっそりと人形を移動するという悪戯(いたずら)をしているというものになるのだが・・・それについては双方に確認するまでであった。その結果、母と父のどちらからも私の部屋に無断で侵入するようなことはないといったような事を言われたのです。

 そうして、仮説の一と三は自動的に選択肢から除外され消去法として二つ目の考えを採用せざるを得なくなってしまったのです。勿論、熟考すれば他にも仮説になりそうなものが見つかるとは思うのですが正直なところ、ここで出た三つしか思いつきませんでした。私の考えが未熟だったあまりに・・・・・・。


 それからというもの、これといった実害が発生することこそなかったものの夜、私の枕元から近い距離にある人形は朝になり起床すると私の顔の真上に乗っかっていたり・・・本当に様々なことがあり驚かされるばかりでした。

 その何日か後のこと。母の姉にあたるという人から自宅に連絡がありました。その内容は、私にとって驚愕するものとなっていたのです。私に西洋人形をくれただけでなく高校を卒業する前まで気にかけてくれた、優しかった祖母が現在、病院で入院している状況であるということを知らせるものになっていたのですから。

 しかも、母の姉曰(いわ)く現状を考慮しても(あと)、四日間もつかもたないかといった極めて危険な中に()かれているのだそうです。

 それ以降、私と母は母の姉から教えられた病院へと足を運んでは限られた面会時間の中であったものの、お見舞いとやらに行きました。その都度、母は悲壮感にあふれた表情を滲み出して祖母に何かを言い聞かせていました。それでも、祖母は重い瞼を開ける気配はなく無言のままでした。

 私からすれば、いつも元気だった祖母が亡くなるかもしれないという今の状況を飲み込めておらず、悲しいとかいう感情よりも先に祖母が大変な状況下にあるという事実を母の姉は、こんなになるまでどうして教えてくれなかったのか、もっと早く伝えてくれなかったのはどうして・・・そんな疑問が独り歩きをしているようでした。


 最初に祖母の見舞いに行った日から四日が経ちました。その日は私たちがお見舞いに行ったとき奇跡的に祖母が小さく目を開き「今まで世話になったね。有り難う」と最期の言葉を細々と告げたのです。

 そうして、祖母は私たちに温かく見守られている中で彼岸(あの世)へと旅立っていきました。

これは、後で母の姉から聞いた話なのですが、母の姉も祖母が入院しているといった知らせは、私たちに伝えられた二日前に祖母と同居する弟から電話で伝えられ、そこで初めて事の重大さを認識したらしい。さらには、祖母が入院し始めたのが約一カ月前からであったのに、連絡してきたのは容体が急変してからだったのです。

 祖母の弟の、彼なりの配慮だったのかもしれませんが、できることなら入院してからなるべく早くに教えるべきだったと私は感じています。

 祖母が入院することになった原因としては、庭先で趣味の園芸をしていた際に脳の動脈瘤が破裂することによって生じる『くも膜下出血』が発生してしまい救急車で病院に運ばれてから手術を終わらせ、その後は経過観察も含めての入院することになったのだとか。

 無論、結果としては完治することはなく祖母が亡くなってしまったのですが。


 一方で、不思議な現象に悩まされていた人形はというと、現在では朝になっても何ら変化のない普通(ただ)の人形。そして、このことは私の勝手な推測でしかないのですが、祖母が入院し始めたのが一カ月前ほどのことであり人形に異変が見られるようになったのも一カ月前。それでいて祖母が亡くなってしまってからは何もおかしなところを見せない人形。そんなことより、もしかしたら祖母の身に何かが起こっていたことを暗示してくれていたのかもしれないと思っています。

 もしくは・・・・・・。


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